第87話:懐かしの抱擁と動揺
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「それで、気になることとは?」
ゼノスへの依頼を受けた後、僕は切り出しにくかった報告をマクシミリアンさんへと伝えた。
「実は…ウルゴ遺跡で、ロックスさんとモーラさんを見かけました」
「…ほう…?」
意外な名前に、マクシミリアンさんが片眉を上げる。
「『見つかった』と言いながら、一瞬で姿を消してしまって…。その後、アルテアに行き先を追跡してもらおうと思ったんですが、反応が完全に消失してしまったとかで…」
「うぅむ…」
報告を聞き、マクシミリアンさんは顎に手を当てて深く考え込み始めた。
「そもそも、数百キロ離れた先の反応すら正確に検知できるアルテアが、近距離で追えなくなること自体が異常で…。それに、僕らが到着した時には、彼らの手によってすでに遺跡のシステムが起動していました」
「………」
執務室に重い沈黙が落ちる。
「…彼らは優秀な共同体だ。現在も教会の監視任務を引き続き行ってもらっているが、報告も問題なく、定期的に上がってきている。彼らに限ってそのような不審な真似を…」
「…………」
「いや。報告は感謝する。いずれにせよ、彼らの目的が不明な以上、軽率に動くことはできない。こちらの調査は私が承った。コータ殿も十分に気を付けてくれ」
「はい、ありがとうございます」
それだけ言うと、僕とニーナさんは深く一礼して執務室を後にした。
「じゃあ、行こうか。ニーナさん」
「はいっ」
◇
数時間後。僕たちは見慣れた街、ゼノスへと降り立っていた。
王都での激動の日々を経て戻ってきたここは、まだ一か月も経っていないはずなのに、なんだかひどく懐かしい空気に包まれている気がした。
「あっ、コータ!それにお人形サンも居るネ!」
ふと、遠くから見知った元気な声が聞こえてくる。
見ると、チャイナ服のような独特の意匠の服を着た小柄な女性が、こちらへと走って近づいてきた。
「シャオさん!お久しぶりです!」
満面の笑みで駆け寄ってきたシャオさんだったが、僕たちの背後に控えているジリウスの姿を見ると、あからさまに表情を強張らせた。
「あの…ニーナです。そして、こちらがジリウスさんです…」
「…あの、『太陽』の…アルか…?」
怯えたように一歩下がるシャオさん。
無理もない。エテリスに住む人々にとって、彼の放ったあの光と熱は、今でも恐怖の象徴だ。
「こんにちは、シャオ。よろしくお願いします」
しかし、ジリウスさんはそんなシャオさんの心情を知ってか知らずか、すっと綺麗な所作で右手を差し出した。
「…」
シャオさんは差し出された右手と、僕、そしてニーナさんの顔を順番に不安げに見つめる。
「もう、大丈夫ですよ。彼はニーナさんがしっかり管理していますから。一件落着しました」
「…シャオレイ、ネ。シャオって呼ぶヨ」
僕が優しく頷くと、シャオさんは恐る恐る手を伸ばし、ジリウスさんと握手を交わした。 どうやら、少しだけ警戒を解いてくれたようだ。
「あ、あの、クローディアさんやデリクさん、エレーナさんはお元気ですか?」
僕が気を取り直して尋ねると、シャオさんは呆れたように肩をすくめた。
「アレから、ショボい依頼ばっかりネ!でも、今回は楽しそうアル!」
「もしかして、今回の北の魔物討伐の協力者って……」
「そう。私たちよ、コータさん」
背後から、艶のある大人の女性の声が響いた。
「クローディアさん!」
振り返ると、そこにはクローディアさんが立っていた。
クローディアさんは僕を一瞥し、それから隣のニーナさんをジッと見つめる。
「あらあら。私とアルテアちゃんという者が居ながら、また可愛い子を連れて…罪な人ね、コータさん」
「そ、そんなんじゃないですって……!」
そんなやり取りをしていると、アルテアがふわりと僕の前へと出た。
「クローディア」
「あら、アルテアちゃん。いいわよ、いらっしゃい」
ポスッ。
挨拶もそこそこに、アルテアが無表情のままクローディアさんの胸元へと飛び込んだ。
「ふふっ、ニーナさんと、ジリウスさん、ね。改めてよろしくね」
クローディアさんは、アルテアが胸に刺さったまま、ニーナさんへと妖艶な視線を向ける。
この人は相変わらずだな…。
「よ、よろしくお願いします…」
いきなりのカオスな展開に、ニーナさんは困惑しつつもペコリと頭を下げる。
僕はそのやり取りを見ながら、少し騒がしくて温かい、ゼノスの懐かしい空気を全身で感じていた。
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