表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/18

第14話 黄金の証と生きた証

ヒュドラの脅威から完全に逃れ、隠し洞窟で焚き火をおこした僕たちは、ようやく生きた心地を取り戻していた。


パチパチと爆ぜる炎の明かりを頼りに、僕は先ほど回収した『黄金ゴールド』のライセンスカードをまじまじと観察していた。


「……不思議な材質デスネ。金属のように見えマスガ、信ジラレナイ程薄くて、軽イ。それでも、簡単には破損シナイように、特殊な加工ガサレテイマス」


「ああ。冒険者がどんな過酷な環境に持ち込んでも耐えられるように作られてるからな」


僕の『構造認知(ディープスキャン)』が、カード内部の微細な構造を捉える。


「……内部ニ、魔力を通す回路ガ、幾重ニモ組み込まれているように見エマスネ。コレハ、何かの記憶媒体デスカ?」


「お前、本当に何でも視えるんだな。その通りだ。ギルドのカウンターにある専用の台座型魔導具にかざすことで、冒険者の情報を読み書きできる仕組みになっている」


(なるほど、魔力を媒体にした非接触型のICカードというわけか。異世界とはいえ、このギルドのシステムは非常に近代的で合理的だ)


「デハ、このカードの持ち主の名前モ、分カリソウデスネ。回路に干渉シテ――」


「やめとけ。それは本人が魔力を流さないと、名前などの基本情報すら表面に浮かび上がらない強固なセキュリティがかかってる。下手に干渉してロックされたら面倒だぞ」


「……ナルホド。生体認証付き、というワケデスネ」


ギルドのセキュリティは流石の一言だ。僕の今の出力では、暗号化された魔力の波長を無理やり突破することはできない。


「ソレニシテモ、ノエル。どうして私タチガ、このカードを回収するルールにナッテイルノデスカ?」


「ギルドの規約さ。冒険者が遺体を発見した場合は、このカードを回収してギルドに死亡報告をする『努力義務』がある。……一般人にはその義務はないが、報告の審査を通れば、死亡した者の所持品の所有権は、正式にカードを回収した者に譲渡されるんだ」


ノエルが、焚き火の向こうで真剣な目を向けた。


「審査といっても、回収者が殺害に意図的に関与していないかを確認する程度だから、よほどのことがない限りは通る。一般人でも見返りが大きいから、遺留品が残っていれば大体の奴は回収して届けるシステムになってる」


(――所有権の譲渡。つまり、この遺留品はすべて、合法的に僕たちのものになるってことか!)


「所有権を放棄すればギルドの物になるが、これほどの品なら絶対に放棄できないな。俺は冒険者だから、どのみち報告の義務もあるしな」


「……オヤ? ノエル、『俺は冒険者ダカラ』と、言イマシタカ? ただの迷子の剣士カト、思ッテイマシタガ」


「誰が迷子だ。俺はこれでも、ギルド所属のBランク冒険者だぞ」


ノエルの言葉に、僕は少しだけ目を見開いた。


Bランク。先ほどの話によれば、Aランクに次ぐ上位のエリート階級だ。


「……Bランクの腕前ナノニ、どうしてこんな深層デ、遭難シテイタノデスカ?」


「王都からの要人の護衛任務中だったんだがな。不測の事態で、賊が使った『転移の魔導具』から護衛対象を庇って、俺だけがこの樹海に飛ばされたってわけだ。……まあ、その話は今はいい」


ノエルが一つ息を吐き、足元に置かれた『空間収納袋マジックバッグ』へと視線を落とした。


「それより、中身の確認だ。お前がその魔導衣コートをもらうなら、こっちの分配はきっちり相談させてもらうぞ」


「モチロン、デス!」


僕はウキウキとマジックバッグの口を開き、逆さにして中身を床へとぶちまけた。


ジャラジャラ、ドサッ! という音と共に、小さな袋からは想像もつかないほどの大量の物資が吐き出された。


「おお……!」


小山のように積まれた金貨の袋。立派なテントや上質な毛布などの野営道具一式。そして、数々の目を引く装備品や素材の山。


ノエルはまず、厳重にクッション材で包まれた数本の小瓶を手に取った。


「……すごいな。純度の高い特級ポーションだ。いざという時にしか使えない、金貨数十枚は下らない代物だぞ。これは命綱になる。きっちり半分ずつ分けよう」


「異議ナシ、デス。あ、この毛布や調理器具などの野営道具一式モ、共有の財産トシテ使イマショウ」


その物資の山の中から次に見つけ出したのは、数種類の魔獣の素材と、純度の高い魔石だった。


「ノエル、この素材と魔石……売レバ、相当な額ニナリソウデスネ」


「ああ。だが、高ランクの魔獣から採れた素材だ。売るには希少すぎて勿体ない。街に戻ったら、腕の立つ鍛冶屋に頼んで俺たちの装備を作ってもらう用に残しておくべきだな」


「大賛成、デス。金貨ハ既に、十分アリマスシネ」


そして、装備品の中から、一本の「杖」が出てきた。


全体は漆黒の樹木で作られ、表面からは淡く紫色の光が脈打つように発せられている。


「ノエル、コレハ……?」


「……俺にも何の木か分からない。だが、ただならぬ魔力を感じる。……残念なことに、先端の宝石が完全に砕けてしまっているな。最後の戦いで限界を超えて使ったんだろう。これじゃあ杖としては機能しない」


「デモ、良い素材ニハ、ナリソウデス。コレハ私が、貰ッテモ良イデスカ?」


「ああ、お前の方が魔法の知識があるからな。好きにしろ」


僕はホクホク顔で、その黒い杖をシャノワールの影へと収納した。


さらに発掘を進めると、今度は「マフラー」と「砥石」、そして頑丈な「ブーツ」が出てきた。


マフラーは黒地をベースに、淡い緑色の風のような模様が美しく、そして滑らかに描かれている。


それを見た瞬間、ノエルの目の色が変わった。


「……おい。そいつは……」


「この、マフラーデスカ? 風の魔力を、帯ビテイマスネ。敏捷性を上げテクレソウナ、良い魔導具デス」


「……」


ノエルが、マフラーと僕の顔を交互に見つめる。彼は欲しいものは素直に欲しがる性格だ。その表情は「どうしてもそれが欲しい」と雄弁に語っていた。


「……ノエル。モシカシテ、ソレ、欲シイノデスカ?」


「……俺の魔法剣は、風属性だ。そのマフラーがあれば、魔力の巡りが格段に良くなる。それに、野営の時の防寒具としても……」


言い訳を並べるノエルに、僕はニヤリと笑った。


「フフ。良イデスヨ。私ハ既に、この立派な魔導衣を頂イテイマス。そのマフラーと、そこの良質なブーツ、それから魔力を纏わせる特殊な『魔導砥石』ハ、ノエルが使ッテクダサイ」


「……恩に着る」


ノエルは咳払いを一つすると、さっそくその黒と淡い緑のマフラーを首に巻きつけた。落ち着いた頼りがいのある彼の雰囲気に、そのマフラーはとてもよく似合っていた。


「みゃお!」


僕たちが分配を進めていると、横からシャノワールが鳴き声を上げた。


彼が影の触手で引っ張り出したのは、高級な魔獣の毛皮で作られた、保温性抜群の極上クッション(寝袋)だった。


「おっ、それは野営で重宝しそうだな。俺が――」


「みゃおぅ!」


ノエルが手を伸ばそうとした瞬間、シャノワールはそのフカフカのクッションの上にどっしりと香箱座りをし、尻尾を体に巻きつけて絶対に動かないという意志を示した。


「……」


「……シャノワールの、モノニナッタヨウデスネ」


「……そうだな。今回はあいつにも助けられたしな」


僕とノエルは、すっかり丸くなって目を閉じ始めた黒猫を見て、あっさりと引き下がった。


「残ルハ、あの魔導シリンダーから出てきた本と、この袋から出てきた現地語の魔法教本、そしてマジックバッグ、デスネ」


「俺は魔法が使えないから、その二冊の本はお前が持っておけ。その代わり、マジックバッグは共有の財産として俺が腰につけて管理する。これでいいか?」


「合理的ナ判断デス。異議ハアリマセン」


ノエルが腰にマジックバッグを括り付け、僕は遺留品の中から出てきた「もう一冊の本」を手に取った。


それは、あの日本語で書かれた高度な理論書とは違い、現地の言葉で書かれた一般的な魔法教本だった。


(なるほど。この世界の住人向けに、浅くまとめられた教本も持っていたのか。現地語の本なら、ノエルに見られても怪しまれない。カモフラージュとしては完璧だ)


「……よし。これで戦利品の確認と分配は終わりだな」


ノエルが、上質な毛布にくるまりながら満足げに息を吐く。


「ヒュドラの時はどうなるかと思ったが……結果的に、俺たちの戦力と物資は飛躍的に向上した。これで、街までの道のりもグッと楽になるはずだ」


「ハイ。明日カラの道中ガ、楽しみにナリマシタ」


ノエルは新しいマフラーの感触を確かめながら、すぐに静かな寝息を立て始めた。


僕は一人、パチパチと燃える焚き火の明かりを頼りに、あの『日本語で書かれた魔導書』のページを静かにめくった。


そこに記された、この世界の物理法則とマナの最適化理論。


読めば読むほど、同郷の先人が遺した圧倒的な叡智の深淵さに、僕の思考は心地よく没入していく。


(……すごい。ここに記されている理論を僕の理に組み込めば、今の何倍もの効率で世界の意思を納得させられる術式を構築できるぞ)


先人の遺産は、単なる装備やカネだけではない。


僕の魔法を次の次元へと進化させる、最高の「鍵」だった。


燃え上がる知的好奇心を抑えきれないまま、僕は時間を忘れて、深夜の隠し洞窟でその文字を追い続けたのだった。






【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

もしよろしければ、ページ下部にある星マーク(☆☆☆☆☆)から評価をつけていただいたり、ブックマークで応援していただけると本当に嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ