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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
大陽編

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第63話:まどろみは蒼に溶け、うたかたへ砕ける

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 私は、水の中に沈んだような、どこかふわふわとした感覚の中にいた。

 温かくて、心地よくて。

 もう、何も考えたくない。このまま、ずっと漂っていたい。


「『……さん。……にいみさん!』」


 遠くの方で、誰かが私を呼んでいる。

 ……うるさいなぁ。せっかくいい気分で寝てたのに。


 ここは、どこなんだろう。

 上下も左右もない、真っ白で、何もない空間。

 でも、ちっとも怖くない。むしろ、実家の布団の中にいるみたいに安心する。


 …また、眠りたい。


 ……。


 ……ん?


 なんだか、枕が……。

 ……すごく、モフモフしている。


「……コロちゃん?」


 ふふっ、かわいいなぁ。

 どうしてこんなところに、コロちゃんがいるんだろう。


 コロちゃん、コロちゃんって…。


「『新見さん!!』」


 さっきよりずっと、はっきりと聞こえた。


「………こうさ……か……さん」


 そうだ。思い出した。


 私は、新見新菜。

 日本の大学に通っていて、コンビニでバイトをして。

 急にエテリスっていう世界に連れてこられちゃって。

 軍の精鋭の皆さんに良くしてもらって……。

 …そうだ。隣に、いつもジリウスさんが…。


「『…ダブルシフト……コーヒー、美味しかったよね』」


 また、香坂さんの声がする。


 白い雪。

 駐車場の冷たい空気。

 あの時のコーヒー。


「『明けない夜はないんだ。…終わらないバイトもない。シフト終了だ!!』」


 ――シフト、終了。


 その合言葉が、私の頭を覆っていたドロドロとした黒い霧を、一瞬で吹き飛ばした。 そうだ、私は…!



カッと目を開けると、そこには目を焼くような黄金の『太陽』があった。


「……ッ!!新見さん……!!」


 目の前に、ボロボロになりながら私を必死に呼ぶ香坂さんの顔がある。

 今の状況、完全には分からない。

 でも、ここが「マズい」状況であると、本能が理解していた。

 空気が、肌を焼くほどに熱い。


「新見さん!ジリウスを、止めて…!」

「…ッ!させん!」

「ぐ、ぅッ!?」


 香坂さんの身体が、無慈悲な軍靴によって思い切り蹴り飛ばされた。

 空中でくの字に折れ、弾き出される香坂さん。


「…、イグナート…さん……!」


 その声の主を見て、私は胸の奥が凍りつくのを感じた。

 そうだ、私はこの人に…。


「ジリウスさん!!もう、やめて!!お願い、止まって!!」


 掠れる喉から、魂を絞り出すように絶叫した。

 頭上で太陽を作り出していたジリウスさんが、ガクン、と首を動かした。


「了…か…」


 パアァンッ!!


 爆発音が響いた。

 ジリウスさんの右腕が、肩の付け根から弾けるように粉砕された。

 ジリウスさんは、糸が切れた人形のように、空中でピクリとも動かなくなった。


「げほっ…げほっ。…まずい。機械人形オートマタの素体が…最大出力に耐えられなかったんだ…!」


 香坂さんが悲痛な顔で吐き出す。

 でも、ジリウスさんが生み出したであろう、あの『太陽』は、まだ消えていない。

 臨界を迎えたエネルギーは、主を失ってもなお、世界を焼き尽くそうと膨らみ続けている。

 そして私とイグナートさんの身体を支えていた浮遊魔法も、ジリウスさんが機能停止したため、少しずつ高度が下がり始めていた。


「アルテアッ!!最大出力で…なんとか、してくれッ!120%だッ…!」

「了解、コータ」


 小さな、銀髪の少女から、神々しいまでの光が溢れ出した。

 世界の全てを飲み込むような輝き。


相殺ロウリバーサル…出力120%」


 アルテアさんの右手に集った光が、黄金の太陽を丸ごと飲み込んだ。

 





 一瞬、世界が、真っ白な静寂に包まれ――

   パリン






 氷が割れるような、清らかな音が響いた。

 死の太陽は、巨大な「宝石の塵」へと姿を変え…。

 七色の輝きを放ちながら、粉々に砕け散っていった。


「…ありがとう、アルテア」

「コータ。どうやら私の素体も、持たなかった、ようだ」


 アルテアさんの両腕が、ハラハラと欠片のように散っていく。


 私と、イグナートさん。

 沈黙したジリウスさん。

 そしてボロボロの香坂さんと、動かなくなったアルテアさん。


 支える力を失った私たちは、重力に従って、海面へと真っ逆さまに落ちてゆく。


 視界が、青い海で埋め尽くされていく。

 あぁ、 このまま、本当に…死んじゃうんだな。


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