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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
修復編

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第76話:静寂なる再起動の是非

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 魔導商都セレスティア、ギルド本部。

 その中心に位置する大議事堂には、重苦しい緊張感が張り詰めていた。


「…であるからして、執行端末の危険性は皆も周知のとおりだ。再起動の是非を、ここで議論したい」


 静まり返った議事堂に、ギルド事務総長マクシミリアンさんの低く威厳のある声が響き渡る。


「ギルドはあくまで中立の立場は崩さない。まずは皆の意見を聞きたい」


 その言葉を皮切りに、重い空気を切り裂くように一人の男が立ち上がった。


「私は、反対です」


 セレスティア議長、ゼイルさんだ。彼は静かに、だが確かな意志を持った声で口を開く。


「人類は、1000年前に失われた古代技術を少しずつ紐解きながら、今日まで発展してきました。我がセレスティアは、その最たる国です。魔導技術の発達により、人々の生活は豊かになりました。魔導機関車や、発電…。魔導銃などの兵器もその一つではありますが…」


 そこで言葉を区切ると、ゼイルさんは苦々しい表情を浮かべた。


「ただ、執行端末は、我々人類には過ぎたるものです。物理法則を捻じ曲げ、あまつさえその鍵は、個人が持っている…危険すぎます」


 ゼイルさんは、重い視線を僕と、隣に座るニーナさんへと一瞥する。

 そこにあったのは敵意ではない。為政者としての、純粋な警戒と憂慮だった。

 彼はそれ以上語ることなく、静かに席へと座った。


「私は、賛成ですねぇ」


 直後、ゼイルさんの重い意見を相殺するように、サイラスさんが着席したままゆらりと話し始めた。


「ゼイルさんも仰られていましたが…我々が享受しているテクノロジーは、その大半が古代技術を解析し、得られたものです。これまで魔物への対抗も、一部の才ある共同体レゾナントに頼らざるを得ませんでしたが、近年では個人で行使できる小型火器も開発されています」


 サイラスさんの口元に、科学者特有の薄い笑みが浮かぶ。


「それも、個人で執行できる火力という点においては、執行端末と遜色ない。まあ、規模は違いますがね。ともかく、モノは使いようということです。執行端末から得られる知見は無限です。それをむざむざ、また土の下に戻すというのは…科学者という目線からは到底納得できませんねぇ」


「ふぅむ…」


 マクシミリアンさんは顎に手をやり、深く考え込んでいる。

 二人の言い分は、どちらも何も間違っていない。

 ゼイルさんの危惧も、サイラスさんの合理性も。

 間違っていないからこそ、この議論は難しい。


「俺は、反対だ」


 次に口を開いたのは、イグナートの代理として出席しているアッシュさんだった。

 周囲を射抜くような鋭い目で、彼は断言する。


「太陽事件…総司令が引き起こしたことだが、事の発端はジリウスという強すぎる力が原因だ。それに、起動を許せば管理端末たるこの二人が事件に巻き込まれるケースも今後あるだろう」


 その言葉に、ニーナさんがピクリと肩を震わせた。

 そうだ。もし執行端末を再び起動すれば、僕たち自身に危害が及ぶことも当然あるだろう。


「国という立場から個人に肩入れするのは間違っているかもしれない。だが、その個人もこの世界に生きる一人だ。それは違えようのない事実だ」


「アッシュさん…」


 ニーナさんが、その不器用な優しさに触れて小さく呟いた。

 そして、再び議事堂に重い沈黙が降りる。


「………アウレリウス殿。レガリスの意見を聞きたい」


 マクシミリアンさんが、それまで沈黙を通していたレガリスの王、アウレリウスさんへと話題を振った。


「…………儂は、どちらでもよい」


 椅子に深く腰掛けたまま、アウレリウスさんはひどく冷めた声で答えた。


「眠らせておくなら、それも良かろう。再度起動するというのなら、ギルドが監視端末共々、厳密に管理しておけばいい。そうすれば、イグナートのような者への抑止力にもなるだろう」


 それだけを言い放つと、彼はまた興味を失ったように元の姿勢へと戻った。

 …なんだか、ずいぶんと投げやりだな。


 これで、各国の代表の意見は出揃った。

 議事堂の空気が、さらに一段と張り詰めるのを感じる。

 そして、マクシミリアンさんの鋭い眼光が、真っ直ぐに僕を捉えた。


「では、コータ殿。君の意見を聞きたい」


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