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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
奪還編

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第35話:守るための力は確かな強さ

 ゼノスギルド、二階の医務室。

 窓から差し込む午後の柔らかな光が、清潔な白いシーツの上に落ちている。

 そこには、ヴォルカニアでの激闘を経てなお療養を必要とするコータが、全身を包帯に巻かれた姿で静かに横たわっていた。


「……アルテア。一応、確認しておきたいんだけど」


 コータが、少しだけ真剣な表情を浮かべて、傍らに立つ少女を見上げた。

 銀糸の髪を揺らし、感情を排した瞳でそれに応えるアルテア。


「イグニスでの一件もあったし……もし、街で身の危険を感じるようなことがあったら、自分の身を守るために力を使ってもいい。

 ……ただし、人の命は脅かさないように、ね」


 その言葉には、かつて「暴走を止める監視端末」として彼女を縛っていた頃にはなかった、一人の人間としての信頼が込められていた。

 アルテアは胸の奥にある神性魔導演算回路を稼働させ、その「許可」を論理的に処理する。


「自己防衛の許可を確認。出力制限……0.01%以下。了解した、コータ」


「今は僕も動けないし、ギルドの依頼も受けられない。君までずっとこの狭い部屋に閉じ込めておくのは忍びないからさ。…たまには、街を自由に散策しておいでよ」


 コータは少しだけ申し訳なさそうに微笑み、続けた。


「あ、でも、一応監視鳥(バード)だけは付いていかせるからね。…迷子になったら困るし」

「私は迷子にならない。ゼノスの地図データは完全に網羅している」

「そうじゃなくて、気分の問題だよ。……ほら、行ってらっしゃい」


 コータに背中を押されるようにして、アルテアは静かに医務室を後にした。



 ゼノスの活気あるメインストリート。

 アルテアの頭の上には、一羽の監視鳥バードがちょこんと乗り、辺りをキョロキョロと見回している。

 ふわふわと揺れる銀糸の髪に足元を取られながらも、監視鳥はパチパチと瞬きをして周囲を記録していた。


 アルテアは無機質な瞳で露店や行き交う人々を観察しながら、目的を持たずに街を歩く。


「……もしかして、アルテアさん、ですか?」


 ふいに、横から声をかけられた。

 足を止めたアルテアの視線の先には、一人の少女が、驚きと期待の混じった表情で立っていた。


「なんだ」


「やっぱり……! あの、以前コータさんと一緒に依頼をさせて頂いた、執行者ハンターのカレンといいます! その節は本当に……助けていただいて、お世話になりました!」


 少女――カレンは、ペコリと深く頭を下げた。

 

「そうか。カレン……個体名を記憶した」

「変わってるけど、とっても強いんだって、コータさんがすっごく嬉しそうに話していたので……! 一度ちゃんとお会いしてみたかったんです!」


 カレンはニコっと朗らかに笑うと、右手をスッと差し出した。

 人類における、親愛を示す儀式であることを認識したアルテアもまた、自身の右手を同じように差し出す。


「これで、お友達ですね! それで、今日はどこかへ行かれるんですか?」

「コータの命令で、ゼノスを『散策』していた所だ」


 アルテアの言葉に、カレンは「命令……?」と少しだけ不思議そうな顔をしたが、すぐにまた表情を明るくさせた。

 ギルドには同年代の執行者が少なく、何よりコータと深い絆を持つアルテアとの交流を深めたいようだった。

 アルテアが『同年代』であるかは疑問だが。


「私も今日は非番で、ちょうどお休みなんです! もしよろしければ、ご一緒してもいいですか?」


「かまわない」


 こうして、純粋な人間の少女と、人造の機械少女による、奇妙なゼノス散策が始まった。

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