第39話:鉄の眠る荒野に
王都オーティスより北。
僕たちがたどり着いたのは、荒野のなかに不自然に突き出した鉄の残骸だった。
「リブロ遺跡…異様な雰囲気ですね」
僕とアルテア、それにギルドからの要請で同行しているナギさんとヴィクトールさんは、その遺跡を見渡していた。
これまで見てきた遺跡は、どれも僕の知る『現代』を感じるものだった。
サジウス遺跡は、軍の司令部、モニターのような機械があった。
アクアス遺跡は、まるで地下鉄のホームそのものだった。
では、このリブロ遺跡はどうかというと――。
「なんだろ、これ…機械の残骸が落ちてるな。それも、かなり大きなやつだ」
足元には、錆びついた歯車や、ちぎれた油圧パイプのようなものが散乱している。
かつてここには、巨大な工場か、あるいは都市が存在していたのだろうか。
「調査は後だ、コータ。来るぞ」
アルテアの警告と同時に、ゴゴゴ、と足元から重苦しい地響きが伝わってきた。
またか、と僕は身構える。
魔物が活発化している、というギルドから聞いていた話の通りだ。
「アルテア、数と種類、分かる?」
「この反応はアイアンゴーレム。合計6体。囲まれている」
アルテアの無機質な声が響く。
「なんやそれ、便利やな。…いくで、ヴィクトール!」
「言われなくても…解放……60%」
ヴィクトールさんが優雅に、だが鋭く魔力の門を開く。
その瞬間、地面に散らばった残骸がガチャガチャと不快な音を鳴らしながら、姿を現す。
離れた場所に4体、僕たちのすぐ近くに2体。
「よっしゃ、向こうのほうは頼んだで。隆起!」
ナギさんが魔力を込めた右の手のひらを地面に叩きつける。
直後、爆発的な衝撃とともに、僕たち四人を載せた地面がものすごい勢いでせり上がった。
「うわ、うわわっ!」
急激な高度上昇に、僕は思わず足がすくむ。
アルテアの半重力とは違う感覚。
こ、怖い…。
ナギさんは仁王立ちのまま、眼下のゴーレムたちを見下ろした。
「一気にやってまおか……険阻!」
再度、せり上がった地面に手を叩きつける。
ガギィ!
すると、アイアンゴーレムの足元から、大質量の鋭い槍が何本も突き出した。
予期しない真下からの、それも尋常ならざる推進力を伴った岩の槍。
アイアンゴーレムたちはなす術もなく串刺しとなり、その巨大な質量を支えきれずに瓦解していった。
「うわ、すご…。……って見てる場合じゃなかった!」
残りの四体は、ずしんずしんと大きな足音を立てて、ナギさんが作り出した「塔」に迫ってくる。
「コータ、指示を」
その瞳には一分の揺らぎもない。
この距離、この状況なら…。
「うん。対象、アイアンゴーレム。出力0.1% で――光」
アルテアがすっと、綺麗な手をアイアンゴーレムに差し向ける。
「――光」
静かに放たれた一条の光。
それは空中で意思を持っているかのように四股へと分かれ、
迫りくる四体のアイアンゴーレムの『核』のみを正確に射貫いた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、ずぅん、と地響きを立てて、四体の巨体が重なり合うように倒れ伏した。
「話には聞いていましたが、目の当たりにすると、これまた…。理解の範疇を超えていますね」
「ほんまや。君らに任しとったらよかったな…」
ナギさんが苦笑いしながら肩をすくめる。
僕はほっと胸を撫で下ろし、隣に立つ少女に向き直った。
「やったね、アルテア!」
僕は無意識のうちに、すっと右手を彼女の目の前に上げる。
アルテアは一瞬、きょとんとした表情で僕の手を見つめた。
「挨拶か、コータ。もしくは、何らかの攻撃の予備動作か?」
「違うよ、ハイタッチってやつ。お祝いというか、喜びを分かち合う儀式みたいなもんかな。ほら」
アルテアは「なるほど」と呟き、促されるままに、僕の右手にすっと触れる。
ペチン、という軽い音ではなく、まるで壊れ物を扱うようにそっと添えられた手。
「なんか違う気がするけど……まあいっか」
「気を取り直して、調査しよか」
ナギさんとヴィクトールさんは、10メートルほど高くなった地面から軽々と飛び降りる。
……いや、待って。これ、ビルで言えば三階か四階くらいの高さだよ?
「アルテア……下ろして。僕、自力じゃ無理」
「了解、コータ。脆弱な脚力と推測。半重力」
「脆弱って言わないでよ…」
ふわりと着地する。
先に出た二人は既に辺りの調査を始めていて、なんだか僕だけすごくかっこ悪い気がして顔が熱くなった。




