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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
レガリス編

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第96話:異邦の響きは、大人の隠れ家で

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

 例のウルゴ遺跡の報告を終えた翌朝。僕とアルテアは、二人で王都オーティスまで来ていた。エテリスの正史をヴィクトールさんに確認するのが一番の目的だけど、その前にどうしても直接確かめておきたい事があった。


「すみません、監視者ハンドラーのコータです。ナギさんって、今日…」


 オーティス支部の受付で、お姉さんに聞いてみる。


「あ、こんにちは、コータさん。少々お待ちくださいね…えーっと、ナギさんは本日は非番で、特に依頼なども入っていないようですね」

「そうですか、ありがとうございます」


 お休みなら、少しだけ会いに行っても大丈夫かな。お礼を言ってその場を離れ、隣に居るアルテアにお願いする。


「アルテア、ナギさんがどこにいるか、スキャンできる?」

「可能だ、コータ」


 アルテアの声には、一切の感情の色がない。昨日の夜、拠点に帰った直後に人格インターフェースの再インストールをお願いして、いつもの『アルテア』に戻ってもらった。彼女はまだ感情というものを完全に理解していないと分かっているのに、あんなにお上品に感情たっぷりに話されると、強烈な違和感と気持ち悪さがあった…。


「検出。ここから西へ1キロの地点、『エクリプス』という店舗内だ」

「ありがとう。じゃあ、行こう」



 路地をちょっと入った先。 地下へと続く細い階段を降りると、そこには僕一人なら絶対に入らないような、大人の隠れ家のようなお洒落なバーがあった。


カラン、カラン…。


「いらっしゃいませ」


 蝶ネクタイをした初老のマスターが静かに迎えてくれる。店内は薄暗く、洗練されたアンティーク調のインテリアが、さらに重厚な雰囲気を醸し出している。なんだか、場違いな所に来てしまったみたいで緊張するな…。


 カウンター席のみの店内には、奥で静かに語り合う一組のカップルと、手前で一人、グラスを傾けるナギさんの姿があった。


 なんだか、こんな薄暗いバーで一人で静かに飲むなんて…大人の男性って感じで、すごく絵になっていて、かっこいい。


「ナギさん」

「………お、コータ君とアルテアさんやんか。どないしたん?」


 声をかけると、ナギさんは僕らを一瞥し、いつもの飄々とした笑顔で応じてくれた。


「ちょっと、お話があって」

「ま、こっち、座りや」


 促されるままに隣の席に座ると、コトリ、とマスターによって小さなお皿が出された。

 上品に盛られたナッツと、ドライフルーツ、そして、チョコレートとチーズ?これは一体なに…?居酒屋でいうところの『お通し』的なやつかな。それにしてもお洒落すぎる…。


「酒は?」

「あ、この後またゼノスに戻るので……」

「さよか。マスター、すんません。この子らにノンアルコールのカクテルを二つ」

「畏まりました」


 手慣れた感じでスマートに注文を通すナギさん。かっこいい…って、見惚れてる場合じゃない。


「コータ、これでは足りない」


 隣を見ると、お洒落な小皿に乗っていたはずのナッツやチーズが、すでに一粒も残っていなかった。もう食べちゃったのか…!いくらなんでも早すぎるよ…。


「…ご飯は、ナギさんとのお話が終わってからでいいかな…」

「了解、コータ」

「はははっ!相変わらずやな、自分ら。…で、話って?」


 カウンターの奥では、マスターがカチャカチャとシェイカーを振る小気味よい音が響き始めた。


「その…何から話そうかな…。実は先日、ウルゴ遺跡の調査に行った時に、1000年前の神魔大戦の記録をアルテアから直接聞いたんです」

「…」


 その瞬間。 眼鏡の奥から覗く、ナギさんの真っ黒な瞳が、暗い照明の中で鋭くきらりと光った気がした。

 カラン、と。 ナギさんが傾けたグラスの中で、丸い氷が静かに鳴る。


「当時のアルテアの管理端末…僕や、ニーナさんと同じ立場の人間がいたんです。彼女の名前は――」

「『タエ』、ちゃうんか」


 僕の言葉を遮るように、ナギさんがぽつりと呟いた。


「えっ…なんで、それを…」

「俺の名前は、『ナギ』。んで、『タエ』。…エテリスの人間にしては、響きが独特やもんな」


 スッ、と。マスターの手によって、僕とアルテアの前のコースターに、美しいグラデーションを描くカクテルが置かれた。


「コータ君の想像通り、俺らはその、『タエ』の直系の子孫や」


 僕の想定と同じことが、ナギさんの口から語られた。その事実に、僕はカクテルに伸ばしかけた手をピタリと止めた。


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