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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第一章 入学編

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#98 薬草学

薬草学の授業は、いつもの教室じゃなかった。

校舎の奥、魔法学校の敷地をさらに進んだ先にある広大な薬草園。

昼前の光が草木に反射して、空気そのものが青臭い。


土と葉と、微かな薬の匂い。

机に向かう授業とは、完全に別物だ。


そこで俺たち一年生全員を待っていたのは――

人じゃないだろ、って思うくらいデカい男だった。


宇賀神(うがじん) 侍道(しどう)先生。


身長二百十。

白に近い青髪が風に揺れて、藍色の目は優しそうなのに、視線だけで空気が凍る。


大河(たいが)が、素直に呟いた。


「俺よりでっけぇ人、初めて見た……」


わかる。

存在感が、岩みたいだった。


「よう、みんな。今日は薬草学の初実践だ」


低い声が、腹の奥に響いた。


「薬草ってのはな、“戦えない奴の仕事”だと思われがちだが、違う」


先生は薬草園を見渡しながら続ける。


「どんな猛者でも、傷つけば終わりだ。

 命をつなぐ知識は、戦闘魔法と同じくらい大事だ」


一瞬で、場の空気が引き締まった。


「……つーわけで、気張っていくぞ」


その一言で、ざわつきは消えた。


一年合同の授業だから、並びは自由だった。

結果、俺の周りはやたら豪華になる。


まず、Eクラスの魅亜(みあ)がいつの間にか横に来ている。


「玲磁、薬草って……燃やしちゃダメだよね?」


「たぶんな」


「だよね〜! よし、燃やさない努力する!」


……努力ってなんだよ。

心の中でだけ突っ込む。


少し前から、地響きみたいな足音が近づいてきて、肩を叩かれた。


「玲磁! ここ面白そうだな!

 薬草ちぎったり埋めたり、力仕事多そうだ!」


大河(たいが)だった。


(そんな理由で薬草学を評価するな……)


その隣に立ったのは、光属性の箱入り娘――天針(あまはり) 琉月(るな)。

男子人気ナンバーワンなのも納得の外見なのに、顔色が悪い。


「天竜(てんりゅう)さん……ここ、虫とか……いますよね……?」


「いるだろうな」


「うう……がんばります……」


光の聖女が虫に怯えてるの、ギャップがすごい。


背後から、さらに明るい声。


「またいい場所取ってるな〜」


切追(きりょう) 朝(ひのて)だった。


「あ、明日香!」


呼ばれて、少し離れた場所にいた鴇任(ときとう) 明日香(あすか)がこちらを見る。

一瞬だけ迷って――それから、こっちへ来た。


俺の少し横。

近づいた瞬間、氷の気配がふわっと伝わる。


俺が軽く会釈すると、

明日香もほんの少しだけ、会釈を返した。


授業が始まると、宇賀神先生は薬草の説明をしながら園内を歩き始めた。

その巨体が近づくたび、生徒たちが無意識に道を空ける。


明日香は、ずっと先生を見ていた。


同じ氷属性。

しかも、圧倒的な強者。


横顔には、憧れも緊張も期待も恐れも、全部混ざっている。


朝が小声で言った。


「明日香……先生のこと、好き?」


「バカ言わないで」


即答だった。

でも視線は、先生から離れない。


(氷属性……か)


俺は、心の中でだけ呟いた。


しばらくして、先生が立ち止まった。


「さて、説明ばっかだとつまらんだろ。

 鴇任、ちょっと前に出てもらっていいか?」


「……えっ?」


明日香の目が見開かれる。


「きゃ……!」と琉月。

「すげぇ、指名された!」と朝。

「氷っ子の本領だね!」と魅亜。


明日香はゆっくり前へ出た。


先生は微笑んだ。


「氷の素質は十分ある。

 一緒にやってみるか、“凍結共鳴”」


「わ、私……そんな高等魔法……」


「大丈夫だ。力は俺が調節する。

 お前は“氷の気配”だけを合わせろ」


先生の掌から、淡い青光が広がる。

空気が、少しずつ冷えていく。


(魔力同調を応用した訓練か)


俺は、仕組みを頭の中で分解していた。


「焦るな。

 氷は孤独じゃない。静かで、深く、穏やかな魔法だ」


その言葉に、明日香の瞳が揺れた。


――氷は寂しいよね。

昔、昴(すばる)に言われた言葉。


でも、先生の氷は違った。


透明で、強くて、美しくて、

どこか……温かい。


ぱきん、と音がして、

地面に氷の花が咲いた。


「きれい……」と琉月。

「すげぇじゃん!」と朝。

「ロマンチック!」と魅亜。

大河は言葉もなく頷いていた。


明日香が、自分の手を見て呟く。


「……できた……の……?」


先生は、にやりと笑った。


「いい目だ。伸びるぞ、お前」


その一言で、明日香は顔を赤くして俯いた。


俺はそれを、黙って見ていた。


(氷属性……やっぱ面白い)


横で、瑞翔が小さく言う。


「玲磁、今ちょっと目が輝いてたよ」


「ばれた?」


「完全に」


俺は肩をすくめた。


《時 × 氷》

逆行凍結、固体時間、氷時計。


(これは……合研部案件だな)


薬草学の授業なのに、

俺の頭はもう、研究モードに入っていた。

登場人物紹介


● 宇賀神(うがじん) 侍道(しどう)

【性別】男

【適性】氷

【魔力値】822

【担当】実践科目・薬草学

【年齢】33

【髪色】青みのある白色

【瞳】藍色

身長が210cmあり、あの大河をもってしても「デカすぎる」と言わせるほどの巨体。

見た目も怖そうに見えるが性格はフレンドリー。昔から学科は苦手だったが、薬草には滅法詳しかったため、リュウ校長に見出されて教職に就いた。

また、希少な氷属性の使い手であると同時に対人戦がかなり強く、校長を除く教師陣の中では幸崎 轟一、如月沙羅、宇賀神 侍道の三強と言われている。

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