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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
ニーナ編

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第55話:不安定な盤の上に注がれる視線

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 リブロ遺跡で1号の起動を検知してから、数日が経過した。

 その衝撃的な事実を先んじて監視鳥バードを通じてギルド本部へと報告した。

 僕らは、報告のためにオーティスの支部へ戻らず、直接『魔導商都セレスティア』にあるギルド本部へと向かった。


 そして今、僕はとてつもなく息苦しい場所に座っている。


「ほな…始めよか」


 重苦しい沈黙を、ナギさんがいつもの調子で破った。

 けれど、その声にはいつもの余裕は微塵もなかった。


 豪奢な長机。

 そこに座っているのは、僕ら四人と、サイラスさん。


 そして――。

 ギルド事務総長、マクシミリアンさん。

 セレスティア議長、ゼイルさん。

 さらには、聖王国レガリスの王……アウレリウスさん。


 イグニスを除く、エテリスの主要二カ国とギルドのトップが一堂に会している。

 この顔ぶれこそが、今この世界に起きている「事態」の深刻さを、何よりも雄弁に物語っていた。


監視鳥バードの一報で、概要は把握している。…コータ殿、詳細を願えるかね」


 マクシミリアンさんが、眉間の皺を寄せながら僕に問う。


「はい…。まず、リブロ遺跡の調査は成功。クラウドサーバ…『神の意志』への接続も成功しました」


「ほう…」


 出席者たちが、一斉に生唾を飲み込む音が聞こえる。


「ただ、その直後、アルテアが1号の起動を検知しました。…アルテア、現在の状況を改めて説明してくれる?」


 僕の隣で、相変わらず無機質な表情を浮かべるアルテアが口を開く。


「物理的距離があるためスキャンによる精査は、反応の極めて強い1号のみに限定される。位置は火刻帝国イグニス、帝都ヴォルカニア。数日前、同地点において古代魔法の発動を確認」


「それは……完全に起動に成功したと見ていいのでしょうか」


セレスティアのゼイル議長が、震える手で眼鏡を直しながら言った。


「肯定。

 我々、執行端末は、コータと同様の『監視端末』が必要だ。

 その指示を受けたものと推測する」


 僕と同じ、現代日本から転移させられてきた誰かが、ヴォルカニアにいる。


「馬鹿なッ!!」


 突如、雷のような怒号が響いた。

 レガリスの王、アウレリウスさんが長机をドンと叩きつける。


「前回の執行端末奪還で、情報が漏れたのではないか!

 ギルド、あるいはセレスティアの管理責任を問わねばなるまい!!

 我が国の平和を脅かす兵器の起動を、奴らに許したのだぞ!!」


「落ち着くのだ、アウレリウスよ。…今は責任の所在を問うている場合ではない」


 マクシミリアンさんが静かに、だが重く王を制した。


「せやな…あのおっかない姉ちゃんや。

 やりよるやろな、とは思てたけど。…想像以上に手が早いわ」


 ナギさんがポツリと漏らす。「姉ちゃん」……総司令イグナート。

 アルテアへの執着、目的を完遂しようとする狂気。

 彼女なら、すぐにでも僕らへ牙を剥いてくるだろう。


「ギルドとしては、何か策が…。先手を打つおつもりですか」


 ヴィクトールさんがマクシミリアンさんに問いかける。

 ギルドの長である彼ですら、その表情には焦りが見える。


「ふむ…。2号――アルテア殿とコータ殿の協力は必須だ。

 君たち抜きでは、1号と互角に渡り合うことすら不可能だ」


 当然だ。

 あの力を抑え込めるのは、同じ力を持つアルテアしかいない。


「だが、無為にイグニスを刺激するのも得策ではない。…サイラス殿、古代技術研究の第一人者としての見解は」


 マクシミリアンさんに促され、サイラスさんは淡々と事実を突きつけた。


「起動してしまった以上、止める手立ては現状ありませんねぇ。

 …とはいえ、あちらの1号も、古代技術を解析して人間が復元した不完全な機械人形オートマタに過ぎません。

 どこかに綻びが、あるかも、しれません。

 まぁ、希望的観測に過ぎませんがねぇ……」


 サイラスさんは淡々と事実を突きつける。


「アルテア、1号…っていうのは分かりにくいな…1号にも通称はあるの?」

「執行端末1号。通称、『ジリウス』。内部ログに残る識別名だ」

「ジリウス、か…。アルテアとジリウス、どっちが強いの?」

「我々執行端末の基本スペックに優劣はない」

「互角……ということか」


 ゼイル議長が苦々しく漏らした。

 本格的な武力衝突が始まれば、この世界は一瞬で灰になる。


「本格的な戦いになる前に、こちらから接触する、というのはどうでしょう」


 ヴィクトールさんの提案に、ナギさんも頷く。


「せやな…。どっちにしろ、コータ君とアルテアさんしか止められへんからなあ…」

「接触など…危険すぎます!!」


 ゼイルさんは僕らの安否を気遣ってくれているのか、激しく否定した。

 けれど、僕は恐怖で震える拳を握りしめて立ち上がった。


「でも…行くしかないよね、アルテア」

「肯定」

「…若い者に全てを押し付けてしまう形となってしまったな…本当に、申し訳ない」


 マクシミリアンさんは、絞り出すような苦い声を出した。


「いえ…。僕には理由があります」


 僕は隣にいるアルテアを見る。


 急に日本から連れてこられたこの世界、エテリス。

 最初はアルテアに振り回されるだけだったけど…今は違う。


 だけど…今ではもう、僕はこの世界の住人だ。

 デリクさんやシャオさん、みんなのいるこの世界が好きだ。


 現代日本には、父さんや母さん、それに、僕が帰るといつも尻尾を振って出迎えてくれた愛犬のコロ…大事な人たちが待っているはずだ。

 いつ戻れるのか、そもそも戻れるのかさえ分からない。


 …けれど、だからこそ、今ここで最善を尽くさないと。

 逃げたままで、彼らに再会なんてしたくない。


 そういえば、父さんがよく言っていた。


 『実力を備えた者には、相応の責任がある。

  成せる者が、成さなければならない』


 かつては意味が分からなかったその言葉が、今は、一番しっくりくる。


 この世界で、僕にしかできないことがあるなら。

 …それを見て見ぬふりをするのは、僕の自身が許さない。


「監視端末としての義務があります」

「…分かった……明日、明朝より作戦を開始する」


 マクシミリアンさんは立ち上がり、宣言すると、次々に指示を出す。


「ギルドは最悪の事態に備えるよう、各支部へ伝達する。

 相当数の監視鳥バードを用意しろ!

 各地のBランク以上の有力な共同体レゾナントは個別に連絡を飛ばせ!」

「わかりました!」


 控えていたギルド職員さんが次々に走り出す。


「我々セレスティアは出来る限りのバックアップをしましょう…といっても食事と宿の手配程度ですが。サイラスさんは更なる調査のため、セレスティアに残ってください」


 ゼイルさんも身を乗り出して、助力を申し出てくれた。


「解散だ。コータ殿、健闘を祈る…エテリスを、頼んだ。

 コータ殿の監視鳥バードは連れていくといい。

 何かあれば、それで連絡をくれ」


「コータ君、頼んだで。俺らは一旦オーティスに帰るわ」

「頼れるのはあなたしかいません…お願いします」


 ナギさんは僕の背中をバン、と叩いて気合を入れてくれた。

 ヴィクトールさんは…複雑な表情だけど…心配してくれてるのかな。


「…はい!」


 僕は決意を固めて、力強く頷いた。

 そうして、慌ただしく会議の幕は閉じた。

 

 アウレリウス王が、終始無言で苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが少しだけ気にかかったけど。



 皆が去った、静まり返った会議室。

 しかし、その空間には、まだ二人の人影が残っていた。


「…リブロ遺跡での収穫はあったか」


 初老の男の声は、先ほどまでの激昂していたものとは違い、地を這うような冷徹さを帯びていた。


「はい…調査を行えば、更に近づくと思われます」


 若い男性の返答に、初老の男は拳を強く、白くなるまで握りしめた。


「そうか…。しかし、あの女狐め…。悉く私の邪魔をしおって」

「…あの、父上…本当に…」


 言葉を遮るように、初老の男が鋭い視線を向けた。


「復讐は、我が一族の悲願だ。…忘れたとは言わせんぞ、息子よ」

「…………承知いたしました」


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