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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
修復編

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第77話:未来への願い

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「僕は…僕は、アルテアを、ジリウスをもう一度、起動したい」


 自身の言葉に重みを乗せるように。

 そして、自分自身の決意を確かめるように。

 僕は膝の上で固く握りしめた拳を少しだけ見つめてから、ゼイルさんへと真っ直ぐに向き直った。


「ゼイルさんの言う通り、執行端末の権限は僕たち管理端末に委ねられています。それは、一人の人間が持つにはあまりにも大きすぎる力です」


 次に、厳しい表情を崩さないアッシュさんを見る。


「アッシュさんの意見ももっともです。現にニーナさんは兵器として利用され、『太陽事件』が起きた。その危険性を、僕らは肌で知っています」


 全員の視線が、僕の一挙手一投足に注がれている。

 言葉に詰まりそうになるのを必死に堪え、続ける。


「でも、それを止めたのもまた、執行端末であるアルテアでした。…執行端末がこの世界に居なければ、そもそもあんな事件は起きなかったんじゃないか。それはその通りかもしれません。でも、彼らを再起動したのもまた、この世界の人々なんです」


 ふと、視界の隅でサイラスさんのニヤリとした笑みが見えた。


「アルテアは、僕の主観を抜きにしても、確かに変わってきています。人類を、人間の心を理解してきている。感情論になってしまうかもしれませんが、僕は…彼女らを信じたい」


 言葉を区切り、僕は大きく息を吸い込む。


「そして…僕らが呼ばれたのには、絶対に何か、理由があるはずなんです」


 隣に座るニーナさんを見やると、彼女は力強く、こくりと頷いて返してくれた。

 その瞳には、確かな意志が宿っていた。


 ニーナさんも静かに立ち上がり、全員に向けて言葉を紡ぐ。


「ここからは、私たちからのお願いになってしまいますが…。研究にも、ギルドからの依頼にも、全力で協力します。だから…だから、再起動を、またこの世界に彼らを呼び戻すことを、許可してください」


「お願いします」


 僕とニーナさんは、深々と頭を下げる。


 怖い…。否決されてしまえば、アルテアに二度と会えないかもしれない。

 

 隣で頭を下げるニーナさんも、握りしめた手が小刻みに震えているのが見える。


 アルテアが居ない世界。今の僕には、そんなの想像もつかない。

 表情は変わらないし、時々物騒なことを言うけど…それでも、彼女は僕の大切なパートナーだ。


 これは、恋愛感情ではない。単純な愛情とも少し違う。

 なんだろう、この奇妙な感覚は。


 それが『神』による理のせいなのかはわからないけれど、とにかく、一緒に居たいと思う。

 隣のニーナさんの震えからも、僕と全く同じ気持ちであることが痛いほどに伝わってくる。


「…頭を上げてくれ、コータ殿、ニーナ殿」


 やがて、マクシミリアンさんの静かな声が降ってきた。

 顔を上げると、彼はどこか複雑な表情を浮かべながら、ぽつりと語り始めた。


「反対が2、賛成が3、中立が2…民主主義において、多数決という考え方はとても合理的だ。だが、民意とは、決定とは、本来そう単純なものではない」


 彼の言うことは尤もだ。

 ただの大学生に過ぎない僕には、反論のしようもない。

 張り詰めた沈黙の中、マクシミリアンさんは僕たちの目を見て、ゆっくりと告げた。


「だが、コータ殿とニーナ殿の強い決意は伝わった。世界を救ったコータ殿の意見を尊重し、すでに実績のあるアルテア殿は再起動する。…それに、いずれ来るかもしれない『未知の脅威』に備えるためにも、彼女たちの力は手放すべきではない。…ただし」


「ただし…?」


ニーナさんが、不安げにその言葉を繰り返す。


「ジリウス。彼については、起動後も自由にどうぞ、というわけにはいかない。コータ殿には暫く彼らの監視をお願いしたい。…いわゆる、執行猶予というやつだ」


「じゃあ…!」


「喜ぶのはまだ早いぞ、ニーナ殿」


 表情を輝かせたニーナさんを窘めると、マクシミリアンさんは再び議事堂全体を見渡した。


「皆、どうだろうか。異議がある者は申してくれ」


「…異論はありません。が、何か不穏な動きがあれば、すぐに対処をお願いしますよ、コータさん」


 ゼイルさんは、小さくため息をつきながらも、僕に釘を刺すように言った。


「イグニスも、管理端末である、コータとニーナの決定に従う」


 アッシュさんも、短くそれに続いたことにより、反対派だった二人の了承を得た。

 マクシミリアンさんが深く頷き、会議を締めくくる。


「満場一致、とは言えないが…これにより、執行端末1号ジリウス、2号アルテア両名の再起動を承認するものとする」


「コータさん!やったぁ!」


 その瞬間。

 ニーナさんが嬉しさのあまり、議事堂の真ん中だというのに僕に勢いよく抱きついてきた。


「ちょ、ニーナさん、ちょっと…!」


「えっ…あっ!す、すみません……!」


 ハッとして離れたニーナさんの顔が、一瞬でりんごのように赤く染まる。

 僕自身も、顔から火が出るほど真っ赤になっている自覚がある…。


 そんな僕たちのやり取りを見て、アッシュさんが優しく微笑みながら近づいてきた。

 彼は僕の肩にポンと手を置くと、無骨な手から確かな温もりを伝えてくれた。


「ニーナを、そしてジリウスを…頼んだぞ」


「はい…!」


 僕は、アッシュさんの期待に、そしてこの議事堂にいる全員の決断に応えるように、力強く頷いた。


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