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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
奪還編

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第37話:眩く輝く王都

 イグニスでのあの一件から、一か月が経った。

 完全に怪我も癒えた僕は今、アルテアと二人でゼノスの北の空を飛んでいた。


 眼下に広がるのは、見渡す限りの平野と、その先に連なる白銀の山脈。

 

 ギルド・ゼノス支部のアーヴィン支部長から、リブロ遺跡の調査を正式に依頼されたからだ。


「まずは王都オーティスのギルドで、協力してくれる共同体レゾナントと合流、か……」

「目標まで、あと50キロメートル」


 アルテアの無機質な声と共に、高度が僅かに下がる。

 ふわりと浮遊する感覚。最初はあんなに怖かったこの空の旅も、今ではすっかり慣れたものだ。


「お、あれかな……。すごく、綺麗だ」


 地平線の彼方に、眩いばかりの『白』と『橙』の都市が見えてきた。

 何かで見た海外の美しい都市を彷彿とさせる、磨き上げられた純白の城壁。その内側にはオレンジ色の瓦屋根と、そして太陽の光を反射して白く輝く道が広がっている。

 

 そしてその背後には、巨大な『何か』の空洞の中に建てられた、圧倒的な威容の王宮がそびえ立っていた。


「あれが、聖樹宮せいじゅきゅうレガリア…。樹っていうか、巨大なビルみたいな…」


 1000年前の「神魔大戦」の直系の子孫たちが住まうという、レガリス聖王国の象徴。

 表面にはツタなどが這っており、遠目には確かに巨大な大樹のようにも見える。


「目標まで、あと30キロメートル。降下を開始する」

「了解。……次は、どんな人たちだろう」


 僕は少しの緊張と、それ以上の期待を胸に、加速する風の中で前を見据えた。



「っと…到着。……お疲れ様、アルテア」


 半重力アンチグラビティによる着地も、今では自分でも驚くほど様になっている。

 僕たちは、王都オーティスのメインストリートに面した、立派なギルド支部の目の前に降り立った。


「それにしても、綺麗な街だな……」


 僕は思わず足を止め、辺りを見渡した。

 ストリートはツルツルに磨き上げられた純白の輝石でできていて、日の光を反射して眩しいくらいだ。


 その美しさに圧倒されていると、ギルドの扉から出てきた一人の男性が声をかけてきた。


「夜になると、もっと綺麗なんですよ!魔導灯ランプが灯れば、この磨き上げられた道がその光を余すことなく跳ね返して、街全体が浮き上がるんです……!」


 うっとりと陶酔したように両手を広げ、演説するように語る長身の美形男性。

 すごく様になっているけど……急になんだ、この人は。


「ヴィクトール、もうええやろ」


 呆れたように後ろからついてきたのは、ナギと呼ばれた青年だった。

 少し身長が低めの黒髪に黒い瞳。眼鏡の奥にある切れ長の瞳が、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている。


(……え、関西弁?シャオさんといい、この世界の文化はどうなっているんだろう)


 異世界に来てからの最大の謎。でも、なんだか親近感が湧いてしまう。

 落ち着いたら、この世界を旅してみるのもいいかもしれないな。


「すまんな、こういう奴なんや。……自分らが、ゼノスから来たコータ君、であってるか?」


「あ、はい! ゼノスギルドのコータです。……よろしくお願いします」


「申し遅れました! 僕は監視者ハンドラーのヴィクトールです! 以後、お見知りおきを!」


「俺は執行者ハンターのナギや」


 スッと差し出されたナギさんの手を、僕はしっかりと握り返す。

 キラキラと輝くヴィクトールさんの存在感に隠れがちだけど、ナギさんの落ち着いた佇まいからは、確かな実力と不思議な魅力を感じる。


「コータです。……そして、こっちは……」


 紹介されたアルテアは、いつものごとく無表情のまま、ヴィクトールさんを至近距離でじーっと観察している。


「アルテアさん、ですね!よろしく!」


 そんな至近距離の視線にも全く動じず、ヴィクトールさんは爽やかな笑顔で握手を求めた。


「騒がしい人間、ヴィクトール。記憶した。よろしく頼む」


 すっと、右手を差し出すアルテア……?


 なっ…えっ……!?

 アルテアが自分から『よろしく』だって!?

 しかも『個体』、じゃなくて『人間』……?

 消去しようともしない…!?


 僕は驚愕のあまり、言葉を失った。


 僕が寝込んでいた一か月の間に、アルテアは確実に変わっていたらしい。

 なんだか、親としての僕の出番がなくなっていくような寂しさを少しだけ感じてしまう。

 帰ったら監視鳥バードの記録でも見てみようかな…。


「おい、どないしたんや。立ち話もなんやし、とりあえずギルドの中で話そか」



 ギルド・オーティス支部の応接室。


 ガヤガヤとしていたゼノス支部とは対照的に、ここでは皆、所作や言葉遣いに気品がある気がする。

 当たり前だけど、その街によっていろんな色があるんだな。


 テーブルを挟んで座る僕たち。

 ふと横を見ると、アルテアはいつも通り宙に浮くのではなく……当たり前のように椅子に「座って」いた。


 故障かな?

 それとも、これも人間社会に溶け込もうとしている兆候なんだろうか。

 僕がいろいろと考えを巡らせている間に、ヴィクトールさんが大きな地図を広げた。


「今回の調査対象は、ここ…エテリス大陸の北北西の端にある『リブロ遺跡』です」


「サジウス遺跡の起動に続き、こっちもってことらしいわ」


「こちらも最近魔物の発生が活発化していまして、それもついでに解決してきてほしい、とギルド本部からの仰せつかりました」


 優雅に紅茶で口を潤すヴィクトールさん。いちいち所作が美しい。

 魔物か…。またゴーレムとかかな?

 まあアルテアと一緒なら、何が出てきても大丈夫だと思うけど。


「という訳や。本格的な調査は明日からでええやろ。宿は取ってあるから、今日はゆっくり観光でもして英気を養って……」


「そう、この美しきオーティスの街を、ぜひお二人に紹介…したい……!」


 ナギさんの言葉を待ってましたとばかりに、ヴィクトールさんが食い気味に提案してきた。


「もうええて、ヴィク…」


「僕ら二人で、最高のおもてなしをしますよ!」


「ええ…俺もかいな…」


 呆れるナギさん。その時、じっと座っていたアルテアがぼそりと呟いた。


「食物エネルギーの摂取を所望する」


「わかりました!じゃあ、まずはオーティス・グルメですね!早速出発しましょう。案内はお任せを!」


「あぁ…もう、わかったわかったから……。そんなに押すなや」


 ぐいぐいと背中を押すヴィクトールさんに急かされ、僕たちは賑やかな空気と共にギルドを後にした。


 これから始まる新しい冒険を予感させるように、王都の青空がどこまでも高く、澄み渡っていた。


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