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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
奪還編

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第33話:イグニスの大地が震える

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 イグニス軍司令部 上層 大講堂。

 血の匂いと、硝煙の饐えた臭いが大講堂を満たしていた。

 無数の座席は破壊され、その残骸の間に、満身創痍の巨体が荒い息を吐きながら膝をついている。


 デリクは、アッシュの常軌を逸した素早い動きと、死角から正確に撃ち込まれる魔導銃ピストルの弾幕を前に、完全に成す術がなかった。


 パァンッ、パァンッ!!


「ぐぅっ……がはぁっ……!」

「デリクッ……!!」


 右肩を撃ち抜かれ、大きく体勢を崩したデリクを見つめ、後方の瓦礫の陰に隠れているエレーナは悲痛な声を上げた。

 魔力による防護はとっくに限界を迎えている。

 エレーナはもう、両手を組んで彼の無事を祈るほかなかった。

 

 ガチャッ、カランカラン……。


 静まり返った空間に、二度目の排莢の音がひどく冷たく響き渡る。


「……しぶといな。だが、その出血量ではもう動けまい」


 声の出処を探ろうとデリクが血走った目を向けるが、そこにはただ粉塵が舞っているだけだった。


 パァンッ、パァンッ、パァンッ!!


 三方向からの同時射撃と錯覚するような、常軌を逸した機動射撃。

 三発の弾が、さらにデリクの太ももと脇腹を容赦なく抉り取った。


 その必殺の追撃を放つ際も、アッシュは自身の居場所が絶対に特定されないよう、魔導靴ブーツの反発力を利用して大講堂の天井や壁を矢継ぎ早に飛び回っていた。


 徹底した、冷徹なる狩り。


 だが。


「……なぁ、エレーナ。俺のワガママに、付き合ってくれ」


 血反吐を吐きながら、デリクはぼそりとエレーナにのみ聞こえる声で呟いた。


「っ……!」


 その声に込められた『覚悟』を悟り、エレーナも覚悟を決める。

 息を潜め、震える唇を固く結びながら、こくりと小さく頷いた。


「なにをこそこそと……」


 天井のシャンデリアの陰から、アッシュの冷ややかな嘲笑が降ってくる。


 パァン、パァン、パァンッ!


 と、この戦いに完全な終止符を打つべく、三度目の銃声が鳴り響いた、その刹那――。

 的になり続けていたデリクが、全身の筋肉を限界までパンプアップさせ、巨大な咆哮を上げた。


「エレーナァァァァァッ!!!」

解放リリース――限界突破ッッ!!!」


 ドクンッ!!


 空間が脈動した。デリクの身体から、限界を超えた魔力が引き出される。

 それは光の奔流となって、デリクの拳へと集中する。


爆発バーストぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 ズドォォォォォンッ!!!


 デリクは、自らの『足元』で、その限界突破した尋常ではない圧縮魔力を一気に爆発させた。

 大講堂の地盤が底抜けし、凄まじい爆風が巻き起こる。

 デリクは、その恐るべき自爆の推進力を利用し、岩石のミサイルのごとく自らを大講堂の『天井』へと向けて射出したのだ。


 狙いは、アッシュ。


 デリクはただ漫然と撃たれ続けていたわけではなかった。

 全身に銃弾を浴び、死の瀬戸際を歩きながら、アッシュの極限の速度の気配を、残像を、魔導銃ピストルの残弾数を、そして銃から放たれる魔力の『残り香』を、その野性の嗅覚で完全に探り当てていたのである。


「なっ……!?」


 予測不可能な、自爆特攻という捨て身の狂気。

 さすがのアッシュも完全に不意を突かれ、向かってくる極大の質量を前に魔導銃ピストルを構え直すが――


 カチャッ、カチャッ。


「……弾切れ、だと……!がはァッ!?」


 乾いた撃鉄の音が鳴った直後。

 爆発の凄まじい勢いそのままに飛来したデリクの、全身全霊の突進がアッシュの土手っ腹に深々と突き刺さった。


 大講堂の天井を突き破らんばかりの衝撃。

 そのまま、アッシュは弾き飛ばされるようにして、はるか後方の壁へと向かって勢いよく吹き飛んでいく。

 だが、限界突破の代償と過剰な失血により、デリクもまた空中で体勢を制御するだけの力は残っていなかった。


 互いに致命的なダメージを負った両者は、重力に従って同じ方向へと放物線を描き、瓦礫の山へと墜落していった。


「デリクッ!デリク!ねぇ、デリク……ッ!!」


 エレーナが瓦礫の中、必死に駆け寄る。

 凄まじい砂埃の中、仰向けに倒れたデリクが、血まみれの口元をわずかに動かしてニヤリと笑った。


「へっ……やって、やったぜ……」


 しかし、勝利の余韻に浸る暇などなかった。

 デリクが安堵の息を吐き出そうとした直後、エレーナの肌が粟立った。

 軍司令部の上層——まさに今コータたちが向かっていたであろう中枢エリアの方角へ向けて、圧倒的な魔力の奔流が集束していく『感覚』を感じ取ったのだ。


(この、感覚は……。知ってる……アルテアさんだっ!)


「……コータ……お前、やりやがっ……たのか……」

 デリクは静かに目を閉じ、そのまま深い意識の底へと落ちていった。


 直後。

 司令部中枢の方角から、太陽が地上に顕現したかのような、音の一切ない無音の純白の『光』が空に向けて放たれた。

 その刹那、軍司令部の分厚い外壁が、紙くずのように跡形もなく消滅したのだ。

 大講堂の壁もまた、その余波で綺麗に円形に抉り取られて彼方へ吹き飛び、外の赤黒い空気が一気に流れ込んでくる。


 呆然とするエレーナの前に、外壁のなくなった虚空から、ふわりと『よく知る顔ぶれ』が浮遊しながら降りてきた。


「……エレーナ、デリク。帰るぞ」


 銀糸の髪を夜風に靡かせた、アルテアだった。

 そして彼女がスッと指をかざした瞬間、エレーナと、気を失ったデリクの足元から『重力』という概念が消え失せた。


「えっ……きゃあっ!?」


 ふわりと体が浮き上がり、そのままアルテアの元へと引き寄せられていくエレーナ。


 上空を見上げると、そこはまさに満身創痍の野戦病院のような有様だった。


 エンバーとの激戦で魔力を使い切り、腑抜けた顔のジェシカとゼン。

 全身の血の気が引き、大量失血により意識不明のデリク。

 過剰な解放により、歩くことすらままならないエレーナ。

 そして——血にまみれ、肋骨やいくつかの骨を砕かれ意識を失っているコータ。


 彼は、脱出の際の『消去バニッシュ』の指令を最後に、完全に力尽きて気を失っていた。


「……目標、辺境都市ゼノス。離脱する」


「こ、これが、噂の半重力アンチグラビティですか…!興味ぶかぁぁぁぁ!」


 血みどろで全滅寸前のギルドメンバーたちの中、ただ一人無傷で元気なサイラスだけが、知識欲を全開にして狂喜していた。


 アルテアは、全員を牽引しながら、夜空の彼方——懐かしきゼノスへと向けて、白星のごとく帰還していった。



 ヴォルカニア軍司令部 指令室。


「……ふ。……ふふふ……」


 外壁が消し飛び、瓦礫の山と化した指令室の中心。

 夜風が吹き込むその廃墟の中で、イグニス軍総司令・イグナートは、自身の右腕を強引に止血しながら低く笑い声を漏らしていた。


「これは…これは、想像を遥かに超えている……!!」


 アルテアの放ったレイ


 魔力の奔流が間近を掠めたイグナートの左頬は、火傷で赤く爛れていた。しかし、その瞳には狂気に満ちた歓喜の色を浮かべていた。

 本来ならば、絶対的な力を見せつけられて苦痛と敗北感に顔を歪めるはずの女は、腹の底から湧き上がる興奮に身を打ち震わせていたのだ。


 光を感じるやいなや、貫いた。あの無慈悲で美しき一撃。

 ヴォルカニアの誇る強固な城壁を音もなく消し去り、人類の魔法の常識をあざ笑うかのように、当たり前のように空を飛んで消えていった彼女の小さな背中。


「あの『管理端末』たるコータ君が目覚めさせた、これこそが……これこそが、真の神の力……!」


 イグナートは唇を歪め、破壊された司令部の外に広がる夜空を見上げた。


「…逃がした魚は大きいが、得られたデータは計り知れない。くふふ…ははは…はっはっはっは!!」


 彼女は、奪い返された2号——アルテアの圧倒的な性能をその身で味わったことで、地下深くに眠らせてある『1号』の研究を極限まで進める決心を、より一層強く固めていた。

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