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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
奪還編

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第31話:燃え上がる赤・紅・朱

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 イグニス軍司令部 会議室。

 上層の大講堂でコータ達がアッシュとの戦闘を開始したころ、半壊した中層の会議室では、執行者ハンター――ジェシカとエンバーが、静かに対峙していた。


「更に解放……っと」


 エンバーが嗜虐的な笑みを浮かべながら呟く。

 彼自身の命を削るかのように解放された魔力が、膨大な熱量となって魔導棍クラブに注がれていく。

 しかし、想定を超えた魔力増幅に耐えきれず、彼の軍服に隠されたイグニス式魔導演算回路からは、ビキビキと不吉な破砕音が鳴り響いていた。


「わおわお、これは演算回路がもう限界かも……!でも、いいや。あんたとなら、最後まで楽しめそうだ!」


 自身の体がどうなろうと構わない。ただ純粋な戦闘の狂悦だけを求めるエンバーの言葉に、ジェシカは改めて構え直した。


「ゼン、頼む」

解放リリース――100%だ……!」


 後方のゼンが、短く、しかし渾身の力を込めて紡ぐ。

 Aランク共同体レゾナントの、正真正銘の最大解放。


 ゼンと、ジェシカの魂の器が完全に共鳴し、目も眩むような魔力の奔流がジェシカの全身を包み込んだ。

 先ほどまで手にしていた身の丈を越える巨大な槍と盾は消え失せている。


 今、魔力の渦が晴れた彼女の手に握られているのは――ひと振りの、高密度に圧縮された、控えめなサイズの魔力の槍だった。

 そして、余剰の魔力はすべて彼女の身体強化へとあてがわれ、パチパチと雷光を纏う彼女の姿は、もはや人ならざる『超人』と言って差し支えない領域に到達していた。


「おぉ、随分と雰囲気がかわったねぇ!いいじゃん、いいじゃん、そそるねぇ!」

「これは、あんまり私の好みじゃないんだよ……」


 ジェシカが地を蹴る。


「さっそくっ……!」


 魔導棍クラブを振りかぶって跳躍するエンバーに、すぐさま反応したジェシカの圧縮槍が激突する。


 ギィンッ!!!


 交錯する武器が、部屋の空気を焦がすほどの凄まじい火花を散らす。

 目にも留まらぬスピードは互角――いや、出力に勝るジェシカが、力でエンバーを床へと叩き落とした。


雷撃ライトニング……!」


 追撃を許さない。

 空いた左手をかざすと、ジェシカの周りの空間からいくつもの電撃の矢が生成され、着地したばかりのエンバーへと間髪入れずに襲い掛かる。


「うわぁ、ヤバ……っ」


 エンバーは咄嗟に魔導棍クラブを頭上に掲げ、そこから赤い魔力の防御壁を展開する。


(単独での魔力増幅だけでなく、魔力の形態変化による防御壁……。先ほどのジェシーの大技を防いだのは、あれか……)


 後方で戦況を見守るゼンは、イグニスの技術の底知れなさに戦慄しながら独り言ちた。


 しかし、展開された赤い防壁に電撃の矢が次々と弾かれている最中、ジェシカはその場で魔法を放ち続けることをよしとしなかった。

 彼女はすぐさま雷光を纏って距離をつめ、同時攻撃を仕掛ける。


「そらぁっ!はっ、はぁっ!」


 踏み込みからの神速の三連撃。

 彼女から放たれる攻撃は、先ほどの周囲の壁を粉砕する大振りとは打って変わって、極限までコンパクトに削ぎ落とされた洗練された武術の形。

 だが、その矛先に込められた威力は全く変わっていない――いや、一点に集中している分、殺傷能力は跳ね上がっていた。


「うっ、やばっ、うわぁっ!?」


 エンバーは、すぐさま防御壁による全方位防御を諦め、回避行動に専念する。

 彼が紙一重でかわした空間に、バチバチとジェシカの槍と雷が突き刺さり、床材を満遍なく焦がして黒煙を上げる。


「あははっ!さっきの大味なお姉さん方が、好みだったなぁっ!」


 ジェシカの猛攻の切れ目を狙い、エンバーがすかさず魔導棍クラブによる変則的な連続攻撃を叩き込む。


ギィン! ギィンッ!


 ジェシカはそれを最小限の動きで数発防ぎ、反動を利用して距離を取ると、更に上空へ巨大な電撃の矢を生成した。


「魔力ってのは、小細工なしでどーんとぶつけるもんだ!」


 無数の雷の矢が、エンバーを串刺しにせんと降り注ぐ。

 だが、エンバーは狂気じみた笑みを浮かべたまま、同時に襲い来るジェシカの神速の槍と天からの雷を、信じられないほどの体捌きと魔導棍クラブで器用に弾き落としていく。

 それどころか、弾いた勢いを殺さずにジェシカへの鋭い追撃すら行っていた。


 魔道具という技術の結晶だけではない。これは間違いなく、エンバーという男が積み上げてきた、純粋な闘争のセンスと鍛錬が成せる凄まじい業だった。


「あー……楽しい!ほんっと楽しいけど、これじゃあお互い、いつまで経っても埒が明かないね……!」


 エンバーは雷の雨を切り抜けた勢いそのままに、反対側へ抜けて距離を取った。


「じゃあ、これで最後だ。……思いっきり、やろうぜ」


 エンバーは魔導棍クラブを握る両手にギリッと力を込めると、自らの命を燃え上がらせるかのように、魔力を全身に巡らせる。


「いいよ、最高だ!」


 受けて立つジェシカもまた、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、自身のすべてを次のひと振りに込める構えを取った。


「ぶっ壊れろぉぉぉ!!」


 エンバーが爆発的な瞬発力で距離を詰める。

 一歩踏み込むごとに床が爆ぜ、文字通りの『音速』でジェシカの眼前に迫った。

 彼が渾身の力で魔導棍クラブを振り下ろそうとした、その時。

 目の前に、いつの間にかジェシカの放った魔力の槍が、投擲弾となって迫っていた。


「なっ!?」


 エンバーが間一髪、魔導棍クラブでその槍を強引に弾き飛ばす。

 だが、致命的な隙が生まれた。

 弾かれた槍のすぐ後ろ――完全にエンバーの死角となる位置まで、ジェシカはすでに肉薄していたのだ。

 槍を自身の目くらましとして、あらかじめ投擲していたのである。


解放リリース――限界突破……!」


 後方のゼンが、最後の解放。


落雷サンダーボルトォォォォォ!!」


 がら空きとなったエンバーの胸の中央。

 そこにピタリと添えられたジェシカの左手から、この部屋のすべてを黄金に染め上げるほどの、膨大な落雷のエネルギーがゼロ距離で放出された。


 ドォォォォォォォォンッ……!!!


 軍司令部の中腹に、巨大な落雷のごとき大爆発が巻き起こり、外壁が消し飛んで外の空気が流れ込んでくる。

 莫大な粉塵が落ち着き、煙が風に流されて視界が開けた先。

 そこには、全身を黒焦げにして大の字で地面に横たわっているエンバーの姿があった。

 彼の手に握られていた魔導棍クラブは、完全にひしゃげて、その機能を停止している。


「うっひょ……。マジで、つえぇな……あんた……名前は……?」


 掠れた声で、微かに首だけを動かして天井を見上げるエンバー。


「ジェシカだ。……あっちは、私の相棒のゼン」


 肩で息をしながら、ジェシカは短く答えた。


「俺は、エンバーってんだ………以後、よろし……」


 首をガクンと落とし、そこでエンバーは完全に気を失った。

 彼の命の灯火だけは消え去っていないことを確認すると、ジェシカとゼンも、張り詰めていた緊張の糸が切れたのと極度の疲労により、その場にどさりとへたり込んだ。


「はぁっ、はぁっ……。ジェシー、派手にやりすぎだァ」

「ははっ、最高だったよ」


 ボロボロになった二人は、空いた壁の穴から見えるヴォルカニアの黒い空を見上げた。


「……あいつら、上手くやってるといいがなァ……」

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