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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
レガリス編

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第88話:可憐なお嬢様、降臨

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 ゼノスに到着した日の夜。

 私たちは、地元の共同体レゾナントたちがよく集まるという裏通りの大衆食堂『剛腕の胃袋』にやってきていた。


 肉の焼ける香ばしい匂いと、ジョッキがぶつかり合うガヤガヤとした喧騒。その熱気の中で、私はあれこれ繰り出される話を楽しく聞いていた。


「最初は、ひょろっこい奴が来たと思ったもんだぜ。なぁ、コータ」


 豪快に笑うのは、バキバキの肉体派であるデリクさん。


「いきなり二人に絡むんだもの…ほんと、あの時はヒヤヒヤして焦ったわ…」


 ふぅ、と呆れたようにため息をついたのは、デリクさんの監視者ハンドラーのエレーナさん。可愛らしい女性で、その佇まいや柔らかい雰囲気からは、とても魔物と戦う人には見えない。


「デリクは無駄に鍛えすぎヨ!デカくて邪魔アル!」

「そんなチビだから未だにCランクなんだよ!もっと食え!」

「煩いヨ!技のキレが鈍るネ!」

「あら…。大きいことも、悪くないものよ…?」

「あーっ!もう、その無駄な脂肪を近づけるのやめるアルーッ!」


 クローディアさんに押し潰されそうになりながら、シャオさんがジタバタと暴れている。その賑やかなやり取りを、コータさんがニコニコと楽しそうに眺めていた。

 気心の知れた仲間内でのわいわいとした雰囲気に、新参者の私まで嬉しくなってくる。


「で、そっちの兄ちゃんと、ニーナ、だったか。明日は頼んだぜ」


 ジョッキのビールを一気に煽りながら、デリクさんがこちらに視線を移した。 そう、明日のゼノス北部の魔物討伐は、この場の8人全員での大がかりな作戦になるらしい。


「はい、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします、デリク」


 私の後に続いて、ジリウスさんも丁寧にお辞儀をした。

 そんなジリウスさんに、デリクさんは訝し気な表情を見せた。

 彼に、何か違和感を感じたようだ。


「ジリウスも、アルテアと同じ、あれ、なんだよな?」

「はい。私も同じく執行端末です」

「なんかあいつと喋りが違うよな」

「そういえば…なんだか、アルテアさんより話し方が丁寧ですよね…?個性…?」


 エレーナさんが不思議そうに小首を傾げる。


「インストールした『対話用人格インターフェース』の違いです、エレーナ」

「表面的な表現に違いがあるだけだ」


 アルテアさんは運ばれてきた鶏肉のローストを次々に口に運び、平らげつつジリウスさんに同意した。


 …あの細い身体のどこにそんな量のお肉が収まるんだろう…?

 っていうか、機械人形オートマタってそもそも食事できるんだ…。


「じゃあ、アルテアさん。他にも、その、人格インターフェースってあるの?」

「クラウドサーバからダウンロードし、ローカルストレージに格納済みだ。表情インターフェースも同時にインストール可能だが――」

「わぁ、ちょっとやってみてください! アルテアさん!」


 私は興味津々で身を乗り出した。

 いつもクールで無表情なアルテアさんが、どう変わるのか…ドキドキだ!


「検索中…」


 もぐもぐと鶏肉を咀嚼しながら、アルテアさんは瞳をチカチカと明滅させた。


「どうなるのかな…」

「今のアルテアちゃんに慣れちゃってるから…いきなり変わられるのも困りものね」

「でも、気になりますね!」


「対話用人格インターフェース、再インストール中……20%……50%……80%……インストール完了」


 皆が固唾を飲んでアルテアさんを見つめる。


 すると、アルテアさんはスッと席から立ち上がり、瞳をぱちくりと瞬かせたかと思うと、スカートの端を両手でふわりとつまみ、見事な挨拶カーテシーを繰り出した。


「これでよいかしら、ニーナさん」


 いつもの淡々とした冷たい声色ではなく、温かな、しっかり感情の乗った柔らかい声。

 そして、花が綻ぶような可憐な笑顔で、こちらを見つめている。


 …えっ、誰……?


「…………」


 目を見開いたまま、コータさんは石像のように固まって動かない。


「コータさん、どうされましたの?私の顔に…何か、付いてますでしょうか…?」


 頬を赤らめ、もじもじと恥ずかしがるアルテアさん。

 一見すれば、育ちの良い可憐なお嬢様にしか見えない。

 でも、普段の淡々としていて少し物騒なアルテアさんを知っている私たちからすると、ただただ強烈な違和感しかない…!


「…………」


 コータさんと同じく、デリクさんも口を開けたまま言葉が出ないみたい…。


「かわいい、お人形サン…?き、気持ち悪いヨ…おええ…」


 と、シャオさんは悲痛な表情で胃を押さえるジェスチャーを見せる。


「ちょっと…言葉で言い表せない、不気味な違和感があります…」


 エレーナさんも、引きつった笑いを浮かべて戸惑っている。


「あら。アルテアちゃん、可愛いけど、やっぱりいつもの感じの方がいいわね」


 この異常事態の中で唯一いつも通りなのは、クローディアさんだけだった。芯が強い大人の女性はかっこいいな…って、今はそういうことでもないか…。


「ニーナ、私も再インストールが必要でしょうか?」

「えっ…」


 私の背後から、ジリウスさんがすかさず謎の提案を繰り出してきた。


「いやいや!ジリウスさんはそのままでいいですよ!お願いだから!そのままでいて!」

「了解、ニーナ」


 なんでもかんでも、人らしく感情や温度があればいいってもんじゃないんだな…と、私は深く学んだのだった。


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