第64話:潮風と揺り籠の馬車
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「…タ。……コータ君!おい、起きてくれ、コータ君!!」
僕を呼ぶ声に反応して、目を開けようとしたけど…ま、まぶしい……。
白飛びした太陽の光と、必死に僕を呼ぶ男性の顔があった。
ようやくその明るさに目が慣れてくると、視界のピントがゆっくりと合っていく。
「な、ナギさん……」
「おぉ!起きたで!おい、コータ君は無事や!そっちはどないや!」
ナギさんが大声を張り上げると、少し離れた場所から落ち着いた声が返ってきた。
「こちらも多分大丈夫です。…アルテアさんは機能を停止しているようですが、核付近に損傷は確認されません」
あ、あっちにはヴィクトールさん。
…よかった、アルテアは無事なんだ。
「お前らはどないや、赤服さん。……もう戦う気力はないようやな」
視線の先には、ヴォルカニア軍の赤い軍服。
灰色の髪に、揺るぎない眼差し……あの時の…。
「ク…クソッ!新見さんに……新見さんに触るなァ!」
僕は反射的に叫び、彼女を庇おうと身を乗り出す。
けど、ナギさんがすっと、僕を制した。
「コータ君、落ち着きぃ。…ちゃうねん、そうやないんや」
「…我が軍の総司令が…多大なる迷惑をかけたこと、心から謝罪する」
灰色の髪の男性が膝を折り、僕に向かって深く頭を下げた。
「コータ君、この人らも巻き込まれとんねん…今は、許したって」
イグナートの独断。
…彼らもまた、司令官の変貌に、己の正義を揺さぶられていた犠牲者だったんだ。
「ニーナも今、気が付いた」
ショートカットの女性が静かに告げる。
その腕の中には、力なく眼を開けた新見さんの姿があった。
「…ふわふわの兄ちゃんも、右腕以外は無傷だ。ただ、そっちの小娘と同じで、ピクリとも動かねェがな」
オレンジ色の髪をかきあげながら、男性がジリウスを差す。
アルテアと同じ、機械人形。
最大出力の負荷は、人間が造った素体程度では耐えられなかったようだ。
「…それで、どうなりましたか…イグナートは……」
僕は平静を取り戻し、辺りを見渡した。
どうやら、陸地に近い海岸線に救助されたらしい。
近くには数台の馬車が用意されていて、慌ただしく撤収の準備が整えられている。
けれど、どこを見ても、見当たらない。
「あいつなら、心配いらんで。真っ先にギルド本部に送らせたわ。厳重に拘束されてな。ま、あんな事しでかしたんや、相応の処遇やろ」
「そうですか…でも、みんな、無事なんですね。……よかった」
僕はその場に力なく座り込んだ。
アルテアと二人で、あの大陸消失の危機を食い止めることができたようだ。
◇
「…あの、空に太陽が出現する前や。丸っこい監視鳥が、必死にギルド本部に飛んできてな。…座標を教えてくれたんや」
ガタゴトと揺れる馬車の中。
僕は心地よい揺れに身を任せながら、ナギさんの話を聞いていた。
向かいの席には、ぐったりと横たわった新見さん。
そしてその隣には、物言わぬ機械人形となった二人が置かれている。
それにしても監視鳥のやつ…不細工なんて思ってごめん…。
頑張ってくれたんだな…。
「俺とヴィクトールは居ても立っても居られんで、すぐに出発したんやけど……。途中で、イグニスの赤服さんらとバッタリ鉢合わせしてな」
「彼らも、今回の騒動には色々と思うところがあったようで…コータさんたちの救助も率先して行ってくれました」
ヴィクトールさんは、イグニスの面々を庇うように付け加えた。
彼らも、大陸が吹き飛ぶなんてこと、望んでいなかった。
イグナートというカリスマに振り回され、彼らもまた、自分たちの正義がどこにあるのかを探していたのかもしれない。
「…なるほど、ありがとうございます。…新見さん…大丈夫?」
僕は、窓の外を見つめていた新見さんに声をかけた。
「…香坂さん。…はい、ちょっと、頭がぼーっとしますが、大丈夫です」
新見さんの返事は弱々しかった。
彼女の瞳には、まだあの激闘の光景が焼き付いているのかもしれない。
何より、動かなくなったジリウスさんを見つめる彼女の目からは、言い知れぬ不安と孤独が滲み出ていた。
「大丈夫だよ、新見さん。街に戻ったら、サイラスさんに診てもらおう」
「サイラス……さん?」
「うん。…ちょっと変な学者さんだけど、ギルドでも指折りの専門家だ。アルテアも、ジリウスも、きっと、元通りに直してくれるよ」
「……そう、ですか。…ありがとうございます、香坂さん」
彼女は小さく頷き、再び瞳を閉じた。
今はそっとしておいてあげた方がよさそうだ。
馬車は、爽やかな風を受けて進む。
目指すは、近隣の街――オラトリア。
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