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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
レガリス編

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第93話:慈悲の力はお淑やかに

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 皆が各々の目標へと散開してから、数分。僕とアルテアは上空に留まり、集落全体の状況を俯瞰で見ていた。一番の目的はジリウスの監視だけど、今のところ不審な動きはない。


「コータさん、北のサンドワームの反応、完全に消失しましたわ」

「そっか、ニーナさんとジリウスは上手くやってるみたいだね。一安心だ」


 マクシミリアンさんにも、監視結果は問題ないと胸をはって伝えられそうだ。

 

 ほっと胸を撫でおろしていると、不意に、東側でエレーナさんが放つ解放リリースの眩い光が見えた。


「東側で、デリクさんたちが交戦を開始したようですわ」

「デリクさんたちなら大丈夫だと思うけど…」

「ガーゴイルの反応消失…1体、2体…問題なさそうですわ」


 そして、西側でも同じく光が放たれるのが見えた。


「シャオさんたちも始まったかな。…怪我人とか、出てないといいけど…」


 僕が祈るように見下ろしていると、不意にアルテアの瞳がチカチカと明滅した。


「アルテア?どうしたの?」

「コータさん、クローディアさんが私たちを呼んでいますわ」

「呼んでるって…何も聞こえなかったけど…」


 聴覚もやっぱり尋常ではないのかな。でも、アルテアが言うのだから間違いないはずだ。


「アルテア、ニーナさんとジリウスさんに『全体の安全確認をお願い』って伝えられる? 僕らはクローディアさんたちの方へ急行しよう…!」

「分かりましたわ。…通知完了。いきますわよ!」


 アルテアは上品に頷くと、急速に集落の西へ向けて高度を下げていった。



「クローディアさん!」

「コータさん、こっち!怪我人がいるの!」


 地上に降り立つと、クローディアさんの悲痛な声が響いた。声がする路地へと向かうと、そこには小さな少年と、足を怪我して倒れ伏した女性が一人。


「シャオさんは…」

硬爬山こうはざんッ!」


 パンッ、パァンッ!!


 連続する破裂音の方向を見ると、シャオさんが肩で激しく息をしながら、複数のガーゴイルと死闘を繰り広げていた。


 渾身の一撃を繰り出したシャオさんに、背後の死角からもう一体のガーゴイルが襲い掛かる。


「ギィィアッ!」

「グゥっ…しつ、こいネ!発勁はっけい!」


 シャオさんの小さな手のひらから放たれた不可視の衝撃波が、ガーゴイルの頑強な石の身体を内部から完全に破壊する。 だが、まずい。シャオさんもかなり消耗している。まずは周りの魔物を一掃して片づけないと。


「アルテア、周囲のガーゴイルだけに、レイ…出力0.1パーセントで!」

「わかりましたわ、コータさん。――レイ


 アルテアが慎ましく右腕を高く上げると、空に向かって一条の純白の光が伸びた。その一本の光は空中で枝分かれし、まるで意思を持つかのように急降下して、シャオさんを取り囲む残りのガーゴイルたちに次々と突き刺さった。


 音を立てる間もなく、魔物たちは跡形もなく消滅する。


「コータ、私だけでも余裕だったヨ…!」


 強がりを言いながら、ガクッ、と膝をつくシャオさん。


「アルテア、反重力アンチグラビティで皆を浮かせて!避難場所になってる集落の南に移動しよう!」

「分かりましたわ、コータさん」


 ふわり、と僕たちの周囲の重力が消失する。


「あわわわわ…っ!?」


 宙に浮いた少年が、驚いてバタバタと手足をばたつかせて暴れる。


「大丈夫、僕たちに任せておいて」


 僕は不安そうな少年に優しく声を掛け、怪我をしたお母さんを支えながら、急いで南の広場へと向かった。



 集落、南側。


 そこには、避難してきた集落の人々が集まっていた。 周囲を警戒しているデリクさんやエレーナさんの姿も確認できた。どうやら、東側も無事に制圧できたみたいだ。


「浮いてる…あ、フィンとマーサじゃないか! 無事だったのか……!」


 集落の男性が、僕が抱えている親子を見て声を上げた。


 僕は怪我をしたマーサさんを抱えたまま、ふわりと地面に着地し、ゆっくりと地面へと寝かしつける。足の怪我は間近で見るとその傷は想像以上に深く、彼女は息も絶え絶えという危険な状態だった。


「お母さん…お母さんっ!」


 フィン君が泣きながらしがみつく。


「アルテア、前に言ってた、『高効率治癒』だっけ…この傷、治せそう…?」

「出来ますわよ」


 アルテアがふわりとマーサさんに近づき、その痛々しい足に静かに手をかざす。


修復リカバリー


 温かく優しい光が辺りを包み込んだかと思うと、深くえぐれていた傷が、みるみる内に塞がり、まるで最初から何事も無かったかのように綺麗な肌へと戻っていく。苦痛に歪んでいたマーサさんの顔が、ふっと安堵の表情に変わった。


「人が元々持っている自然治癒力を、極限まで高めた結果ですの。でも、個人の体力を相応に前借りして消耗しますので、後で十分な休養を取るとよいですわ」


 上品な微笑みを浮かべ、何やら少し難しい理屈を語るアルテア。そんな彼女に対し、フィン君はまるで女神様でも見るような、羨望と感謝のまなざしを向けていた。


「お姉ちゃん…ギルドのみんな…ありがとう…!」

「ありがとう、ございます…本当に…」

「この規模の襲撃で、皆無事だったのは奇跡だ…。本当に、ありがとうございます…!」


 親子が涙を流して何度もお辞儀をし、この集落のリーダーの男性も、この結果に心から感謝をしてくれた。これで、ひとまずは安心だ。

 皆と安堵していると、上空からニーナさんの声が聞こえた。


「コータさん!掃討、終わりました!」

「あ、ニーナさんとジリウス!お疲れ様!」


 ふわりと着地すると、ジリウスは瞳を明滅させ、スキャンを実行していた。

 ジリウスの動作にも特に問題ないみたいだし、本当によかった。


「魔物の生体反応、無し」

「うん、ありがとう」

「うぅ…コータ…」


 周囲の安全を確認してくれているジリウスにお礼を言うと、背後から恨めしそうな声が聞こえてくる…。僕はハッとして振り返った。


「…ワタシにも、その『りかばりー』お願いしたいアル…」


 シャオさんが、地面にへたり込んだままプルプルと震えている。

 ああ…ごめん、シャオさんもボロボロだったの、完全に忘れてた…。


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