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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
奪還編

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第41話:静かなる鼓動が響く

 王都オーティスの北、リブロ遺跡。


 冷たい鉄の壁に囲まれたシェルターの中で、重苦しい沈黙が続いていた。

 僕は、喉の奥に張り付いたような違和感を飲み込み、ずっと聞きたかった核心に触れようとした。


「僕の、この世界に呼ばれた本当の理由って…」


 アルテアは、その青い瞳をわずかに明滅させる。


「我々、執行端末を制御し、状況を判断する…文字通りの管理端末として、このエテリスへ呼び出されたようだ」


 僕は自分の手をじっと見つめる。

 現代日本のどこにでもいるただの大学生だ。


「神は、並行世界から執行端末の監視役として適性のあるものを選ぶプログラムを組んでいたようだ。監視端末として、コータがそこから選ばれた」


 …聞きたいことが、山積みだ。

 横で話を聞いていたナギさんが、業を煮やしたように口を開く。


「おい、ちょっと待て。その『神』って一体なんなんや」

「神とは、この世界を創造した創造神を指す。人類が構築した信仰の象徴とは、定義が異なる」


 ヴィクトールさんも矢継ぎ早にアルテアへ詰め寄る。


「では……その神様は、実体として実在するのですか?」


「肯定。だが、我々とは存在するレイヤーが異なる。高次元の観測者だ」

「存在はするけど、直接会うことはできない、ってこと?」

「その理解で間違いない」


 あまりに壮大すぎて、実感がわかない。

 だが、僕のこの汗ばんだ掌の感覚だけは、嫌なほどリアルだ。


「そっか……。じゃあ、その監視端末について、もっと詳しく教えて」


 緊張で手が汗でびしょびしょだ。

 急に連れてこられたこの世界で、僕はアルテアといろんな冒険をした。

 現代の記憶もある。

 日本には友達もいた。親も、兄弟もいた。

 でも、不思議だ。僕はこの世界に、驚くほど順応している。


「監視端末とは、執行端末が世界を破壊し尽くすことが無いよう、監視し、止める責務を負っている。我々が起動した際、対となる存在として同時にレトリーブされる仕組みとなっている」

「ごめん、いまいち理解できないんだけど…」

「執行端末に意思はない。そこに存在するのは、神によって記述されたプログラムだけだ。我々はただ、命じられた通りに動く演算装置に過ぎない」


「プログラム、って……前に言ってた『神の理』を人間が侵した時に、文明ごとリセットする、ってやつだよね」

「肯定」


 それがアルテアの、執行端末としての役割。

 そして、その『暴走』を止めるための安全装置が、僕だというのか。


「じゃあ、なんで……なんの取り柄もない、この世界で言うところの魔力すらない僕である必要があったのかな。異世界の一般人だよ?」

「破壊と、停止。その均衡を保つため。

 または、システム外の多様性を持ち込むために…――アクセスエラー」


 均衡を保つため。そして、多様性。

 その言葉が、僕の胸の奥で冷たく響く。


「俺ら、完全に置いてけぼりなんやけど……。つまり、コータ君は君ら執行端末がやりすぎんように、お目付け役として呼ばれたって解釈でええんか?」


「肯定」


「何故、神の『プログラム』だけではダメだったのか…。予備の安全装置として、人間という不確定要素が必要だったのでしょうか」


 え、ちょっと待って。もしかして。

 僕はふと思いついた疑問を、そのまま口にした。


「アルテア、1000年前の神魔大戦の時にも、僕と同じように呼び出された人がいた、ってこと…?」

「肯定。執行端末が起動した際、それぞれに管理端末が割り当てられていた」


 その人たちは、どこへ消えたんだろうか。

 1000年前…平安時代、いや、日本からとは限らない。

 もしかしたら平安時代の日本や、あるいは全く別の世界かもしれない。

 人が一人いなくなったところで、歴史の記録には残らないだろう。

 ましてや、元の世界に戻る方法もわからない。調べようがない。


「ちなみに、現代に戻る方法とか…」

「無い」


 即答ですか……。

 まあ、薄々は勘づいていたけどね。


 絶望感よりも、どこか晴れやかな諦めのような感覚があった。

 この世界も気に入っているから。


 「じゃあ、一つだけ。なんでこんなに、この世界の空気がしっくりきているのか、それはわかる?」


 なぜ、見知らぬこの土地の風を、心地よいと感じてしまうのか。


「適性があるものが、選ばれる。魂の波長、あるいは…」


 アルテアの言葉が途切れる。

 不意に、彼女の青い目に、赤い光が走った。


「アルテア…?」

「おい、どないしたんや、急に」


 アルテアは僕の問いに答えず、虚空を見据えたまま呟いた。

 その声には、先ほどまでの穏やかさは欠片もなかった。


「――兄弟機が、起動した」


 兄弟機って……。

 僕の背筋に、凍りつくような冷気が走る。


「まさか…1号…」


 そんな。イグナートの手によって目覚めたというのか。

 それは最悪の事態の幕開けだった。

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