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108人の勇者と奴隷とオレ あとたまに天使  作者: 東西
第一章 異世界での奴隷の拾い方
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第3話 カツアゲと路地裏と








 俺のことについて話そう。

 初めてカツアゲしたのは今から5年ほど前、当時11歳。

 確か、空腹にあぐねて1年上の学年の生徒に襲いかかり、逆に集団でフルボッコされた気がする。

 それが、最後の乳歯を無くした記憶なので、今でもよく覚えていた。

 当時の自分は施設に馴染めず、小学生にして野宿生活を送り、ほぼホームレス同然の生活をしていたために食べるものに困り、最終的に犯行にのぞんだものだと思われる。

 なつかしいな。体を洗うために噴水に飛び込んで、凍死しそうになった事を考えるとまったく大したことはないのだが。

 正直、今の状況も似たようなものだし。

 それを打開する手段はいくつか思い浮かぶ。

 その一つがそう、先ほど少し回想したカツアゲだ。

 手段としては非常にシンプル。

 脅して奪う、ただそれだけ。

 何も考える余地はない。

 大事なのはむしろ、それまでの仮定。

 つまりは、Time、Place、Occasion。

 時と場所と場合。

 カツアゲTPOってやつだ。


「ここら辺でいいかな」


 大きな街道から近すぎず、そして遠すぎないぐらいの路地裏に俺は陣取ることに決めた。

 場所は概ね、どんなところでも変わらない。

 人通りが少なく、逃げる場所が少なく、薄暗く、そして視界の悪い場所。

 身をひそめる場所があればなおいい。

 街道から離れすぎていないのは、標的があまりにも来ないと困るからだ。

 適度な距離でないと、1日釣り針にかからないなんてことともありえる。

 あまり時間がないと、これは致命的だ。

 …後は、そう。

 逃走する際に最終的に街道に出て、人ごみに隠れる。そのためだ。


「17時か」


 時計を眺めて呟く。

 少し日が陰ってきた。

 そろそろいい頃合だろう。

 やはり暗いに越したことはない。

 これはあくまで個人的にだが、カツアゲする際に正面からいけるのは集団だった場合だけだと思う。

 集団であれば多少明るくても、開けた場所でも問題はない。

 囲んでしまえばいいからだ。

 周りから標的が見えなくなってしまえば、ただの群集とかす。そこで犯罪が行われているなんて、誰も思わない。

 だがやはり、個人では全く違う。

 正面から行けばおそらくは逃げられてしまうし、明るくて開けた場所なんてもってのほかだ。

 第3者の介入はもっとも避けなければいけない。

 だから最優先は、ふいをつくこと。

 つまりは奇襲。

 相手に逃げることも、声を出せることも、状況を理解させることもさせてはいけない。

 思考の余地を奪うレベルでの奇襲。

 それが成功したなら、後は簡単だ。

 迅速にカツアゲし、逃走するだけ。


「………まぁ、そううまくいけばいいけど」


 やり方は変わらないし、迷いもないが。

 どうしても拭いきれない不安要素がある。

 それは、ここが。


「異世界なんだよなぁ」


 ありとあらゆることが未知数なのだ。

 ここは日本とは違い、日常的に戦闘があるような世界。

 それは、ここに暮らしている住人達を見ればわかる。

 ギルドでも聞いたが、この世界の多くは冒険者という職業がしめている。

 ひとえに冒険者といっても、その幅は非常に広いらしい。

 剣を使うものもいれば、槍を使うものも、巨大なハンマーを使うものもいるようだし、何に使うかよく分からない物を持っているやつもいた。

 もちろん、そんな物を持っているやつを狙うつもりはない。

 先ほどから数人すれ違っているが、どれも重厚そうな装備品を担いでいる。

 これに挑むのは自殺行為だろう。

 あとは、そう…あれだ、獣人族。

 あれも避けたほうがいいだろう。体格は同じでもベースに動物がある時点で、おそらくは身体能力が人間とは比べ物にならない可能性が高い。

 危険な橋は渡らない。

 そもそも、狙わなければなんの問題もないのだが。関わらなければいいだけだ。

 それよりも、もっと重大な問題がある。


「………………………魔法か」


 言葉にすると、余計に気が重くなる。

 これが一番厄介なのだ。

 まだ存在を確認したわけではないが、ギルドで魔法使いという職業があるのは確認している。

 少なくともこの世界には、公な職業として存在していることは間違いない。

 そしてそれが、どのレベルにまでこの世界に浸透しているのか。

 専門職や技術職のようなものなのか。特別な鍛錬や知識がいるのか。誰でも使えるものなのか。

 伝統工芸など、専門的な技術が必要であっても、さわり程度なら素人でもできる。

 極める必要はないのだ、日常生活では。

 そしてその程度が、この世界の魔法という概念をどこまでのものにしているのか、来たばかりの俺には想像のしようがなかった。

 攻撃的なのか、守備的なのか、はたまたそれ以外の何かか。

 予備動作も何も必要がなければ、手のだしようがない。

 つまりは、だから。


「…うん」


 頷く。


「捨てよう、その可能性は」


 考えてもしょうがないものを作戦に組み込んだところでどうしもない。

 不確定要素は完全に捨て、てっぱんに殉じよう。

 もし失敗した場合の逃走経路は12パターン想定済み。

 狙う相手も絞ってある。

 武器防具を装備していない者。体格が自分とさほど変わらないもしくは小柄な者。一人でいる者。そして何より。


「やっぱり女か」


 女性であることは外せない。

 単純に、身体能力の優劣を考えて。

 男という身体的有利をいかそう。

 目標金額は2000ガル。

 軽く調べたが、大した金額ではなさそうなので、そこは心配する必要はないだろう。


「……よし」


 頷いて、そして影に身をひそめる。

 隠れているわけではない。

 待ち構えるために。

 後は、時間との勝負だ。









(数時間後)









 標的になるような人を待ち、ある程度時間がたったころ。

 もう何度目かになる足音が、俺の耳に聞こえてきた。


「………」


 かすかではあるが、こちらに近づいてくる音。

 さらによく耳をすます。

 ぺたぺたと。

 まるで裸足で歩いているかのような音だ。


「……」


 足音から察するに、おそらく一人。

 それも、だいぶ急いでいる。

 ………………これは、チャンスかもしれない。

 瞑っていた目を開く。

 急いでいる人間は、周りへの警戒がおろそかになる傾向がある。

 焦っているならなおさらだ。

 不意をついた時の効果も倍増する。

 俺は腰からナイフを取り出し、物陰から通路の方へ少しだす。

 ナイフの表面を鏡の変わりに使用し、様子を伺う。


「………小柄だな」


 はっきりとは見えないが、どうやら全身にマントのようなモノをかぶっており、はっきりとした姿形は見えない。

 それが、若干の不安要素。

 だが、身長や僅かに見える体つきから察するに、女であることは間違いがない。

 そして、確実にこちらに向かってくる。

 ようやく来た好奇だ。

 逃す手はない。

 俺は、ナイフを逆手に持ち替え、息を殺す。


「……」


 足音がどんどん近づいてくる。

 僅かに、小走りで。

 姿勢を落とす。

 そして。

 それが。

 俺の横を通り。

 通り過ぎて。

 背中が見えかけたところで。

 動き出す。

 音をたてずに。

 一足で近づき、足をひっかけ、体制を崩す。

 そしてそのまま押さえつけ、首元にナイフを突きつけた。


「動くな、あと喋るな」


 少し、息を吸い込む。


「殺すぞ」


 脅し文句はシンプルに。声を荒げたりしない。

 これが、俺が生きていて学んだことだ。

 俺が押さえ込んだ相手は、マント越しだったせいか多少誤差があったが、予想よりもさらに小柄。

 まるで子供ようだ。


「………………」


 少し、嫌な予感した。

 俺は、相手を組み伏せたまま、深くかぶったマントのフードをめくり上げる。


「……………………………………………………………」


 …思わず。

 思わず息を飲んでしまった。

 別に間違ってたわけではない。

 確かに女性だった。いや、女性というよりは、子供というか。

 それはいい、想像通りだ。なにもかも。

 だけど、想像外のこともあった。

 俺が組み伏せていいるその子。

 それは、俺が死ぬまでに見てきた人生の中で、おそらく。


 一番、美しかった。


 人間といえば、人間だろう。

 耳が尖っているところを除けば、概ねその通りだ。

 だが、自分でも驚いている。

 まさか、自分がこんなにも異性に見惚れる日が来ようとは。

 思ってもみなかった。


…………いけない。


 そんなことを、見蕩れているなんてことを、している場合じゃなかった。

 早く目的を達成してこの場から離れねば。

 俺は、口を開いて、カツアゲを、遂行しようと、して。


「おねがいしますっ!」


 俺より先に、


「たすけてくださいっ!!」


 彼女が、俺を見て、叫んだ。

 …………………………?。

 一瞬、理解が遅れた。

 そして、理解しようと、言葉を咀嚼する。

 助けて?。

 誰を?、誰に?、誰が?。

 ここに居るのは、俺と彼女だけだ。

 多少叫んだところで、誰も来ないだろう。

 …いや、そうじゃない。

 そうじゃないんだ。

 この子が助けを求めたのは、不特定多数の誰かにじゃない。

 勘違いでなければ、そう。

 たぶん、俺に向けての言葉であろう。


「…なに、言ってる、の?」


「おねがします助けてくださいっ、おねがいしますっ!」


 その子は何故か、組み伏せ、ナイフを突き付けているはずの俺に。

 助けを、求めていた。


「………」


 嫌な予感が、また少しした。

 俺は、その子を体を、上から眺め。

 そして違和感の正体を発見。

 首に巻かれた革のベルト。

 南京錠。

 そしてそこから垂れる、鈍い色をしたおそらくは鉛製の、鎖。


「………………」


 やばい気がする。何かとても嫌な予感が。

 よく見れば、彼女のマントの下の服はボロボロで、裸足のようだと思っていた足音は、本当に裸足なだけだった。

 それに合わせて、急ぐような小走り。

 俺の中で、可能性の組み合わせが、少しづつ始まり。

 おそらくは、答えにたどり着こうとしていた。


「…っ!」


 急いで体を起こす。

 凄まじい悪寒が、全身を包んだ。

 そして、それの正体を探るために後ろを振り向こうとしたところで。


 頭を、掴まれた。


「あ…………ぐっ……………」


 万力のような力だ。

 そして、何よりでかい。

 僅かに見える視界の先で、馬のような顔と、巨大な角を捉え。

 それを最後に、俺は頭を壁にぶつけられ。


 そこで、記憶が飛んだ。

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