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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
ニーナ編

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第53話:着飾って踊るは掌の上

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「ニーナ様、是非わたくしとお話を…!」

「わたくし、このヴォルカニアの工業流通を統括しております、ドレイク商会の者でございます…」

「ニーナ様、是非とも我がイグニスの明日について、高説を賜りたく…」


 壇上から降りた瞬間、私は様々な礼服に身を包んだ「お金持ち」そうな人たちに、一気に取り囲まれてしまった。

 あまりに非日常的で圧倒的な光景に、私は幼い頃に遊びに行った、動物園の『ふれあい広場』を思い出していた。


(うぅ…。こんな感じで、モルモットとかウサギの周りに子供たちが集まってきてたなぁ…。今は私がモルモットの気分だよ…)


「是非、我が商会と懇意にして頂ければ…」


ガシッ。


「きゃっ!?」


 不意に、恰幅のいい男性に強引に手を掴まれた。


「――おい。…おさわりは、ルール違反なんじゃねェか。あぁ?」


 この声は…。

  私の手を掴んでいた男性が、ビクゥッ!と跳ね上がって、弾かれたように手を離した。


「ひっ…!せ、精鋭部隊の、エンバー…」


 エンバーさんが、刺すような目線だけで威圧すると、男性は「ひ、失礼しましたっ!」と叫んで脱兎のごとく逃げ去っていった。


「エンバーさん!ありがとうございます、助かりました…」


「…ニーナ。お前、そのドレス。…いや、なんでもねェ。……ヴォルカニアは強引な奴も多い。なにかあれば俺を呼べ」


 エンバーさんは、私のドレス姿を一瞬だけ見て、すぐに踵を返して去っていった。

 妹さんの一件でも思ったけど、やっぱり、悪い人じゃない。


 エンバーさんの睨みが効いたのか、周りの人たちは遠巻きにこちらを伺うだけで、不用意に近づいてこなくなった。


「ニーナ、やっぱりそのドレス、とてもよく似合っているわ」

「うわぁっ!?」


 振り返ると、いつの間にかヘイズさんが隣にいた。

 気配がなさすぎて心臓に悪いよ、ヘイズさん…。


「あ、ありがとうございます!ヘイズさんのおかげです!」

「私の審美眼に狂いはなかった。綺麗よ、ニーナ」


 ヘイズさんの奥の瞳に、少しだけ熱いものが宿った気がした。

 自分を肯定してくれる人がいる。

 それだけで、私は舞い上がってしまいそうになる。


「ヘイズさんの、お陰ですよ!…あ、ジリウスさんは…」

「『ありがとうございます』…利用シーンを更新中」


 ジリウスさんはというと、物理的に浮いており、執行端末そのものという事実で誰一人として近づけさせていなかった。


「ニーナ。人口密度が許容値を超過しています。目標多数、一括抹消し、空間の再定義を行ってもよいでしょうか」


「ひぃっ…!」

「し、執行……端末が……」

「ジリウスさん、ダメだよ! みんな怖がってるでしょ、待機ですッ!」


 私がジリウスさんを一喝すると、周囲の貴族たちがなぜかどよめいた。


「…あ、あの神の遺物を、容易く御している……」

「やはりニーナ様は…まさに、我らを導く聖女の再来ではないか…」


 なんか、どんどん評価がズレた方向にいってる気がする……。


「ニーナ」


「またっ!?……あ、アッシュさん」


 背後から声をかけられ、振り返るとそこにアッシュさんが立っていた。

 この三人は、どうしてこうも急に現れるんだろう。

 精鋭部隊のステルス性能、凄すぎない?


「そのドレス、とてもよく似合っている」


 真っ直ぐな瞳。

 お世辞なんて1ミリも含まれていない、混じり気のない言葉。

 あまりに直球すぎて、私の理解が追いつかない。


「えっ…。…えっ…?」

「…俺と、一曲踊ってくれないか」


 アッシュさんは恭しく、私の前で跪くようにして手を差し出した。

 気がつくと、会場にはいつの間にか優雅なワルツが満ちている。

 どうなってるの。…何が、何だか…。


「わ、わ、わたち…。…あわわ、踊ったことなんて、小学校のフォークダンスくらいで……!」


 盛大に噛んでしまった。

 …恥ずかしすぎて、穴があったら飛び込みたい。


「かまわない」


 私の震える手を取り、アッシュさんは優しく、でも力強く、私をリードしてくれた。

 誘われるまま、私は優雅に舞うペアがひしめくフロアへと連れ出されていった。


「ジリウスさん!絶対に、抹消したらダメですからね!大人しくしてて!」

「了解、ニーナ。観測モードに移行」



「俺に合わせて動けばいい。大丈夫だ」


 アッシュさんの落ち着いた声が、私の耳元で囁かれる。 アッシュさんの右手が私の腰を優しく、でも確実に支え、私の左手は彼の肩に……。

 だめだ。意識をすると、ごく普通の日本人である私には恥ずかしい。

 何か、何か会話を…。


「あの。…でも、どうして誘ってくれたんでしょうか」

「あのまま、あそこにいれば、君は貴族たちの格好の餌食だ」

「………助けてくれたんですね。ありがとうございます」


 アッシュさんはどこまでも真面目で、私のことを気にかけてくれている。

 不思議だ…彼に身を任せているだけで、ぎこちないはずのステップが、魔法みたいに繋がっていく。


 暫く、まるで夢の中を泳いでいるような時間を過ごしていると。

 軍服の兵士が、遠慮がちに声を掛けてきた。


「ニーナ様。…申し訳ありませんが、総司令がお呼びです」


「あ、はい。わかりました。…アッシュさん、ありがとうございました。すごく、楽しかったです」


「ああ」


 彼は短く頷くと、私の手を離した。

 少しだけ名残惜しい気持ちを振り払い、私はジリウスさんの観測モードを一瞥して、会場の喧騒を後にした。



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