第122話:心を込めれば
「うーん…難しいですね……」
私はカフェのテラス席で、目の前のテーブルに突っ伏しながら深いため息をついた。
コータさんの誕生日プレゼント大作戦。そう意気込んで、リュミエールの街を熟知しているベアトリスさんの案内のもと、あちこちのお店を巡ったのは良かったのだけれど…。
名産の食材や、職人が仕立てたお洒落なアクセサリー、魔導仕掛けの便利な日用品など、本当に色々なものを見て回った。だけど、どれを見ても「これだ!」という明確な決め手に欠け、ついぞ見つからないままだった。
すでに太陽は大きく傾き、美しい夕闇が街を琥珀色に染め始めている。すっかり歩き疲れてしまった私たちは、通りに面したお洒落なオープンカフェで一休みすることにしたのだった。
「そうだねぇ…。こういう贈り物ってやつはさ、見た瞬間に『ピーン』と来るものでないとね…」
ベアトリスさんは苦笑しながら眉根を寄せ、手元のコーヒーをずずっと啜る。
そんな彼女の隣では、テーブルに並べられたリュミエール名物の色鮮やかなケーキや焼き菓子を、まるで掃除機か何かのような勢いで、次から次へと口の中に放り込んでいた。
「それにしてもお嬢ちゃん、ほんっとによく食べるねぇ…。その小さな体のどこに消えてるんだい、それは」
ベアトリスさんは半ば呆れ、半ば感心しながら、母親のような手つきでナプキンを取り、アルテアさんの生クリームがついた口元を優しく拭ってあげていた。当のアルテアさんは「――咀嚼およびエネルギー変換効率は正常」と、拭かれるがままになっている。
「諦めますか? ニーナ」
対面に座るジリウスさんが、静かに私へと問いかけてきた。
傾きかけた夕日に照らされながら、小さなクッキーとエスプレッソのカップを片手に持つ彼の姿は、それだけで一枚の完成された絵画のような美しさがある。
「諦めたくはないんですけど…。なにか、こう、もう少しで答えが分かりそうなんだけどなぁ…」
コータさんが本当に喜んでくれて、それでいて重たくなりすぎず、私の感謝が伝わるもの。あと一歩で何かが繋がりそうなのに…。
「ほほ。何やらシリアスな雰囲気ですな」
その時、頭上から、穏やかで、聞き覚えのある声が降ってきた。
顔を上げると、そこには綺麗なロマンスグレーの髪を綺麗に整えた老紳士が立っていた。
「オーギュストさん…!」
「こんにちは、ニーナ様。おやおや、これはベアトリスまで。揃ってこのような場所で茶会ですか」
「お、爺さん、良いところに来たね!ちょっと知恵を貸してくれ…!」
ベアトリスさんがずい、と身を乗り出す。
「おや、改まって。何かお悩みですかな?」
オーギュストさんは白髭を優しく揺らしながら、穏やかに微笑んだ。
「実は、かくかくしかじかで…」
私はすがるような気持ちで、これまでの経緯を一気に打ち明けた。
◇
「――であれば、このような趣向はいかがですかな?」
それを聞いた瞬間、私の胸の奥がドクンと跳ねた。
「…それ、とっても良いです…!ありがとうございます!」
「はは!爺さん、それだ、それだよ! さすが無駄に長く生きてないねぇ!」
ベアトリスさんが私の肩をバンバン叩きながら大笑いする。
オーギュストさんの提案はまさに的を射ており、これまでバラバラだったパズルのピースが一気に組み合わさるような、そんな頭の芯がすっきりとするような素晴らしいアイデアだった。繋がらなかった線が、綺麗に一本に繋がったのだ。
「これ、ベアトリス、本当に貴女のその口は――」
「さあ、そうと決まればニーナ、早速行こうじゃないか!」
オーギュストさんの指摘を、ベアトリスさんはまたも華麗にスルーした。
ガタン、と勢いよく椅子を引いて立ち上がり、今すぐにでも出発しようと歩き出す。
「あああ、待ってくださいよベアトリスさん!お金!まだお会計払ってないですってば!」
私は慌ててお財布を取り出し、手早く銅貨を数枚数えてテーブルの上にカチャカチャと置いた。
「オーギュストさん、本当にありがとうございました!」
「お役に立てたのなら光栄です。――いってらっしゃいませ、ニーナ様」
帽子に手をかけ、柔らかく紳士的に微笑むオーギュストさんに手を振る。
「アルテアさん、ジリウスさん、行きましょう!」
「了解」
「ニーナの心拍数の安定を確認。追従します」
私の声に、アルテアさんと、ジリウスさんが立ち上がる。
気に入ってくれるといいな。




