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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
レガリス編

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第97話:葬られた真実

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「ご馳走様でした」

「ありがとうございました」


 奥の席にいたカップルが静かに店を出ていき、この重厚な空間には僕らとナギさん、そして寡黙なマスターだけが残された。 静まり返った店内には、ドキドキと早鐘を打つ僕の心臓の音だけが大きく響いているような感覚に陥る。


「…」


 僕は乾いた口を潤すように、再度カクテルのグラスに手を伸ばした。


「マスター、同じのを」


 ナギさんが、手元の空いたグラスを左右に軽く振るジェスチャーをする。こくりと頷いたマスターが、新しい氷の準備を始めるのと同時に、僕はゆっくりと続きを話し始めた。


「…レガリスの王族、アウレリウスさんたちが、1000年前の『大戦で生き残った人類の直系の子孫』として正史に記されていますよね」

「せや。そこは間違ってないと思うで」

「じゃあ…タエさんが正式に歴史に記されていないのは、何故なんです?」


 僕の問いに、ナギさんは少しだけ天井を見上げて息を吐いた。


「都合が悪かったんやろ」

「都合…?」

「簡単や。『自分らが残った数少ない人類を導き、復興させた』っちゅう絶対的な事実がほしかったんや。実権を握るためにな。もしタエの存在が公になれば、民衆にとっての英雄は王族やのうて、そっちになってまうやろ」


 コトン、と新たなグラスがナギさんの前に置かれる。 自らが『王』と名乗るために、ウォルターとジリウスに抗い、最後まで戦い抜いた真の英雄を歴史の闇に葬ったのか…。権力者の身勝手さに、僕はグラスを握る手に少しだけ力が入った。


「まあ、英雄なんて重苦しいもん、タエ自身も望んでなかったらしいけどな」


 ナギさんは、グラスを手にして丸い氷をくるくると回しながら、あっけらかんと語る。


「それに、俺が話しとる内容も、ばあさんのばあさんの…って何代も前から一族に伝わるただの『昔話』やからな。眉唾で聞いといてや。今日、コータ君やアルテアさんの話で、ようやくそれが『真実やった』って答え合わせができたぐらいや」

「じゃあ、ナギさんは…自分の祖先が理不尽に歴史から消されたことについて、なんとも思わないんですか?」


 意図的に歴史から葬られたんだ。正当な評価を奪われたことに対して、彼が怒っても罰は当たらないだろう。


「うーん、せやな…」


 ナギさんは顎に手を当てて少し考える素振りを見せたが、すぐにいつもの飄々とした笑顔に戻った。


「1000年も前の大昔の話やしな。俺としては、今さら特になんの感情もないなぁ」


 その表情からも、声のトーンからも、強がって嘘を言っているようには思えなかった。直系の子孫であるナギさん自身が『なんとも思っていない』と言っているんだ。僕がこの事実を正義感から公にしたところで、誰にとっても良い事なんて何一つないのだろう。


「…そうですか」


 僕は少しだけ肩の力を抜き、残りのカクテルをぐいと飲み干した。冷たいカクテルが、熱くなっていた頭を少しだけ冷ましてくれた。


「じゃあ、もう一つだけ聞かせてください」

「うん」

「その事実を知っていたのに、何故、祖先の存在を消した『王家の直属』の共同体レゾナントなんて立ち位置に居るんですか…?ヴィクトールさんとは、一体どういう関係なのか…」


 僕の真っ直ぐな問いかけに、ナギさんは少しだけ驚いたように目を見開き――。


「…なかなかグイグイくるやん、コータ君」


 ニヤリ、と面白そうに笑った。


「ヴィクとは…それこそ、15年前ぐらいからの付き合いになるんかな…」


 グラスの氷を見つめながら、ぽつり、ぽつりと。 ナギさんは、どこか懐かしむような穏やかな声で語り始めた。


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