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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第一章 入学編

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#105 青春の幼なじみ

沙羅先生は時計をちらっと確認すると、いつもの落ち着いた声に戻った。


「じゃあ私は会議があるから、ここまでね」


そう言って、さっきまでの嵐みたいな気配が嘘のように、さっと部室を出ていく。

……切り替えが早すぎる。さすがだ。


見学組の莉亜と蒼南も、それに続いて帰ることになった。


「今日は十分楽しませてもらったわ」

「また呼んでよ。次は安全第一でね」


軽い冗談と一緒に扉が閉まって、部室にはいつものメンバーだけが残る。


俺は机を元に戻しながら、ようやく肩の力を抜いた。


――そのとき。


「……ねえ、玲磁くん」


明日香が、箒を持ったまま声をかけてきた。


「沙羅先生との合体魔法も凄かったけど」


一度、言葉を切る。

何を言いたいのか、なんとなく分かる気がして、俺は手を止めた。


「薬草学の授業で作った、あれ」


「ああ……氷の時計塔か。

 制御が甘くて、先生に怒られたやつ」


そう返すと、明日香は小さく首を振った。


「でも、あの魔法は凄かった」


その言い方は、やけにまっすぐだった。


「鴇任(ときとう)さんだって凄かっただろ。

 先生と氷の共鳴、ちゃんと成立してたじゃん」


「……あれは、先生が合わせてくれただけよ。

 褒められる筋合いはないわ」


少し、強がった言い方。


「もう少し、自分の魔法に自信持ってもいいと思うけどな。

 なあ、昴」


急に話を振られて、昴がびくっとした。


「え、あ、ああ。

 明日香の魔法は凄いよ。今日の薬草学も、遥花さんとの合体魔法も見てたし」


その瞬間。


「……昔、あんなこと言ったくせに……」


明日香が、ほとんど聞こえない声で呟いた。


昴には、たぶん届いてない。


でも俺には、はっきり聞こえた。


――“氷って寂しいよね”。


何気ない一言。

それが、どれだけ人を縛るか。


昴は昔のことを反省して、今の落ち着いた性格になった。

たぶん、誰よりも気を遣えるようになった。


でも――まだ、ちゃんと謝れてない。


周りを見ると、他のみんなはそれぞれ片付けに夢中で、こっちには気づいていない。


沈黙を破ったのは、昴だった。


「……明日香は、今日の薬草学どうだった?」


明日香は、少し迷ってから、素直に答えた。


「……氷では、負けたくないって思った」


昴は、距離を詰めすぎないように、でも離れすぎないように言う。


「そっか。

 じゃあさ、また俺と魔法の練習しようよ」


明日香の目が、わずかに揺れる。


(あのとき、“氷って寂しいよね”と笑ったのは――この人)


少しの沈黙。


そして、彼女は初めて、恥ずかしそうに視線を落とした。


「……別に、いいけど」


昴の頬が、ほんの少しだけ緩む。


その空気が、なんだかむず痒くて。


「おーい、幼馴染コンビ。

 勝手に青春始めないでくれよ」


俺が茶化すと、


「なっ……!?

 ち、違っ──!」


「茶化すなよ、玲磁。

 お前が最初に振ったんだろ」


紫亜はにやにやしながら、その様子を眺めている。

大河は腹を抱えて豪快に笑い、

夢威はパンをかじりながら「青春……いいなぁ……」と呟いた。


遥花は、なぜかそっと胸元に手を当てている。


――悪くない光景だ。


魔法の成果も、問題も、感情も。

全部ひっくるめて。


今日の合研部は、ちゃんと“前に進んだ”気がした。

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