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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
ニーナ編

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第52話:蒼緑のきらめきに揺れて

 帝都ヴォルカニア、最上層。

 そこには、豪華絢爛なサロン、『鋼鉄の薔薇(アイアンローズ)』がある。


 私は、その一角にある、シャンデリアが眩しく輝く控室にいた。

 どこを見ても金箔やベルベットが敷き詰められた、目がチカチカするような空間。


「はい、できました。…鏡をご覧ください、ニーナ様」


 後ろにいた侍女さんが、満足げに声をかけた。

 恐る恐る目を開けてみると…そこにいたのは、まるで自分じゃないみたいな、不思議な感覚だった。


 ヘイズさんが選んでくれた、ブルーグリーンのドレス。

 肩から首筋にかけてのラインが強調されていて、少しだけ背伸びした大人の女性に見える。

 侍女さんが整えてくれた髪は、見事なパーティヘアにまとめられていた。


「えへへ…。…すごい、本当に私なのかな」


 あまりの出来栄えに、私は鏡の前でくるり、と一回転してみた。

 ふわりと広がるドレープが、まるで水面に広がる波紋みたいで、思わず自分でも見惚れてしまう。


「とてもよくお似合いですよ」

「あはは…ありがとうございます」


 侍女さんの褒め言葉に照れていると、彼女がさらに微笑んで言った。


「ジリウス様のお着替えも、ちょうど済んだようです。…お呼びしますね」


 ふわり、と。 パーティションの奥から彼が現れた。


「ニーナ。この服飾品は、関節部の可動域に極めて強い制限を付加します。戦闘に重大な支障をきたす、まるで『拘束着』のようです」


「…ふわぁ…」


 私の耳には、彼のいつもの無機質な不平不満なんて、一文字も入ってこなかった。

 そこにいたのは、純白のファンシースーツを完璧に着こなした、ジリウスさんだった。

 銀色の長い髪が白の生地に映えて、どこかの国の王子様みたい。


「ジリウスさん。…すごく、素敵です」

「素敵?審美性という、極めて主観的な評価プロトコルですね。着飾る、という行為による集団内での地位誇示の心理は理解していますが――」


「ジリウスさん!そういう時は、『ありがとうございます』って言うんですよ」

「『ありがとうございます』」

「ふふっ」


 相変わらず理屈っぽいジリウスさんと、そのやり取りを「あらあら」と微笑ましく見守る侍女さん。

 私は照れ隠しに、もう一度だけ彼の前でくるりと回って見せた。


「ねぇ、ジリウスさん。…私の方はどうですか?変じゃないかな」


「ニーナ、現在、等速円運動による回転を観測しました。…ドレスの末端に作用する遠心力は――」


「そういうことじゃないの!もう…!」


 乙女心の演算は、やっぱり彼にはまだ早すぎたみたいだ。



 控室からチラリと顔を出すと、そこには別世界が広がっていた。

 広大な宴会場。

 天井からは数えきれないほどの光が落ち、煌びやかな礼服に身を包んだ、いかにも「お金持ち」そうな有力者たちが、ワイングラスを片手に優雅に社交を楽しんでいる。


(社交…社交…って何だっけ…?)


 そんな不安を抱いていると、会場の中央、一段高くなった演壇から、聞き慣れた声が響いた。


 パン、パン。


 イグナートさんがすっと現れ、有無を言わさぬ仕草で手を鳴らした。

 その瞬間に、ざわついていた会場は一斉に静まり返り、全ての視線が彼女へと向けられた。

 その圧倒的な威圧感に、私は不意に背筋が凍るような感覚を覚える。


「皆様。本日はお集まり頂き、誠に感謝します。このイグニスを、いや、エテリス全土を統べる志を同じくした友愛の席に」


 流石は軍のトップ。

 会場の熱気が一気に彼女の声に収束していく。


「さて、本日は皆様に、我が国が手にした『希望』をご紹介したい。

 …ニーナさん、ジリウス君。こちらへ」


 呼ばれた…!

 私は震える足で、控室の扉を大きく開けた。


 参加者の方々の間をすり抜け、赤い絨毯の上を一歩ずつ踏みしめる。

 ジリウスさんは、私の数センチ後ろを、無機質に、浮遊しながら付き従っている。


「おお…これが……」

「管理端末…。あの少女が…」

「見てみろ…帝国を照らす光だ……」


 口々に囁かれる感嘆の声。

 何百人という視線に晒されて、私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

 でも、不思議と怖さはなかった。

 後ろにいるジリウスさんの存在が、今の私には何よりも心強い盾だったから。


 イグナートさんの待つ演壇の上に上がり、彼女の隣に並んで立つ。


「ご紹介しよう。管理端末たるニーナさん。そして、執行端末1号、ジリウス君だ!!」


 怒号のような歓声と、建物そのものを揺らすほどの拍手が巻き起こった。


「あはは…」


 引き攣った笑みしか浮かべられない私を他所に、イグナートさんの声はさらに熱を帯びていく。


「さて、先の騒乱で我が国が受けた傷は、決して小さくはなかった。

 私の失態だ、独断専行だ、と攻める御仁も少なくない。

 だが、得たものはあまりに大きい。

 力とは、指を咥えて待っていれば与えられるものではない。

 ………自らの手で、掴み取らねばならないのだ!!」


 彼女は右手を高々と上げる。


「我々は今、こうして得た!ギルドの犬、隣国レガリスの持つ『2号』と同等の絶対的な武力を!!」


 その言葉に、しぐさに、会場がドン、と沸いた。


 私ですらイグナートさんの演説に何故かぐっと来ている。

 カリスマ性って、こういうのを言うんだな…。


 でも、あれ?レガリスって隣の国だっけ…。

 2号?ジリウスさんは1号だよね。

 …待って。あんなトンデモ兵器、この世界にもう一人いるの!?


 私の困惑をよそに、演説は締めくくられた。


「今後の軍の動きは、追って皆様にご説明しよう。

 暫くは、この夜を楽しんでほしい。

 ニーナさん、ジリウス君。

 少し、彼らの相手をしてやってくれ」


 そう言い残すと、イグナートさんは颯爽と裏口へと消えていった。

 彼女が火をつけた、熱狂という名の火薬。


 私は、最高潮に達した人混みの中へと、恐る恐る一歩を踏み出した。


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