第48話:心も身体も重労働
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「…そうだ。真っすぐ腕を伸ばして…標的をしっかりと中心に据えるんだ」
アッシュさんに案内された射撃場で、私は渡された「魔導銃」と格闘していた。
護身用として身に付けろと言われたけれど…これ、めちゃくちゃ重い!
この金属の塊を構え続けるなんて、現代っ子の私には重労働すぎる。
「うぅ…重い…。…アッシュさん、もう腕が震えて……」
腕を下ろそうとした瞬間。 ふわりとした体温が、私の背中から伝わってきた。
アッシュさんが私の後ろに回って、震える私の腕を、大きな手で下から支えてくれた。
(えっ…ええ!?ち、近い……!)
これが噂に聞く、バックハグというものか…。
アッシュさんの吐息が耳をくすぐる程に近い。
あまりの密着具合に、さっき教わった内容が、一文字も頭に入ってこない。
「この、リアサイトの溝から、フロントサイトを覗いて狙うんだ。…そのまま。集中だ」
アッシュさんの声はどこまでも真面目で、真剣そのもの。
でも、私はそれどころじゃない。
「あの、ええっと…こ、こう、ですか……?」
「ニーナ。顔面の紅潮、心拍数の急激な上昇、および発汗を確認しました。…冷却処置が必要ですか?」
「な、なんでもないです!ジリウスさん、今それ言わなくていいから!!」
すぐ横で実況を続けるジリウスさんを抑える。
アッシュさんは真剣に教えてくれているんだ。
意識してる私の方が、なんだかバカみたいじゃない。
集中、…集中しなきゃ。
アッシュさんの期待に応えたい。
「そうだ。そのまま、引き金を引いてみろ」
言われるがまま、夢中で指を引いた。
パァン!
鋭い破裂音と共に、手のひらを後ろへグイッと押されるような衝撃。
独特な匂いが、鼻をつく。
…弾が出た…本当に、撃っちゃった。
「…命中だ。初めてにしては、上出来だ」
アッシュさんは少しだけ満足げな声で、私の腕から手を離した。
「やった…できました!」
「では、今度は一人で。…もう一発撃ってみるんだ」
私は再び腕を伸ばし、さっき教わったことを思い出して…。
パァン。
「あ……」
弾は的から大きく外れ、背後の土壁に虚しく吸い込まれていった。
「…当たってない、です」
「問題ない。最初から全てを当てる者などいない。訓練を重ねればいい」
アッシュさんは優しく慰めてくれたけれど、隣の「正論マシン」は容赦なかった。
「ニーナ。撃つ瞬間に、眼瞼を閉じていたことが主な原因です。
標的から右斜め上、仰角2.14度のズレを確認。
その結果、10メートル先の着弾点では174センチメートルの誤差が生じています」
「正論パンチは、やめて。分かってますから…」
むぅ…ぐうの音も出ない。
私が目を瞑っちゃったことから、着弾点のズレまで1ミリ単位で見透かされている。
「任務がなければ、俺も付き合おう」
アッシュさんが表情をほんの少しだけ和らげて褒めてくれる。
その優しさが、気遣いが、落ち込んでいた私を少しだけ温めてくれた。
「…はい!精進します!」
ジリウスさんの解析と、アッシュさんの優しさ。
ヴォルカニアの喧騒の中で、私の心臓はまだドキドキしていたのだった。
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