第45話:すべての視線が私に突き刺さる
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「…うわぁ。この服、やっぱりすごく身体のラインが……」
翌朝。
鏡の前に立った私は、自分の姿を見て思わず顔を真っ赤にしていた。
昨日エンバーさんに言われた通り、ヴォルカニアの軍服に袖を通していた。
深紅を基調としたシックなデザインは確かにカッコいいけれど、とにかくタイトなのだ。
胸元から腰のラインまで、まるでボディスーツみたいにぴっちりしていて、歩くたびに生地が肌に吸い付くような感覚がある。
「こんなタイトな服…恥ずかしいな。日本だったら絶対外歩けないよ、これ」
鏡に映る自分をまじまじと見つめる。
見慣れない軍服姿の自分。
本当に異世界に来てしまったのだなと、改めて実感した。
「心拍数の上昇、および体温の異常な上昇を検知」
部屋の外から、ジリウスさんの温度のない声が聞こえてきた。
…ふふっ、でも、彼、今日は突入してこなかった。
昨夜の「プライバシー」講座、分かってくれたのかな。
それだけで、なんだか彼に「いいね」ボタンを100回くらい連打してあげたい気分になる。
「大丈夫、ですよ!今、出ますから!」
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、私は扉を開けて廊下に出た。
「お待たせしまし――」
ガコンッ!!
「う、うわぁぁっ!?」
言い切るより先に、今度は玄関の扉が、凄まじい勢いで蹴破るようにして開け放たれた。
あまりの衝撃に、私は心臓が止まるかと思った。
「おう、嬢ちゃん。…お、似合ってんじゃん」
そこに立っていたのは、案の定、気だるげなエンバーさんだった。
…ジリウスさんが進歩したと思ったら、今度はこっちか。
この国には、プライバシーとかデリカシーっていう概念以前に、まず「ノックをする」という常識を教えなきゃいけない!
でも、睨まれるとやっぱり怖くて、私は結局何も言えなかった。
「お、おはようございます…エンバーさん」
「おう。…あぁ、そっちの銀髪の兄ちゃんも、相変わらず浮いてんなァ」
エンバーさんはジリウスさんを一瞥すると、鼻を鳴らした。
そうだ、昨日の教訓を試してみよう。
「ジリウスさん。…朝、人に出会ったら、まずは挨拶を。『おはようございます』、だよ」
私の教えに、ジリウスさんは無機質な瞳をエンバーさんに向け、淡々と口を動かした。
「挨拶の重要性を更新。おはようございます、エンバー」
「お、おう…? おはよう…?」
かつての兵器に挨拶されて、あのエンバーさんが明らかに困惑している。
ちょっとだけ挙動不審になっている彼を見て、私は心の中で小さくガッツポーズをした。
ジリウスさん、ナイス。
これ、意外と楽しいかも。
「…ま、いいや。んじゃあ、付いてきな」
◇
宿舎を出て、司令部の巨大な裏手へと回る。
そこは広大な『訓練場』になっていた。
周囲には、同じ軍服を着た大勢の兵士たちが、剣や槍、あるいは見たこともない兵器を手に、熱気のこもった訓練を繰り広げている。
「おい、エンバーさんだ…」
「女の子もいるぞ…?ちょっとかわいいかも…」
「おい見ろよ、あの銀髪。浮いてやがるぞ…」
私たちが通り過ぎるたび、視線が突き刺さる。
兵士たちの視線には好奇心と畏怖と警戒心が混じっているように感じて、私は無意識にジリウスさんの数歩後ろに身を隠した。
「エンバーさん、ここでは何を…?」
「まずは嬢ちゃんに、このヴォルカニアの技術力…つまり、『力』を見せとけって、ボスからのお達しだ」
エンバーさんはそう言うと、訓練場の中央に置かれた巨大な岩の前で立ち止まった。
エンバーさんの数倍はある、大きくて重そうな岩。
「お、エンバーさんのあれ、見られるぞ……!」
「おい、みんな来いよ!」
気づけば、訓練中だった兵士たちが、期待に目を輝かせながら続々と集まってきた。
いったい、何が始まるの?
「いいか、見とけよ。…『解放』。出力――40%」
エンバーさんが低く呟くと、彼の全身から光が溢れ出した。
その光が、彼が手に持った鉄棒の溝に、ジワリと脈打つように流れ込んでいく。
「高密度の魔力集中を確認。ニーナ、抹消を推奨します」
「いやいや、抹消しちゃだめだってば!大人しくしててください、待機です!」
ハラハラしながら見守る私の前で、エンバーさんが地面を蹴った。
「――いやっはァ!!」
はやっ…。
彼の体が、まるで重力を無視したみたいに一瞬で岩のてっぺんまで跳ね上がった。
そして、上空から振り下ろされた鉄棒が、大岩の中央を捉えた。
ドガァァァァァン!!
耳を劈くような爆発音。
何が起こったのか、私の動体視力では全く理解できなかった。
爆風に煽られ、慌てて目元を腕で覆う。
土煙が晴れたあとに残っていたのは――。
「えっ…すご…。…なに、これ」
そこにあったはずの巨大な岩が、文字通り『爆発四散』していた。
抉れた地面と、石の破片。
衝撃波だけで、周囲の建物が振動でビリビリと震えている。
「ってなァ具合だ。昨日会った気取り野郎と不思議姉ちゃんは、これと同じ芸当…監視者なしで単独での魔力解放ができんのさ。まァ、俺が最強だけどな」
エンバーさんは肩をすくめて、事もなげに言った。
説明が足りなさすぎる。全然わかんない。
でも、目の前で起こったことが、ヴォルカニアの『力』を現していることだけは分かった。
「やっぱすげぇなエンバーさん」
「やっべぇよ…。かっけぇ…」
兵士たちのどよめきが、波のように広がっていく。
軍の中で彼がどれほどすごいのか、その一端が見えた気がした。
「…エンバー。……ニーナが、困惑している」
不意に、冷たい氷のような声が響いた。
「うっ…その声。アッシュかよ…」
エンバーさんが露骨に嫌そうな顔をする。
「マ、マジか…。アッシュさん…いつの間に…!」
「やべぇ…。二人が揃ってる…」
兵士たちが、先ほどよりも一層激しくざわつき始めた。
気づけば、エンバーさんの数歩後ろ、影のように音もなく、アッシュさんがそこに立っていた。
ジリウスさんが私の前に浮遊し、その視線をアッシュさんに固定する。
彼だけは、アッシュさんが現れることを分かっていたみたいだった。
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