#107 最強の助っ人
校庭を抜ける夜道。
さっき拳を合わせた余韻が、まだ腕に残っている。
昴は少し前を歩きながら、どこか落ち着かない様子だった。
「……お前と話すとさ、本当おかしくなるわ、俺」
「いいじゃん。正常だと逆に怖いし」
「お前に正常扱いされたら終わりなんだよ……」
他愛もないやり取り。
夜の静けさが、そのまま俺たちの距離を包んでいた。
――その時だ。
空気が、ぴんと張りつめた。
「……風、変わったか?」と昴。
俺は足を止める。
「いや、これ風じゃない。
“空気そのもの”が動いた」
次の瞬間、
白い布が闇を切り裂くように、俺たちの前を横切った。
金色の瞳。
それだけで、夜が凍りつく。
鷹波右京――生徒会長。
その隣には、栗色の髪を揺らす高円寺六華。
この二人が並ぶだけで、場の格が一段上がる。
「あら。天竜に、篝火。こんな時間に珍しいわね」
「げ、生徒会……」
思わず声が漏れた。
「待て、なんで“げ”なんだよ……!」と昴が即ツッコミ。
右京は足を止め、静かに俺たちを見る。
「合体魔法研究部。
今日は二属性の再試行をしていたな」
……やっぱり、全部把握されてる。
「……聞いてたんですか」
「ええ。
それにあなた、校内で“巨大氷時計”なんて作っていたでしょう。
知らない方が難しいわよ」
「……玲磁、お前ほんと、もうちょい加減を……」
「いや俺も最初はやる気なかったんだけどさ。
先生に指名されて……」
六華がくすっと笑う。
「薬草学の宇賀神先生を驚かせる一年生なんて、初めて見たわ」
右京は腕を組み、淡々と核心を突いた。
「君たち、三属性合体の“暴走”を抑える方法を探しているな?」
「まぁ、はい」
昴も続く。
「正確には、暴走を防ぐ“安定軸”を……」
――その言葉を、右京は遮るように、ぽつりと落とした。
「……空なら、その“軸”になれる」
「?」
「え?」
右京はそれ以上、何も言わない。
六華が呆れたように、右京の腕を小突く。
「今の、あなたの考えでしょ。
言わないの?」
「言う必要はない」
「あるわよ。
だってあなた、合研部のこと気になって仕方ないじゃない」
右京は露骨に目を逸らした。
昴が小声で囁く。
「(あの会長……意外と分かりやすいな……)」
俺は、思わずニヤッとした。
「会長。
やりたいなら言ってくれていいんですよ?
俺ら、先輩だろうが後輩だろうが大歓迎なんで」
「……言っていない」
「じゃあ私が言うわ」
六華が一歩前に出る。
「右京。
生徒会長じゃなくて、“魔法使いとして”
合体魔法研究部に入ったら?」
「え、ガチ?」
「……いやでも会長だぞ?」と昴。
六華は肩をすくめた。
「だから“特別監督生”よ。
名目上は一年の部に所属。
責任は生徒会側が持つ。
お互いに都合がいいでしょう?」
「監督生……」
頭の中で一瞬、規則を組み立てる。
「なるほど。確かに、それなら筋は通る」
右京はしばらく黙っていたが、やがて短く言った。
「……三属性以上の安定化に、空属性は干渉できる。
検証は、してもいい」
「つまり入部ね」
「……入部とは言っていない」
「はいはい。でも“明日から部室行く”とは言ってるわよね?」
「…………行く」
「素直でよろしい!!」
「おい玲磁、会長にそのテンションは……」
六華は満足そうに頷く。
「決まりね。
鷹波右京は、合体魔法研究部の“特別監督生”。
顧問は沙羅先生。
生徒会が全面サポート。
活動の自由度も引き上げるわ」
「……まじで?」
「すげぇ話が一気に進んだな……」
右京は改めて、俺と昴を見た。
「期待はしていない。
だが——失望もしないと約束しよう」
「どっちだよそれ!」
「会長流の“楽しみにしてる”だろ」
「正解」
六華が微笑む。
夜風が吹き抜ける。
立場も学年も違う五人が、同じ場所に立っていた。
この瞬間、合研部は
とんでもない“超大物”を迎えた。
――そして、鷹波右京の加入は、
後に語られる“合体魔法革命”の、確かな序章だった。




