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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
ニーナ編

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第42話:目覚めれば、夢?

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「…ここは、一体……?」


 意識が浮上した瞬間、耳に飛び込んできたのは、低く、規則正しく響く機械の駆動音。

  目を開けると、そこは見たこともない――それでいて、どこか病院の集中治療室を思わせるような、無機質で清潔すぎる部屋だった。


「インストール中…再起動」


 銀色に輝く長い髪と、彫刻のように整った顔立ち。

 透き通るような肌には、電子回路のようなラインが走っている。

 この世のものとは思えないほどの綺麗な男の人が、奇妙な言葉を呟きながら、私をじっと見つめていた。


「インストール完了。管理端末…認識」


 管理端末?

 認識?

 …な、なに?なんの事?

 ここ、どこ?

 私、どうなっちゃってるの?


「やった、起動したぞ…!」

「サイラスとやらの研究記録の通りだ。管理端末もこの座標へ転移したな!」

「すぐにイグナート様に報告せねば…。帝国の悲願が、ついに……!」


 目の前では、白いコートを着た学者風の人たちが、興奮気味に喋っている。

 ……帝国?

 聞き慣れない単語ばかりが、私の頭の上を通り過ぎていく。


「あのー…すみません。ここはどこでしょうか……?」


 恐る恐る声をかけてみる。

 言葉はなぜか普通に認識できる。

 多分、日本語じゃないはずなのに。


「管理端末殿、御機嫌はいかがですか。体調に不備はございませんか?」


 管理端末…それって、私のこと?

 いきなり「殿」なんて呼ばれても困るんだけど……。


「元気…だと思います。たぶん」


 困惑していると、隣の綺麗な男の人は、まだこちらをじっと凝視し続けていた。

 瞬きすらしないその瞳に見つめられて…すごく、困る。


「えっと…なんでしょう……?」

「管理端末、指示を」


 え、指示?

 指示ってなに?…ダメだ、頭が追いつかない。


「ちょっと、待っていて貰えますか。…整理させて」

「了解。待機フェーズに移行」


 訳がわからない。いったん頭を冷やそう…。

 私は用意された椅子に座り、深く、深呼吸を繰り返した。

 学者の人たちが差し出してくれた水を一口飲むと、ようやく少しだけ落ち着きを取り戻した。


 私は、新見新菜にいみにいな

 現代日本の平凡な大学一年生。

 さっきまで、自室のベッドで寝転びながら、スマホで動画を見ていたはず。

 そのまま寝落ちして…気づいたら、この謎の空間にいた。

 うん、整理すればするほど意味不明だ。

 

 これって、もしかして夢の中?


「…質問、いいですか。まずは、ここはどこでしょうか」


「この世界はエテリスと言います。そして貴女が今居るのは、我が国イグニスの帝都ヴォルカニアです」


「はぁ…。そうですか……」


 知らない地名だけど、今の私にできるのは「はい」と頷くことだけだった。


「管理端末殿…お名前をお伺いしても?」


「新見、新菜です」


「ニーナ殿とお呼びすればよろしいかな?…さて。おそらく混乱されているでしょうが、貴女はこの隣の……執行端末一号の管理役を担うものとして、召喚されたのです」


 おっと、また訳がわからないぞ!


 隣をジロジロ見るのは失礼かなって思ったけど、勇気を出して見てみる。

 彼はまだ私を見つめていた。

 その瞳には、生命の輝きというものが全く感じられない。

 とても美しくて、同時にとても恐ろしい、無機質な『モノ』の瞳。


「執行端末…さん、は呼びにくいので。名前ってないんですか?」

「識別名、執行端末1号。通称、ジリウス」

「ジリウス、さん、ですね」


 ひどく冷たく聞こえる、プログラムをなぞっているような平坦な声に、私の心臓がドクンドクンと鐘を打つ。


「で、…その、ジリウスさんは、一体何者なんですか……?」



 学者の人たちから、それから一時間くらいかけて色々と教えてもらった。

 この世界のこと。1000年前のこと。そして、ジリウスさんのこと。

 神の兵器…って、それ、すごく危ないんじゃないの!?

 漫画みたいに手からビームとか、お腹から大砲とか出るのかな。


 混乱する私の前で、ジリウスさんは無造作に立ち上がった。

 すると、そのまま体が…ふわりと、浮いた。


「えっ…浮……!?」


 身長は180センチくらいあるだろうか。

 長身に流れるような銀の髪が、照明を反射して美しく輝く。

 どこかの物語の主人公みたいな神秘的な姿は、一度見ると目が離せなくなりそうなほどだ。


「管理端末、指示を。――この施設を破壊し、脱出するか?」


「急に物騒なこと言わないでください!あと、管理端末って呼ぶのもやめてください…。ニーナ、でいいです。」


「了解、ニーナ。…命令文を更新。破壊の前に、ニーナの承認を必須項目に設定」


 その無機質な瞳が、ずっと私を見つめ続けている。

 こんなに綺麗な人にじっと見つめられたことなんて、日本にいた時でも一回もなかったよ…。

 私は見つめってしまう事に、なんだか恥ずかしくなって、思わず視線を外してしまった。


 私、これからどうなっちゃうんだろう。

 お父さん、お母さん、それにお兄ちゃん。みんな心配してるよね。

 そんなことを考えて、鼻の奥がツンとしてきた時。


 ガチャリ、と重厚な扉が開いた。


 そこには、深紅の軍服を着た一人の女性が立っていた。

 女性に気づいた学者の皆が、弾かれたように背筋を伸ばし、一斉に頭を下げる。


 左の頬には、赤黒いやけどの跡が痛々しく残っている。

 だが、それ以上に彼女から放たれるオーラが凄まじかった。

 これが、殺気、ってやつなのかな…。


「やあ。私がヴォルカニア軍総司令、イグナートだ。ようこそ我がヴォルカニアへ」


 その一言だけで、肺から空気が抜けていくような、凄まじい威圧感。

 イグナートさんが、私を一瞥し、口角を歪ませて笑う。


「そちらが、管理端末のニーナさん…」


彼女のぎょろりとした瞳が、私の隣で浮遊する彼を捉える。


「そして、執行端末一号……ジリウス」


その名を口にしたイグナートさんの顔は、昏い愉悦を湛えた唇で笑みを浮かべていた。

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