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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第一章 入学編

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#111 時の忘れ形見

「じゃ、そろそろ戻るか」


皓が立ち上がり、頭の後ろで手を組んだ。


「この時間まで同じ部屋にいたとかバレたら……」


「沙羅に“一時間説教”は確実だな」


陶之介が淡々と続ける。


「あの人、嗅覚だけで俺ら見つけてくるからな」


「だろ? だから帰るわ」


皓は軽く笑って、瑞翔の方を見る。


「瑞翔、悪かったな。狭かったろ」


「別に。慣れてるよ」


瑞翔は穏やかに答え、少し間を置いてから付け足す。


「……気を付けて帰りなよ」


「おう! また明日な!」


陶之介は軽く手を上げるだけで、先に扉を押し開けた。

二人の足音が廊下に吸い込まれていく。


——そして、部屋に静けさが戻った。


「……ふー。やっと帰った」


思わず本音が漏れる。


「賑やかだったね」


瑞翔が小さく笑う。


「でも……まあ、あれはあれで悪くないよ」


「お前、皓の突発的な雷より落ち着いてるもんな」


「比較対象がひどいよ」


ふたり同時に、小さく笑った。


この空気が、妙に心地いい。


「……じゃあ、俺らも寝るか」


「うん。おやすみ」


灯りが落ち、部屋が暗闇に沈む。

布団に潜り込み、身体の力を抜いた瞬間——


意識が、急激に落ちていった。


⸻


◆夢──10000年前の“日本”=西暦2025年


――ガタンッ!

――ピピピピピ!!

――キキィィッ!


「……っ!?」


耳に、意味のわからない音が一気に流れ込んでくる。

眩しい。うるさい。情報量が多すぎる。


「……なに、ここ……?」


見渡した街は、異様だった。


建物は四角く、空を突き刺すように高い。

地面を、巨大な鉄の塊が信じられない速さで走っている。


「建物が……四角い。高っ……!?」


喉が勝手に鳴る。


「なんだよ、あの鉄の塊……速すぎだろ……

 本の中にしか出てこない“車”ってやつに、そっくりじゃねぇか……」


人々は、皆なにかに追われている。

腕には小さな輪。

手には、薄くて四角い、光る板。


それを見ながら、せわしなく歩いている。


「……“時間”ばっか見てる?」


すれ違いざまに、声が耳に入る。


「やば、遅刻!」

「あと5分で会議入るんだけど!」

「電車、時間通りで助かる〜!」


「……なんだ、それ……?」


胸の奥が、ざわつく。


ここは——

“時間”に追われる世界。

“時間”を測り続ける世界。


時魔法ですらない。

まったく別の、“時間の使い方”。


ふと見上げると、巨大な光の板が空中に浮かび、映像を流していた。


【世界地図】

【12の国際会議】

【アメリカ】

【中国】

【インド】……


「……世界?」


言葉が、喉に引っかかる。


「国って……こんなに、あったのか……?」


今の時代——西暦12025年。

俺の知る“世界”は、日本ただ一つだ。


なのに、この夢の中の世界は、

日本以外の国で、埋め尽くされている。


(……だとしたら、なんで……?)


胸の奥が、冷えていく。


(なんで今の世界には、日本しか残ってない……?)


次の瞬間、映像が切り替わった。


【???:環境異変予測】

【???:生態系の変質】

【???:未知エネルギーの異常値観測】


(……嫌な、感じだ)


その直後——

世界全体が、揺れた。


巨大な振り子が、街も空も人も、すべてを薙ぎ払ったように。


「ッ……!!」


視界が、白く弾ける。


そして——声。


『時の忘れ形見よ——』


身体が、凍りつく。


『いずれ、戻る時が来る。

 “世界が失ったもの”を取り戻すために』


「……誰だ……?」


問いかけても、返事はない。


ただ、はっきりとわかった。

この世界は——

“未来に繋がる破滅”を、内包している。


光が、すべてを飲み込んだ。


⸻


「——ッ!?」


勢いよく身体を起こす。

息が荒く、額から冷たい汗が落ちる。


見慣れた天井。

赤ノ寮の部屋。


「……夢……?」


喉が渇いている。

胸の奥が、まだざわついている。


このまま放っておいたら——

この感覚は、霧みたいに消える。


「……忘れる前に、書く」


机に駆け寄り、白いメモ帳に走り書きする。


・見たことない町

・時間を気にする人間

・腕の時計?

・四角い光る機械

・車

・日本以外の国

・世界地図

・“戻る時が来る”と言われた


書き終えて、ようやく呼吸が落ち着いた。


振り返ると、瑞翔は変わらず、静かな寝息を立てている。


(……なんだよ、あの夢)


答えは出ない。

けれど——


胸騒ぎだけは、確実に残っていた。

ここまでで、第一章が終幕となります。


ここまでご愛読ありがとうございました。


引き続き、第二章をお楽しみください。

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