第61話:焦土の縁で託す祈り
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空に、二つ目の太陽が姿を現した。
それは本来、万物に恵みを与えるはずのものだ。
しかし、「それ」は世界を焼き尽くさんとする破滅の胎動を孕んでいた。
ゼノスの街は混乱の極みにあった。
空から降り注ぐ光、そして異常なまでの気温の上昇。
「これは…。流石に不味いんじゃないカ…?」
シャオレイが黄金に染まった南の空を見上げながら、震える声で呟いた。
普段の彼女からは想像もできないほど、その横顔には深い絶望が刻まれている。
「おい、シャオ!!ぼーっとしてる場合か!早く住民を誘導しねぇと!!」
デリクが、逃げ惑う住民を先導しながら怒鳴り声を上げる。
力自慢の彼ですら、この「神威」の前には、成すすべがない。
「皆さん、こっちです!!出来るだけ北へ!」
エレーナも、喉が枯れるほどの声で必死に叫び続ける。
混乱する雑踏の中で、クローディアだけが、じっと立ち止まって空を見つめていた。
彼女の手は、祈るように胸の前で組まれている。
「コータさん、アルテアさん。…どうか、この世界を。この世界を、守って…」
小さな祈りは、熱風にかき消され、空へと消えていった。
◇
同時刻。
イグニス帝国、帝都ヴォルカニア。
空を埋め尽くす黄金の陽光が、三人の影を長く伸ばしている。
「イグナートさん…。俺は、認めねェ。…こんなやり方、絶対認めねェぞ…!」
エンバーは、自らの震える拳を強く握りしめていた。
「エンバー。…俺たちもここを離れよう。このままでは、巻き込まれる」
アッシュの声も、いつになく歯切れが悪い。
彼もまた、総司令であるイグナートへの忠誠と、一人の人間としての倫理観の間で、引き裂かれそうになっていた。
「そう、巻き込まれるわ。私も、総司令には言いたいことが山ほどあるけど。今は、生き延びるのが先決」
ヘイズもアッシュに続く。
「ニーナは…。あいつは、戦争の道具じゃ、ねェよ……」
エンバーが、搾り出すように声を震わせる。
彼は自覚がないままニーナに、自らの愛すべき妹、ルミナの面影を重ねていた。
そしてアッシュも、庇護すべき者として。
ヘイズもまた、一人の『友』として受け入れていた。
だが、軍人という立場、そして個人的な恩義。
彼らは今、自らの魂を殺し、ただ「世界の終わり」を見守ることしかできずにいた。
◇
同時刻。
魔導商都セレスティア、ギルド本部。
「事務総長。この力は、目覚めさせるべきではなかったのでは…」
セレスティア議長のゼイルが、窓の外の狂ったような空を見上げ、震える声でマクシミリアンに問う。
「…うむ。人の手に負えるものではない。……まさに、神の力、だ」
ギルド事務総長、マクシミリアンは、いつもの威厳をかなぐり捨てたかのように、ガックリと肩を落としていた。
彼らが何年もの月日をかけ、研究してきた「神の遺物」。
その真実の姿は、人類を救う光ではなく、人類を塵に還す、無慈悲な太陽だった。
「しかし、それを止めるのもまた、我々が呼び起こしたモノです」
サイラスは眼鏡をくっと上げる。
研究に没頭し、自らが組み上げた理論が今、まさに世界を終焉へと誘おうとしているにも関わらず、どこか他人事である。
「コータ君には、厳しいことを強いている自覚はありますが…」
「神よ…。
我々を見ているのだろう…。
…コータ殿を、アルテア殿を。
……どうか、彼らを無事に、家に…静かな場所へ、返してやってはくれないか…」
世界を統べる者たちの言葉も、黄金に染まる空の下では、あまりに無力だった。
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