第80話:神に選ばれし者たち
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ロックスさんと、モーラさん…。
あの二人は一体、何者なんだろう。
普通の人間が一瞬で、まるでかき消えるようにいなくなるなんて、ありえない。
でも、この世界にある『魔法』なら、あんなこともできたりするのかな…?
コータさんも驚いていたし、やっぱり普通じゃない人たちなのは間違いない。
そんな不安な考えを巡らせながら、私たちは深い苔に覆われた古代の建物へと近づいていった。
「ニーナさん、ここから入れるみたいだよ」
コータさんが立ち止まったのは、破壊された工場のような施設の一角だった。
そこには重そうな鉄の扉と、その横に…なんだか見覚えのある、カードリーダーのような装置が取り付けられていた。
さっきコータさんも言っていたけれど、本当に私たちの元の世界の施設みたいだ。
「アルテア、これ開けられる?」
コータさんの問いかけに、アルテアさんが静かに頷き、カードリーダーのようなパネルにスッと手を触れる。
―カチン
微かな電子音と共に、重厚な鍵が開いたような音が響いた。
「開けるよ…」
ギィィ…と、錆びついたような軋む音を立てて扉が開く。
「やっぱり、システムが起動してる…電気もついてるし」
薄暗い遺跡の中を想像していたけれど、内部は青白い蛍光灯のような光で煌々と照らされていた。
「ここは…工場…?」
中には、コンベアのような装置や、何に使うのかもわからない巨大な機械がずらりと並んでいた。
そして部屋の片隅には、パレットの上に、梱包されていると思しき何かの部品が積まれている。
「ニーナ、これだ」
アルテアさんが指し示した先には、小さな回路がいくつか入ったケースがあった。
「これが、ジリウスさんの修理用パーツ…?」
「そうだ」
「じゃあ、これを持って帰ろう」
コータさんはそのケースを手に取ると、落とさないように慎重にバッグへとしまった。
やった、これで、ジリウスさんを修理できる…!
「よし。じゃあもう一つの目的…アルテア、クラウドサーバに接続できる?」
「システム、神性魔導演算回路への直接アクセス、承認。クラウドサーバとの同期を開始――」
アルテアさんは何もない虚空を見つめたまま、その無機質な瞳をチカチカと明滅させる。
「同期率…80%…95%。警告、同期エラー。部分復旧に移行」
「何か新しい情報はある?アルテア」
「具体的な検索条件の提示を要求する」
「えぇっと…じゃあ、前にリブロ遺跡で途中までしか聞けなかったことを教えて。『多様性』とかなんとか言ってたよね」
「そうだ」
コータさんの質問に、アルテアさんは淡々と答える。
「その…『多様性』って…?」
私も気になって、思わず横から口を挟んだ。
「この世界――エテリスの状態によって、我々を扱う管理端末の『選定条件』は決定される。1000年前の神魔大戦前は、人類の技術躍進が目覚ましく、神の理を侵すところまできていた」
「それが、アルテアたちが目覚めるきっかけだったんだよね」
「そうだ。その結果、破壊を求める者…精神的に不安定な人間が優先的に選定されたようだ。だが、具体的な選定条件にはアクセスできない」
「…なんでまた、そんな不安定な人が選ばれたの?ただ壊すだけだったら、わざわざ別の世界から管理端末なんて呼ばなくても、アルテアさんたちだけで問題ないよね…?」
私が不思議に思って尋ねると、アルテアさんは少しだけ首を傾げるようにして言った。
「それが、神が仕組んだ『多様性』だ。破壊するだけならニーナの言う通り、我々端末だけで事足りる。だが、神は不確定要素…すなわち多様性を仕込み、その結果を『観測』するために、並行世界の人間をこの世界に呼び出すプログラムを組んでいた」
「観測…?エテリスは、神様の実験場みたいなものだってこと?」
コータさんが、信じられないといった表情で声を震わせる。
「じゃ、じゃあ、なんで今回は僕とニーナさんが選ばれたの…?」
「現在、この世界は人類の定義で言う『平和』な状態だ。破壊を行ったところで、何も新しいデータは生まれない。故に、平々凡々な人間に『絶対的な力』を与える…という観測…アクセスエラー」
そこで、アルテアさんの言葉がプツリと途切れた。
至って平凡な人間。 なんだか遠回しに貶されているような気もするけれど…怒る気にはならなかった。
だって、間違っていないから。
特別な才能があるわけでもない。一般的な常識の中で、ただ平凡に生きていた私は、まさにその『条件』に該当する。
「…そっか…。ニーナさん、他に何か聞いてみたいことはある?」
少し重くなった空気を変えるように、コータさんが私に話を振ってくれた。
「そうだなぁ…じゃあ、アルテアさんのその、前の管理端末とか…」
「あ、それすごく気になるな。教えてもらえる?」
コータさんも身を乗り出す。
「アクセス可能だ。――名は…」
静まり返った古代の工場で。 アルテアさんは、かつて自分と共に歩んだ人間の名を、淡々と語り始めた。
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