#115 時の奔流
沙羅先生が全体を見渡してから、静かに言った。
「……みんな、それぞれ確実に成長しているわね」
視線が瑞翔で止まる。
「瑞翔くんも、最小魔力量の調節を忘れていない。前に言ったこと、きちんと守れているわ」
瑞翔は小さく会釈するだけ。
相変わらずだ。
——そして、その視線が俺に移る。
「……問題は、貴方ね」
(来たか)
「やっぱり次は俺ですか」
「ええ。玲磁くん。
時魔法を“攻撃技”として、あの標的に当てる想定はできている?」
一瞬、演習場の空気が変わる。
「……時属性、使っていいんですか?」
クラスの視線が一斉に集まるのを感じた。
沙羅先生は顎に指を当て、ほんの一拍だけ考えてから言う。
「時魔法は解禁するわ。
ただし——」
その目が鋭くなる。
「暴走させないこと。
魔力は、必ず抑えなさい」
(それなら話は早い)
俺は一歩前に出る。
合研部でも、何度も使ってきたやつだ。
派手さより、制御と汎用性を重視した——
<時の奔流>
掌の上に、白とも黒ともつかない円盤が生まれる。
時間の層を薄く削り取ったような、不安定な輪郭。
そこから、さらに小さな円盤状のショットを切り離し、
標的へ向けて放つ。
音は、ない。
ただ、空間が一瞬だけ“歪んだ”。
ショットが当たった瞬間、
標的は——銀色に染まった。
ざわ、と空気が揺れる。
沙羅先生が、はっきりと目を見開いた。
「……これは……見たことがないわね」
近づき、銀色の標的を観察する。
「時魔法なら、何色に染まるのか楽しみにしていたけれど……
今は、それ以上に“魔法そのもの”が興味深い」
俺は肩の力を抜いて説明する。
「相手の命を奪わずに、無力化できます。
感覚的には……みね打ちみたいなものですね」
「……なるほど」
沙羅先生はゆっくり頷いた。
「暴走させず、ここまで制御できている。
このまま継続しなさい。油断だけはしないこと」
「分かっていますよ」
その瞬間、気づいた。
——クラスメイト全員が、完全に見入っている。
魅亜は、ぽかんと口を開けたまま。
「すごい……
時属性って、こんな魔法もあるんだ……」
理紅虎は短く息を吐く。
「……やっぱ、規格外だな」
瑞翔も珍しく、率直に言う。
「……あれは、普通じゃない」
遥花は拳を小さく握りしめ、
(私も……)と、決意を目に宿している。
そして——
「くっそー!!」
虹矢が叫んだ。
「俺だって! 俺だってやってやるからな!!」
(……いい反応だ)
俺は内心で苦笑しながら、
銀色に染まった標的から視線を外した。
——第二章は、もう静かに始まっている。




