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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
大陽編

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第61話:焦土の縁で託す祈り

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 空に、二つ目の太陽が姿を現した。

 それは本来、万物に恵みを与えるはずのものだ。

 しかし、「それ」は世界を焼き尽くさんとする破滅の胎動を孕んでいた。


 ゼノスの街は混乱の極みにあった。

 空から降り注ぐ光、そして異常なまでの気温の上昇。


「これは…。流石に不味いんじゃないカ…?」


 シャオレイが黄金に染まった南の空を見上げながら、震える声で呟いた。

 普段の彼女からは想像もできないほど、その横顔には深い絶望が刻まれている。


「おい、シャオ!!ぼーっとしてる場合か!早く住民を誘導しねぇと!!」


 デリクが、逃げ惑う住民を先導しながら怒鳴り声を上げる。

 力自慢の彼ですら、この「神威」の前には、成すすべがない。


「皆さん、こっちです!!出来るだけ北へ!」


 エレーナも、喉が枯れるほどの声で必死に叫び続ける。

 混乱する雑踏の中で、クローディアだけが、じっと立ち止まって空を見つめていた。

 彼女の手は、祈るように胸の前で組まれている。


「コータさん、アルテアさん。…どうか、この世界を。この世界を、守って…」


 小さな祈りは、熱風にかき消され、空へと消えていった。



 同時刻。


 イグニス帝国、帝都ヴォルカニア。

 空を埋め尽くす黄金の陽光が、三人の影を長く伸ばしている。


「イグナートさん…。俺は、認めねェ。…こんなやり方、絶対認めねェぞ…!」


 エンバーは、自らの震える拳を強く握りしめていた。

 

「エンバー。…俺たちもここを離れよう。このままでは、巻き込まれる」


 アッシュの声も、いつになく歯切れが悪い。

 彼もまた、総司令であるイグナートへの忠誠と、一人の人間としての倫理観の間で、引き裂かれそうになっていた。


「そう、巻き込まれるわ。私も、総司令には言いたいことが山ほどあるけど。今は、生き延びるのが先決」


 ヘイズもアッシュに続く。


「ニーナは…。あいつは、戦争の道具じゃ、ねェよ……」


 エンバーが、搾り出すように声を震わせる。

 彼は自覚がないままニーナに、自らの愛すべき妹、ルミナの面影を重ねていた。

 そしてアッシュも、庇護すべき者として。

 ヘイズもまた、一人の『友』として受け入れていた。


 だが、軍人という立場、そして個人的な恩義。

 彼らは今、自らの魂を殺し、ただ「世界の終わり」を見守ることしかできずにいた。



 同時刻。


 魔導商都セレスティア、ギルド本部。


「事務総長。この力は、目覚めさせるべきではなかったのでは…」


 セレスティア議長のゼイルが、窓の外の狂ったような空を見上げ、震える声でマクシミリアンに問う。


「…うむ。人の手に負えるものではない。……まさに、神の力、だ」


 ギルド事務総長、マクシミリアンは、いつもの威厳をかなぐり捨てたかのように、ガックリと肩を落としていた。

 彼らが何年もの月日をかけ、研究してきた「神の遺物」。

 その真実の姿は、人類を救う光ではなく、人類を塵に還す、無慈悲な太陽だった。


「しかし、それを止めるのもまた、我々が呼び起こしたモノです」


 サイラスは眼鏡をくっと上げる。

 研究に没頭し、自らが組み上げた理論が今、まさに世界を終焉へと誘おうとしているにも関わらず、どこか他人事である。


「コータ君には、厳しいことを強いている自覚はありますが…」


「神よ…。

 我々を見ているのだろう…。

 …コータ殿を、アルテア殿を。

 ……どうか、彼らを無事に、家に…静かな場所へ、返してやってはくれないか…」


 世界を統べる者たちの言葉も、黄金に染まる空の下では、あまりに無力だった。


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