表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
ニーナ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/60

第54話:衝撃は、奈落の底より深く

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

 サロン『鋼鉄の薔薇(アイアンローズ)』、バルコニー。

 眼下に広がるヴォルカニアを見下ろしながら、イグナートさんが立っていた。

 風で彼女の上着が翼のように翻っている。


「やあ、ニーナさん。お楽しみの所、悪かったね」

「いえ…。で、話というのは…?」


 やはり、何度対面しても慣れない。

 彼女から放たれる、物理的な質量さえ感じさせるような威圧感。

 オーラなんて言葉じゃ足りないくらいの、有無を言わさぬ王者の空気。


「こちらの世界での生活は、どうかな」


 不意に投げかけられたのは、意外にも世間話のような問いだった。


「えっと…。お陰様で、すごく充実しています。

 アッシュさんやエンバーさん、ヘイズさんも…みんな、私にすごく優しくしてくれて。

 正直、本当に助かっています」


 最初は怖かったけれど、今はここでの生活を「居場所」だと感じ始めている。

 私の言葉に、彼女は「そうか。それは良かった」と柔らかく返してくれたけれど。

 …その目は一切、笑っていなかった。


「あの…。呼んでいただいている身で恐縮ですが、一つ、質問してもいいですか」


 先ほどの演説で耳にした、不穏なキーワード。


「なんだい?」


「さっき…『レガリスの2号』というお話があったと思うんですが。

 …ジリウスさん以外の執行端末が、他にもいるんですか?」


 私の問いに、彼女は「あぁ、それか」という風に、どこか楽しげに表情を歪めた。


「そうだよ。ジリウス君以外にも、執行端末は現世に起動している。

 …執行端末2号。通称、『アルテア』さんだね」


「アルテア…」


 その名前が、胸の奥をチクリと突いた。

 …ということは。


 私の表情から何かを察したのか、イグナートさんはニヤリと唇を吊り上げ、右手で左頬の火傷の痕をゆっくりとなぞりながら、告げた。


「あぁ、そう。

 ニーナさんと同じ管理端末…『コータ』君も、同時に転移している。

 彼は今、隣国レガリスの庇護下にある。

 正確には国際魔法監視連盟ギルドの所属だが。

 …彼には楽しませてもらったよ……」


 日本人?…コータ。

 聞いたことがあるような気がする。

 口ぶりからすると…イグナートさんは会ったことがあるのかな。


 でも、同じ境遇の人が、この世界のどこかにいる。

 …会ってみたい。


「そう、ですか…」


「さて…、本題に入ろうか」


 イグナートさんの放つ空気が、一段階重くなる。

 それに呼応するように夜風が止まり、温度が下がる。


「単刀直入に言おう。

 ニーナさん、君には是非、我がイグニスの…。

 いや、新世界の『神』になってもらいたくてね」


「神?…話が見えません…」


「我々は、この世界に宣戦布告する」


 世界に、宣戦布告。

 それはつまり…大勢の人が死に、街が焼かれる「戦争」そのもの。


「是非、協力賜りたいのだが」

「戦争…。

 軍という場所に籍を置かせて頂いている以上、その可能性は考えていたつもりです。

 …でも、理由を、聞いてもいいですか…?」


 彼女なりの、何か抗えない「正義」あるいは「理由」があるのだろうか。

 イグナートさんは遠くを見つめ、静かに語り始めた。


「ふむ…そうだな。…世界は、管理されなければならないのだよ」

「管理……?」


「各国がそれぞれの稚拙な正義を振りかざし、それによって争いが起き、終わらない。

 …統一による治安維持。それこそが、世界平和への一番の近道だろう?」


「それは…」


「私がその役目を担おうというのだ。

 神の遺物による、圧倒的な支配と、武力。

 それによってのみ、恒久的な平和は成し遂げられる。

 我がイグニスが世界を統一すれば、さらに交易は盛んになり、エテリスはさらなる繁栄を遂げるだろう」


 あまりに合理的で、あまりに冷酷な言葉。

 私は震える唇を噛み締め、絞り出すように言葉を返した。


「それは…間違っています」


「間違っている?…何がだね」


「戦争して、殺しあうのは間違っています!それは同じ意見です。

 でも、それを武力で、力ずくで成し遂げるなんて、絶対に間違ってます!」


「ほう…。ではニーナさんなら、どう解決するというのかね。

 ぜひ、聞かせてもらいたい」


イグナートさんは一歩、私ににじり寄った。


「恨みの蓄積が問題か?

  ……なら、草木一本残らないほどに完膚なきまでに制圧すればいい。

 権力の腐敗が問題か?

  ……私の思想の下では、そんなものは許されない。

 多様性の喪失を恐れているのか?

  ……そんなものがあるから、争いが生まれるのだよ。

 倫理的に間違っていると?

  ……完全なる理想郷ユートピアの実現に、些細な犠牲はつきものだ。

 ニーナさんと、ジリウス君がいれば、それが成し遂げられるのだ」


「………」


 答えに詰まる私。

 学校で習った…マキャベリズム的思想。

 …解決策なんて、分からない。

 日本は平和だった。

 でも、ニュースをつければ他国の戦争や、虐待、事件、貧困のニュース。

 

 原因は、宗教?侵略?因縁?

 そのどれもを解決する魔法なんて、私は持ってない。

 …でも、だからといって、力で黙らせるのは、絶対に間違っている!


「問題は、誰が、いつ、どうやって成し遂げるか、だ。


 誰が?

  ……私が!


 いつ?

  ……今だ!


 どうやって?

  ……神の遺物、即ち君たちを用いて!!


 私が、この、クソッタレな世界を、作り変えるッ!!」


「……っ!!」


 間違っている。

 暴力による平和は、きっと、脆い。

 …でも、私の凡庸な言葉では、彼女の鋼のような信念を傷つけることすらできない。

 言い返せない自分が、悔しくて、情けなくて…。


「…沈黙は肯定と同義だよ…ニーナさん。

 また会おう。……平和な世界で」


 イグナートさんが冷酷な微笑みを浮かべて、右手を上げた。


 バチィッ!!


「…ぁ……」


 背中に、焼けるような鋭い衝撃が走った。

 叫ぶ間もなかった。

 視界が急激に暗転し、私は糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。


※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ