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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
ニーナ編

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第46話:強烈。ひたすら強烈なパワーが消去し尽くす

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 イグニス軍、第一演習場。

 エンバーさんによる実演で、巨大な大岩が爆発四散した余韻が残る中。

 アッシュさんは淡々とした口調で、この世界の「魔法」について語り始めた。


「ニーナ。この世界の魔法には、大きく分けて三種類の発現方法がある」

「三種類、ですか?」


 私は思わず聞き返した。

 魔法っていうのは、杖を振って呪文を唱えれば出るものだと思ってたけど、どうやらこの世界はもっとシステム的なものみたいだ。


「一つ目は、この世界で最も一般的な形態だ。

 魔法を形にする執行者ハンターと、その魔力の門を開放し、制御を担う監視者ハンドラーの二人一組…共同体レゾナントによる行使だ」


 ふむふむ。二人で一人前、ってことだね。

 ……じゃあ、一人では魔法が使えないの?


「しかし、我々ヴォルカニア軍は違う。

 二つ目の方法――この『イグニス式魔導演算回路』により、単独での魔法行使を可能としている。

 但し、一般的な魔法と違い、解放した魔力を事象として発現することができない。

 そのため、魔導具…エンバーの魔導棍クラブのようなものに流し込み、利用する。

 その構造の複雑さゆえに、選ばれた精鋭にしか与えられない特権だ」


 アッシュさんはそう言うと、軍服のポケットから握り拳よりも少し小さい、不思議な銀色の紋様が刻まれた機械を取り出した。

 それは懐中時計のようでもあり、凶悪な武器のようにも見えた。


「おぉ…。実物、初めて見たぞ…」

「あれが演算回路か。…俺もいつか、使ってみてぇ…」


 周囲で見守っていた一般兵士たちの間に、羨望の眼差しと、感嘆の溜息が混じったざわめきが広がる。

 どうやら、この機械を使いこなす人自体が、珍しいらしい。


「前のは壊れちまってなぁ。今は改良型の『弐式』…二代目ってやつだ」


 エンバーさんも、肩に担いだ…魔導棍クラブを弄びながら不敵に笑う。

 

「…じゃあ、最後の一つは?」


 私が視線を向けた先には、相変わらず無機質な瞳をこちらに向けて浮遊しているジリウスさんがいた。


「その通りだ。三つ目は――『古代魔法』。

 いや、もはや魔法という枠組みですら生温い。単独で、世界の基底に直接干渉する」


 アッシュさんはジリウスさんを指し示した。

 彼が兵器だっていうのは聞いていたけれど、まだ彼が戦っているところも、魔法を使っているところも見ていない。


 …本当に、すごいのかな。


「監視端末、ニーナ。彼に指示を出してみてくれ」

「えっ?…あ、はい。…えーっと、ジリウスさん」


 アッシュさんに促され、私は少し緊張しながらジリウスさんに呼びかけた。


「ジリウスさん。…『抹消』でしたっけ?できますか?」


「可能です、ニーナ。……対象を指示してください」


 うーん、エンバーさんがあの大岩を砕いたんだから…その向こう側にある、もっと大きいやつがいいのかな。


「えっと…あの、あっちの端っこにある大岩。…あれの抹消をお願いできますか?」


 私が指差したのは、訓練場の隅に鎮座する、高さ20メートルはあろうかという巨大な岩塊だった。

 さすがに大きすぎるかな。

 半分も削れたらすごい、くらいの気持ちだったんだけど。


「命令を受理しました。

 目標、大岩。

 出力、1%未満で十分と判断。

 ――『抹消エラディケイト』」


 ジリウスさんがすっと、右手を上げた。

 その瞬間、光。

 爆音も、風も、何の手応えもなかった。

 ただ、視界が真っ白な光に塗りつぶされた、その直後。


「え…?」


 目を、こすった。 幻覚を見ているんじゃないかと思った。

 そこにあったはずの、20メートルの大岩が――。

 いや、大岩だけじゃない。

 大岩が乗っていた地面ごと、そこには巨大な『すり鉢状の虚無』が広がっていた。

 塵一つ残っていない。


 音もなく、そこにあったはずの物体が、存在ごと消え去っていた。


「「「…………」」」


 演習場が、静まり返った。

 野次を飛ばしていた兵士たちも、息をすることさえ忘れたように、口を開けたまま固まっている。


「…うっひょ。やっぱ、化け物だなァ。最高だッ!!」


 沈黙を破ったのは、エンバーさんの狂ったような歓喜の声だった。

 これを見て、どうしてそんなにテンションが上がるの?

 怖いよ。


「完了しました、ニーナ。…対象完全消滅?」


「あ…ありがとう、ございます…?…凄すぎて、よくわかんないです…」


 ジリウスさんは、何事もなかったかのように私の隣に戻ってきた。

 隣にいるのが怖くなるくらいの、絶対的な暴力。


「…1000年前、人類が成すすべもなく壊滅させられた理由が、これだ」


 アッシュさんも驚く風ではなく、ただ冷徹に事実を告げた。

 こんなのと戦うなんて、絶対に無理。勝てるわけがない。


 そんな絶望感が渦巻く中、エンバーさんが、ギラついた目でジリウスさんに飛びかかった。


「おい、浮いてる兄ちゃん…!俺とも少し、遊ぼうぜ!!」


 演習場に、新たな火花が散ろうとしていた。



 イグニス軍司令部、仮設会議室。

 この国の実権を握る数人の有力者たちが集まっていた。

 円卓の席に着く老人たちは、イグニスという国において権力と富を持つ、一癖も二癖もある者たちだ。


「お集まりいただき、感謝します」


 部屋の中央、最奥の席から聞き慣れた声が響く。

 総司令、イグナート。

 彼女は机の上に放り出した軍帽を弄びながら、いつもの不敵な笑みを浮かべていた。


「速報の通りです。我が国で執行端末1号…『ジリウス』が目覚めた。…帝国の悲願である古代兵器の所持が叶った」


「おぉ…」

「真実だったか…」


 円卓から感嘆と、そして隠しきれない欲望の色を含んだ溜息が漏れる。


「監視端末の転移も確認できている。…現在は試験を兼ねて、素体との同期状況を観察しているところです。…順調ですよ…。実にね」


「…ゆっくりしている暇はあるのか、イグナート総司令」


 一人の老人が、冷たく言葉を投げかけた。


「先の失態。忘れたとは言わせぬぞ」


 イグナートは自嘲気味に笑いながら、左頬の焼灼痕を指先でなぞった。


「御心配なく。愚者たる私は、自らの身を焦がした経験から多くを学んだ直後だ。…同じ失敗は二度繰り返しませんよ」


 口々に責め立てる権力者たちを、彼女は射抜くような眼差しで一喝した。


「我が軍には、『用意』がある。…現在はその最終調整中です」

「…その、『用意』とやらは何だ。…何か、隠し札があるというのか?」


 イグナートは、ニヤリと口元を歪ませた。


「せっかちは嫌われますよ…開けてからのお楽しみです。

 …まずは、皆様へのご披露目も兼ねて、盛大なパーティーの用意がありますので。

 …追って正式にご連絡を差し上げます、首を長くして待っていてください」


 彼女の不吉な予言を残し、会議室の温度はさらに数度、下がった。

 帝国の影で不穏な火種が、静かに、だが確実に燃えていた。


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