第121話:お誕生日大作戦
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「なるほど。誕生日の贈り物、ねぇ…」
ベアトリスさんは顎に手を当て、深く頷いた。
そう。私が今回、リュミエールの地理や文化に詳しいベアトリスさんを急に呼び出したのは、他でもない。コータさんへの『誕生日プレゼント』を一緒に選んでもらうためだった。
きらびやかなショーウィンドウが並ぶリュミエールの華やかな街並みを歩きながら、私はあれこれと頭を悩ませて相談を続ける。
「酒を贈る…っていう雰囲気でもないだろ?それに、物への執着もあんまりなさそうな性格だしねぇ…」
「そうなんですよ。しかも私、男の人に贈り物なんて、これまでの人生で殆どしたことがないですし…」
思い返してみても、元の世界でお父さんやお兄ちゃんにバレンタインの義理チョコをあげたくらいだ。あとは、おじいちゃんの敬老の日にお酒のおつまみをプレゼントしたことくらい。
……だめだ、一ミリも参考にならない。
「ニーナ。それほどまでに思考のリソースを消費するのであれば、直接本人に聞いては如何でしょうか」
隣を浮いていたジリウスさんが、あまりにも身も蓋もない正論を言い出した。
「肯定。ジリウスの意見に同意する。現状の悩みは極めて非効率。本人に直接要求を尋ねることを提案。コータの生態反応を検知――」
アルテアさんの瞳に文字列が走り、今すぐコータさんをスキャンしようとする。
「まってまって!ストップ、アルテアさん!」
私は慌てて彼女の両手を掴んで、スキャンを阻止した。
それは、本人に直接「何が欲しい?」って聞いちゃえば一番簡単だし、間違いはないかもしれないけれど…!
「そういうことじゃないんだよ、もう…っ」
頭を抱える私を見て、ベアトリスさんが楽しそうに喉を鳴らし、助け舟を出してくれた。
「お嬢ちゃんに、男前。…いいかい、贈り物ってのはね、そういうことじゃないんだよ。一番大事なのは、それを貰った相手がどう思うか、なんだ。それにね、こうやって渡す相手の顔を思い浮かべながら、あーでもないこーでもないって頭を悩ませる時間。……実はそれ自体が、もう贈り物のひとつなんだよ」
「貰った相手がどう思うかが大事。悩む時間そのものも、贈り物」
ジリウスさんは、まるで未解読の古代文字の意味を脳内で反芻するように、ベアトリスさんの言葉を静かに呟いた。
さすが二人の子供を育てるお母さん。人間の複雑な情緒を、執行端末達にも分かりやすい言葉に噛み砕いてくれて本当に助かる…!
「ジリウス、私は理解した。これは人類が持つ『共感能力』に由来する高度な精神活動。あえて直接的な対話を避けて試行錯誤することで、物品を渡す側――すなわちニーナが、自身の自己効力感と、相手からの承認欲求を最大化して得るためのプロセスだ」
「なるほど、共感能力の応用ですか。事前にあえて情報を遮断し、不確実性を高めることにより、サプライズ成功時におけるコータの脳内快楽物質の分泌を促す。人類の行動心理学において、非常に最善とされている手法ですね」
「…」
何だろう。二人の納得の仕方が、私の求めていた温かい情緒から、かなり斜め上にズレている気がする。いや、でも…うん。結論としてサプライズの意義を理解してくれたのなら、もうそれでいいよ…。
「なんか…言い草にトゲっていうか、風情のない理屈っぽさが気になるところもあるけどさ。まあ、いいよ。だいたいそんな感じだ」
ベアトリスさんも、さすがに苦笑いを浮かべながら、呆れたように肩をすくめて返したのだった。
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