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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第二章 トレーニング編

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#117 分岐点

俺は、さっきの虹矢の魔法の残滓を目で追いながら、ほんの一瞬だけ考えた。


(……火はともかく、氷も雷も希少属性だよな。

 鉄も……まあ土属性の派生って言われりゃそれまでだけど)


普通なら、そこに何かしらの“狙い”や“意図”を疑うところだ。


でも――


(いや、こいつがそこまで考えて撃つわけないか)


さっきの顔を思い出して、すぐに結論は出た。

あれは計算じゃない。才能の暴発でもない。


ただ、不安定で、無意識なだけ。


魔力が追いついて、制御が追いついてない。

それだけだ。


沙羅先生の合図で、演習は次の段階に入った。


「ここからは自由練習。

 威力、速度、命中、数量――

 自分の課題を意識して撃ちなさい」


途端に、演習場の空気が変わる。


単発で重い魔法を叩き込むやつ。

連射で数を稼ぐやつ。

詠唱を削って速度に振るやつ。

ひたすら的の中心だけを狙うやつ。


みんな、自分なりの“伸ばし方”を探している。


俺は腕を組み、その光景を眺めていた。


——そして。


魅亜の前に立つ、的に目がいった。


彼女の掌から生まれる“丸い火”が、回を重ねるごとに形を整えていく。

揺れが減り、色が均一になり、輪郭がはっきりしていく。


(……安定してきてる)


はっきり分かるくらい、良くなっていた。


「魅亜、今日すごくない……?」


瑞翔が、ぽつりと言う。


「さっきより、ずっと綺麗だよ」


理紅虎も素直に感想を漏らす。


「おおおっ!?

 魅亜ちゃんの火、なんか“プロ”みてぇだ!!」


虹矢の言葉は雑だけど、的は射てる。


俺は腕を組んだまま、小さくうなずいた。


「……やっぱ本来強ぇんだよ、魅亜は。

 安定し始めたら、止まらねぇな」


魅亜は自分の掌を見つめて、小さく、確かめるように笑った。


「うん……

 なんか今日は……怖くない……」


——その瞬間。


パチン、と乾いた音がした。


空気が、一気に張りつめる。


沙羅先生が指を鳴らした音だった。


「今よ」


「……え?」


魅亜が戸惑った声を出す。


沙羅先生は真正面から魅亜を見据えた。

声は鋭い。でも、冷たくはない。


「あなたの火が“暴れない”今。

 トラウマを完全に払拭できるのは、この瞬間だけ」


(……来たな)


瑞翔が息を呑むのが分かった。

理紅虎も、思わず一歩引いている。


沙羅先生は、さらに一歩踏み出した。


「私が見ている。玲磁くんもいる。

 何が起きても止める。

 だから今だけは——」


一瞬、間を置いて。


「思う存分、全部出しなさい。

 あなたが一度も許されなかった“最大出力”を」


魅亜の呼吸が、目に見えて乱れた。


「……こ、怖いよ……先生……」


沙羅先生は、はっきり首を横に振る。


「怖がっていい。

 でも、逃げないで。

 あなたの火は“誰かを傷つけるもの”じゃない」


そして、まっすぐに告げる。


「——あなたがずっと否定してきた“あの日”を超えるための力よ」


俺も一歩、魅亜の横に立った。

拳を握る。


「魅亜」


声は、できるだけ普段通りに。


「お前、火を嫌って生きてきたんじゃねぇだろ。

 “怖いから”って、蓋をしてただけだ」


魅亜が、俺を見る。


「本気で向き合えば、お前の火は絶対暴れねぇ。

 だって……」


俺は、少し笑った。


「魅亜の火は“優しい火”だって、

 今日、何度も見たから」


その言葉で、魅亜の目がわずかに変わった。


怯えだけじゃない。

覚悟が、混じる。


「……うん。

 やってみる……!」


沙羅先生が、風の結界を張り巡らせる。

演習場全体を包み込む、制御の陣。


「来なさい、魅亜さん。

 最大出力——開放」


——ここが、彼女の分岐点だ。

沙羅先生が無意識に玲磁を信頼していることがわかるシーン。

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