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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
修復編

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第75話:玉座に座る者

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 聖教都市オラトリアの中心に聳え立つ、太陽教会総本山の最奥部。


 そこは教団の最高位の者たちですら限られた日時にしか立ち入ることを許されない、絶対の不可侵領域。通称、『神の間』。


 無数のステンドグラスで太陽の光を取り込んでいる大聖堂の表向きの顔とは裏腹に、その最深部は窓一つない石室であり、深い闇に沈んでいた。


 だが、その奥の玉座には、確かに『彼』が存在していた。


「どうだった、ロックス、モーラ。ギルドは愉しかったかな」


 冷たい空気を切り裂くように、凛とした、だがどこにも感情の焦点を結ばない奇妙な声色が響いた。

 その声に応えるように、入り口の影から長身の男と小柄な少女が、足音もなく姿を現した。


「そうね、とっても刺激的だったわ。美しいコ達もいっぱいだったわね」


 ロックスが女性的な仕草で髪をかき上げながら、くすくすと笑う。


「あなたの気にしている『二人』もいたわよ」


「ふふふ。ジリウスの管理端末たるニーナ君。…そして、愛すべきイレギュラー、コータ君…」


 『彼』の言葉には、まるで長年待ちわびた恋人の名でも呼ぶような、ねっとりとした執着がこびりついていた。


「教祖サマ。…ウレシソウネ。ソンナ声、初メテ聞イタ」


 モーラが、冷ややかな碧眼で玉座の影を見据えて指摘する。


「嬉しそう、私がかね?…ふふふ、ハハハハハ!当たり前じゃないか!1000年…1000年間だよ?わかるかい、モーラ!この同じ脚本の三文芝居を見せられ続けた、私の長きに渡る退屈が!絶望が!」


 芝居がかったその声は、一見すると滑稽なほどに大仰だったが、言霊の奥には狂気にも似た、焼け焦げるような確かな『熱』が宿っていた。


「…あ、外の信徒の方々も、空を覆った『二つ目の太陽』の出現に随分と浮ついていたわよ。…あなたから彼らに、今は何も指示しないの?」


 ロックスが肩をすくめる。


「必要ないさ。何たって、一番浮ついているのはこの私なのだから。…大司教達には、いつも通り、神への祈りを絶やさぬようにとちゃんと伝えてある」


「それもそうね。ジリウス君とアルテアちゃんが奇跡的に再起動した。あの王様の野心にも、乗る必要がない。もうあなたを縛るモノは何もないものね」


「アレ。ヤルノカ?」


 モーラが、無機質な声で単刀直入に問う。


「急いては事を仕損じるというだろう。舞台の幕引きは、キャストも大道具も、最高の準備を整えなければ美しくないのだよ」


 『彼』はそう言うと、闇の中から『何か』をロックスに向かって放り投げた。

 チャリン、と硬質な音を立ててロックスの手の中に収まったのは、奇妙な幾何学模様が刻まれた、回路の様な何かだった。


「ロックス、モーラ。ウルゴ遺跡へと向かってくれるかな。鍵は、それを使ってくれたまえ」


「分かったわ。でも、ギルドのお仕事がお休みの時よ。あたしたち、真面目な共同体レゾナントだもの」


「わかっているさ。仕事をしっかりとこなすからこそ、休日がより一層輝くのさ。どうだい?また、恩寵ちからが必要かな?」


 仮面の奥で、『彼』の目が妖しく光ったかのように見えた。


「いいえ、今はもう十分よ。…過剰摂取はお肌に悪いし、美しさを損なうわ」


「殊勝だね。足るを知るということはとても大事だ。だからこそ、私は君たちが好きなのだがね」


 『彼』の乾いた笑い声が、石室に反響する。


「…で、あなた自身はどうするつもりなの?」


 ロックスの問いに、『彼』は仮面をきらりと輝かせながらゆっくりと立ち上がった。


「私は…そうだな。会いに行こうかな…直接」


「あら、あなたにしては珍しくアグレッシブね」


 『彼』の足取りは、まるで舞踏会へと向かう貴族のように軽やかだった。


「ふふふ…楽しみだよ。どんな話をしようか…」


 男の歓喜が、深い闇の底へと溶けていった。


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