第57話:冬の冷気に、ほのかな温もり
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「コロ…またか…。もう帰ろうよ、これからバイトなんだからさ…」
日本。関東某所。
夕暮れ時の住宅街に、僕の情けない声が響く。
吐き出す息は白く、本格的な冬到来を肌で感じさせていた。
僕は今、絶賛『帰宅拒否』を発動中の愛犬、コロと格闘していた。
20キロを超える雑種は、四肢をしっかりと大地に踏ん張り、テコでも動かないという強い意志を示している。
強引にリードを引っ張ると、首輪が首の皮がぐいと寄せられて、顔つきが『むぎゅっ』と潰れた不細工な形になる。
…いや、かわいいんだけどさ。
かわいいんだけど、毎回これをやられると本当に困る…。
「お前なぁ…。抱っこして帰るか……?」
20キロのモフモフした塊を抱えて、坂道を登る。
腰が死ぬ未来しか見えない。
僕がそんな絶望的な2択に悩んでいると、背後から明るい女性の声がした。
「香坂さん!お散歩ですか?」
振り返ると、そこには見知った女の子が立っていた。
厚手のマフラーに顔を埋め、少し赤くなった鼻先が冬の寒さを物語っている。
「新見さん。こんにちは」
新見新菜さん。
駅の近くにあるコンビニチェーン、『トゥエンティー・セブンティーン』で一緒に働くバイト仲間だ。
大学も学部も違うけど、シフトが被ることが多くて、話をすることが多い。
「ふふっ、かわいいですね。こんにちは…君、お名前は?」
「コロだよ。…帰りたくないっていうから、もうお手上げで…」
コロは僕の言うことなんて無視していたくせに、新見さんが優しく手を差し出すと、鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぎ始めた。
そして――あろうことか、ゴロンとお腹を見せて、撫でることを要求している。
「お腹、あったかいね…、コロちゃん」
「お前なぁ…」
新見さんがコロの腹を撫でると、コロは舌をべろんべろん出して甘え始めた。
デレデレだ。
「新見さん、これからバイトだよね。…僕も帰って、準備しなきゃ」
「はい。コロちゃん、早く帰らないと、香坂さん困っちゃうよ?また、今度遊ぼうね」
新見さんが優しく諭すように言うと、不思議なことに、コロはスッと立ち上がった。
「…なんで新見さんの言うことは聞くんだよ、お前……」
「あはは。じゃあ、また、バイト先で!」
「うん、また後で。…行くよ、コロ」
ふんっ、と鼻を鳴らして渋々付いてくるコロ。
早く帰って準備しないと…。
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