#102 姉妹
合研部の空気が、また一段落ち着いたところで、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえばさ」
視線を莉亜に向ける。
「莉亜さんって、学年最強の水使いだったよな。
水を使った合体、まだ一度も試してなかったし……
見学だけって言わず、ちょっとやってみないか?」
自分で言っておいて、
(まあ断られないだろ)とも思っていた。
案の定、莉亜は小さく息を吐いて、薄く笑う。
「ええ。そう言われると思っていたわ」
その即答に、昴が肩をすくめた。
「じゃ、とりあえず姉妹の相性でも見とくか」
その言葉に、紫亜がゆっくりと一歩前に出る。
紫の瞳が、計算するように細められた。
「水と闇は、理論上は相性が悪いわ。
性質が拡散しやすく、干渉が不安定になる」
一拍置いて、紫亜は自信に満ちた笑みを浮かべる。
「……でも、“私たち”なら不可能じゃない」
莉亜も、まったく同じ温度で頷いた。
「当然よ」
(さすが姉妹だな……)
俺は一歩下がり、魔力の流れを観察する側に回る。
水(佐々峰 莉亜)× 闇(佐々峰 紫亜)
合体魔法――
<シャドウウェーブ>
最初に来たのは、湿った気配だった。
床を這うように、冷たい水の魔力が広がり、
そこへ紫亜の闇が溶け込む。
ただの黒い水じゃない。
光を奪う影が、波の形をとってうねり始める。
視界が歪む。
部室の壁が遠のき、
まるで巨大な黒潮が迫ってくる錯覚。
「な、なんだこれ……」
昴が思わず後ずさる。
「津波が押し寄せてくるみてえだな……!」
大河の声が、少し上ずっていた。
明日香は、目を細めて魔力の質を見極めている。
「……ただの津波じゃない。
黒くて、視界に……まとわりつく」
蒼南が、はっと息を呑む。
「これは……かなり厄介だね。
幻影なのに、感覚への干渉が強すぎる……」
遥花と夢威は、ただ圧倒されたように呟いた。
「す、すごい……」
波は、実体を持たない。
けれど、確かに“そこにある”と脳が錯覚する。
水の流動性と、闇の隠蔽・錯乱効果。
完全に一つの体系として成立していた。
俺は思わず、素直な感想を口にする。
「……合体魔法も、ここまで来るとさ。
もう即席技じゃないな。
一つの魔法体系として、学会に出せるレベルだ」
莉亜は、静かに魔法を収束させる。
闇の波は霧のようにほどけ、部室に元の光が戻った。
沙羅先生が、腕を組んだまま感心したように言う。
「未知の魔法が見られたのも驚きだけど……」
ちら、と姉妹を見る。
「やっぱり、姉妹は相性抜群ね」
紫亜は誇らしげに微笑み、
莉亜は当然と言わんばかりの表情で頷いた。
(……ああ)
合体魔法ってのは、
技術だけじゃなくて、関係性そのものが出る。
そんなことを、改めて実感した瞬間だった。




