第81話:始まり、あるいは終わり
※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。
「ここは…どこや…。ウチは…」
暗く冷たい金属の床の上で、一人の若い女性が目を覚ました。
薄汚れた着物に身を包んだ彼女――妙が痛む頭を押さえながら顔を上げると、傍らには一人の人間が立っていた。
銀髪をなびかせた、人ならざる美しさを持つ長身の美丈夫。
その身に白銀の甲冑を纏う彼は、神が創りし執行端末2号…アルテアであった。
「管理端末。指示を」
アルテアは、座り込む女性を無機質な瞳で見下ろしながら告げた。
「浮いとる…。いや、指示って?あんた、ここがどこかわかるか?」
「ここは『格納庫』だ」
タエが恐る恐る周囲を見渡すと、無骨な金属の壁に、不規則に明滅する回路のような光の帯が走っていた。彼女の生きていた時代、住んでいた場所では、決して見ることのない異質な光景だった。
「『かくのうこ』…?意味が分からん。とりあえず、自己紹介や。ウチは妙や。あんたは?」
「執行端末2号。通称、アルテア」
「しっこう…にごう?あるてあ…けったいな名前やな」
「タエ。指示を」
「だから、指示ってなんやねんな…」
タエが困惑して立ち上がろうとした、その時だった。
――ドン…ッ!ズズズズズ…!
腹の底に響くような爆発音と共に、激しい地響きが格納庫全体を揺らした。
「うわぁっ!?な、なんや、地震か…!?」
「恐らく1号だ。ここは危険だ、脱出するか?指示を」
「ああもう、ようわからんけど…頼むわ!」
「了解、タエ」
アルテアが静かに右腕を空高く掲げると、その手に光が収束していく。
「消去」
直後、タエは視界を真っ白に染め上げる閃光に思わず目を強く瞑った。
轟音と共に頭上の分厚い金属の天井が文字通り「消滅」し、目を開いたタエの頭上には、どこまでも青い空が広がっていた。
「は…?」
「脱出する。反重力」
「うわっ、わあああああっ!?」
ふわり、とタエの身体が浮いた刹那。
二人は重力に逆らい、頭上の大穴から上空へと凄まじい速度で飛翔した。
「と……飛んどる…。なあ、あるてあ、あっちの、あの光はなんや」
上空で姿勢を安定させたタエが指さした方向。
そこでは、多数の飛翔体――人類が持てる技術を注ぎ込んだであろう戦闘機らしき群れと、二つの人影が空中で高速移動しながら交戦していた。
その瞬間、空を舞っていた四つの飛翔体が、光の直撃を受けて文字通り『砂』となって空中に散った。
「あれは、執行端末1号。通称、ジリウス」
「あるてあ、の……友達か?」
「その表現は齟齬がある。『兄弟』が適切だ」
「兄弟…」
アルテアの言葉に、タエはふと自身の故郷に残してきた兄弟たちに想いを馳せた。
(虎…太郎丸…それにお父ちゃん、お母ちゃん…皆、大丈夫やろか…)
そんな彼女の郷愁を切り裂くように、飛翔体との戦闘をあっさりと終えた二つの影が、タエとアルテアの元へと急速に距離を詰めてきた。
直前でピタリと止まって空中に浮遊するのは、アルテアとほぼ同じ顔、同じ姿をした執行端末1号、ジリウスと、その傍らに立つ一人の男だった。
「ああ、君が2号の管理端末かな?私はウォルター。君は?」
「うぉるたー…?…ウチはタエや」
愛想よく笑いかけてくる男だが、その瞳の奥にはどこか常軌を逸した暗い炎が揺らめいていた。
「ふぅん…タエ。君は『やらない』のかい?」
「…やる?」
「破壊行為さ!楽しいよ!さっきの空飛ぶ鉄も、ジリウスにかかれば一瞬で砂さ!見ててよ…」
ウォルターは無邪気な子供のように笑いながら、遠くの地平線を指さした。
彼が指さした先には、ここから50キロメートルは離れているであろう、巨大な都市が見えた。
「ジリウス。あれ、壊して」
狂気を孕んだあまりにも軽い命令。
しかし、神の創りし端末は、その命令を絶対のものとして受理する。
「了解、ウォルター。――抹消」
ジリウスが右腕をその街へと向けた瞬間、彼の周囲を純白の光が包み込んだ。
そして、光が収束し、放たれた次の瞬間。
「え…どないなっとるん……」
「あはははは!文字通り、消滅したのさ!跡形もなく、ね!」
タエの視界の先、数万の人々が暮らしていたであろうその巨大な都市は、音すら無く、すり鉢状の巨大なクレーターへと変貌し、完全に『無』へと還っていた。
「あるてあ…これは、夢か?」
震える声で尋ねるタエに、アルテアはどこまでも冷酷な事実を告げる。
「夢ではない。現実だ」
――こうして、平凡な村娘であったタエは、後に語り継がれる『神魔大戦』の絶望的な渦中へと巻き込まれていくのであった。
※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。
箱庭少女のロジックを1話から読む
▶https://ncode.syosetu.com/n9084lw/3/




