#109 悪ガキ侵入者
廊下を歩きながら、俺は軽く肩を回した。
今日は本当に情報量が多すぎる。合研部、生徒会長の加入、氷時計、沙羅先生との合体魔法……頭の中がまだざわついている。
(今日はさすがに寝たいな……)
部屋に戻って、瑞翔と少しだけ喋って、そのまま倒れ込む。
それが理想だった。
——でも。
扉の前に立った瞬間、空気が違う。
(……重い)
肌にまとわりつくような圧。
雷が唸り、闇が沈殿している。
(雷と……闇。二つ。いや、三つか)
嫌な予感しかしないまま、俺は扉を開けた。
「ただいま——……って、お前ら何してんだよ」
視界に飛び込んできたのは、完全に出来上がった構図だった。
部屋の端で、瑞翔が体育座りに近い姿勢で固まっている。
反対側には皓がどっかり腰を下ろし、
さらにその奥、背もたれに体を預けるように陶之介。
……揃ってるじゃねぇか。
「……勝手に入ってきた。鍵、かけとくべきだった」
瑞翔が低い声で言う。
「おお玲磁。遅かったな?」
皓はいつも通りの調子だ。
「時間の使い方だけは派手だな、お前」
陶之介は腕を組んだまま、淡々と。
「褒めてるのか貶してるのか、どっちだよ」
「どっちでもねぇ。事実だ」
即答かよ。
瑞翔だけが、ちょっと気まずそうに視線を逸らしている。
「で……なんで俺の部屋にいんの?」
「ほら! 今日ほとんど別行動だったろ?
だから“報告会”しようって話になってさ!」
「俺そんな制度作った覚えないんだけど」
「制度ってほど大層なもんじゃねぇよ」
陶之介がちらっと俺を見る。
「お前がいねぇと、退屈なんだ」
「理由が雑すぎるだろ!」
瑞翔がぼそっと呟いた。
「……普通、俺の許可は取ると思うけど」
「瑞翔の許可は……取らずに入った!」
「知ってるよ」
淡々と返す瑞翔に、陶之介が横目を向ける。
「霞。お前の邪魔をしたいわけじゃねぇ。
落ち着いてるやつが一人いると……部屋が壊れずに済む」
「なんで俺が安全装置なんだよ」
「お前、装置扱いされてるぞ」
「人間扱いはしてる。ギリギリな」
「ギリギリってなんだ」
そのやり取りを聞きながら、皓が机を指差した。
「あと瑞翔、この飴もらった」
「許可してない」
「返す気はないぞ」
「……返さなくていいよ」
(瑞翔、ほんと大人だな……)
俺は鞄を床に置きながら、改めて三人を見渡した。
「……まあいいや。
で、結局何しに来た?」
「だから! 今日の話を聞きたい!」
「“聞き取り”だな」
陶之介の声は低い。
「お前の動きは、一応仲間として把握しときたい」
「聞き取りって……俺、容疑者か?」
「じゃあ“調査”でいい」
「変わんねぇよ!」
「まあ……お前の一日は確かに普通じゃないからな」
瑞翔まで言い出す。
「瑞翔まで疑う側かよ……」
「で? 合研どうだった?」
皓が身を乗り出す。
「また派手にやったんだろ?」
「今日は大人しかったって! 二属性だけだ!」
「“だけ”って言う時点で信用できねぇ」
「三属性は?」
「やってない!」
「今日は、ね」
「瑞翔!!」
皓がひょいと俺のベッドに倒れ込む。
「でもさ、玲磁は危ねぇからな。
見張ってやらねぇと」
「ま、悪ガキトリオってのはそういう関係だろ」
陶之介の言葉は、やけに自然だった。
「……今日一番安心するわ、その言い方」
瑞翔が小さく笑う。
「……まあ、勝手に入ってきても、
空気が悪くなるわけじゃないしな。
俺も……慣れてきた」
「な! 瑞翔も仲間だな!」
「仲間かどうかは知らないけど……
まあ座れよ、玲磁」
俺はベッドの端に腰を下ろす。
陶之介が、腕を組んだまま言った。
「今日の話、全部話せ。
お前の行動次第じゃ、俺らの動きも変わる」
「お前……ほんと不良のリーダーみたいな口ぶりだな」
「リーダーはお前だろ。
俺らが勝手に支えてるだけだ」
その言葉は静かで、
でも、不思議と胸に残った。
(……ああ)
赤ノ寮のこの部屋が、
今日一番、落ち着く場所だ。
こうして——
赤ノ寮の一室で、
“悪ガキトリオ+1”の夜が、静かに始まった。




