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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第二章 トレーニング編

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#112 夜明けの火

目が覚めたあと、もう一度眠ろうとは思えなかった。

あの夢の続きを、見たくなかったのかもしれない。


メモ帳に走り書きした文字を閉じ、俺は静かにベッドを抜け出した。

瑞翔はまだ眠っている。規則正しい寝息。起こす理由もない。


(……夜明けの風、浴びるか)


赤ノ寮を出ると、空は薄く青みを帯び始めていた。

夜と朝の境目。世界が一度、深呼吸する時間。


校舎の外を少し歩き、中央広場に差しかかったときだった。


ベンチに、誰かが座っている。


(……あれ)


赤色のショートヘア。

小さく揺れる炎色の魔力。


「……魅亜?」


こちらに気づいた彼女が、ぱっと顔を上げた。


「玲磁くん、おはよう!」


「おう。……朝から元気だな」


「うー、なんかそれ、ちゃん付けって年下扱いされてるみたい」


確かに。

元気で、明るくて、どこか妹っぽい。


佐々峰家の三女。

自然と、そういう距離感になってたのかもしれない。


「魅亜でいいよ!」


「おう。じゃあ魅亜。……朝早いな」


「うん。たまにね、昔の夢見て、目が覚めちゃうんだ」


——夢。


胸の奥が、少しだけ反応した。


(……奇遇だな)


「昔のって……もしかして、あれか」


「お姉ちゃんから聞いてた?」


魅亜は、膝の上で手を握りしめる。


「そう……あたしが、小さい頃の夢」


そこから彼女は、ぽつぽつと語り始めた。


火が暴走したこと。

家が燃えたこと。

泣き叫ぶ声と、焦げた匂い。


それ以来、母親が“火”を恐れ、嫌悪するようになったこと。

そして——


「火はダメだって。

 使うなら、他の属性を覚えなさいって……」


魅亜は小さく息を吸い、手のひらを開いた。


水の球が、ふわりと浮かぶ。

次に、石の塊。


「だから、色んな属性を使えるの。

 玲磁みたいに、器用じゃないけど……」


「……」


「お母さんに、認めてほしかったから」


俺は、ゆっくりと言葉を選んだ。


「魅亜は……ちゃんと頑張ってたんだな」


「ううん」


彼女は、首を振る。


「あたし自身も……火が、怖いの」


乾いた笑い。


「えへへ。たぶん、みんなにはもうバレてるよね」


一瞬、魔力が揺れた。


「でも、この学校ではさ。

 先生も、玲磁も、みんなも……

 あたしの火を、否定しない」


魅亜は、朝焼けを見つめる。


「だから……もっと、強くなりたい」


俺は、気づけば黙っていた。


魅亜と、こうして二人きりで話すのは、ほとんどなかった。

いつも隣には遥花がいたり、クラスメイトがいたり。


でも——

努力してる姿は、ちゃんと見てた。


少しずつ、少しずつ。

魅亜の火は、確実に大きくなっている。


「焦らなくていい」


自然と、そう言っていた。


「火は……怖くなるくらい、強い力だ。

 でも、魅亜はちゃんと向き合ってる」


「……っ」


次の瞬間、魅亜の目から涙が溢れた。


「……うっ……」


そして、そのまま——

俺の胸に、ぎゅっとしがみついてくる。


「お、おい……!」


「今だけだから!」


声が、震えている。


「年下扱いするなって、言ったじゃん……」


「……分かったよ」


俺は、そっと彼女の頭に手を置いた。


朝の冷たい空気の中で、

小さな炎が、静かに揺れている。


「……今日だけな」


そう言って、ゆっくりと撫でる。


第二章は、

“力を得る物語”じゃない。


——恐れと、正面から向き合う物語だ。

ここから第二章の開幕です。

楽しんでください。

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