第120話:幸せのカタチ
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リュミエールの中心に位置する、エトワール広場。
お天気の良い午後の光が降り注ぐ中、私とアルテアさん、そしてジリウスさんの三人は、広場のシンボルである大きな噴水の脇で「ある人」を待っていた。
「いやあ、待たせたね」
雑踏を割って響いてきたのは、快活で芯のある女性の声だった。
声のした方を振り向いた私は、思わず目を丸くしてしまう。
そこには、両方の肩に一人ずつ小さな子供をひょいと乗せたベアトリスさんと、そのすぐ後ろを、どこか申し訳なさそうに、ちょっと気が弱そうな表情でついてくる一人の男性の姿があった。
「こんにちは、ベアトリスさん! すみません、急にお声掛けしてしまって…」
「いいんだよ、気にするな」
ベアトリスさんはにやっと白い歯を見せて豪快に笑う。それから、自分の両肩の上で楽しそうに足をパタパタさせている二人を顎で示した。
「この子達は、見ての通り私の娘。――クロエと、シルヴィだ」
「ねぇおかーさん、あの人、浮いてるよ」
「おかーさん、あの女の子も、浮いてるよ」
「こら、人様を指さすんじゃないよ」
肩に乗った子供たちは、くりくりとした目がそっくりな可愛い女の子たちだった。おそらく双子だろう。二人とも、ジリウスさんとアルテアさんに対し、好奇心で目をキラキラと輝かせながら指を差している。
そして、ベアトリスさんの一歩後ろから、少し遅れてはにかむような挨拶をくれたのは、とても優しそうな雰囲気を纏った男性だった。
「こ、こんにちは。…僕はベアトリスの夫の、マルセルです…」
ぺこぺこと何度も腰を低くして頭を下げる彼の姿は、どっしりと構えていて頼りがいのあるベアトリスさんとは、あまりにも対照的だった。
「こ、こんにちは、ニーナです! ベアトリスさんには先日、本当にお世話になりまして…」
「いえいえ、うちの妻が、何かご迷惑など掛けておりませんでしょうか…? 本当に昔から、あのような性格ですので――何か粗相があれば、僕からも謝ります」
「あはは、いえ、そんなことないです! こちらこそ……っ」
本当に腰が低い人だ。だけど、豪快なベアトリスさんと、優しくて穏やかなマルセルさん。正反対な性格の二人だからこそ、この家族は良いバランスで成り立っているのかもしれない。
「よし、マル。じゃあ、私は用事があるから、子供たちを頼んだよ」
ベアトリスさんはそう言うと、小さな二人を軽々と肩から地面へと下ろし、順番にそれぞれの頬にキスをした。
「お父さんの言う事、ちゃんと聞くんだよ?」
「「はーい!」」
元気いっぱいに手を挙げる子供たちを見届けてから、ベアトリスさんは仕上げとばかりに、マルセルさんの頬にも笑顔でちゅっとキスを贈った。
その瞬間、マルセルさんの顔が耳の付け根まで真っ赤に染まる。
「べ、ベアトリス、やめてくれよ、人前で…!」
「ははは!いいじゃないか、減るもんじゃなし。それじゃあ、頼んだよ」
「もう……じゃあ、行こうか二人とも」
「おかーさん、ばいばーい!」
「おとーさん、どこ行くー?」
マルセルさんは恥ずかしそうに顔を伏せながらも、子供たちの手をしっかりと引いて歩き出す。そんな、どこからどう見ても幸せの塊のような素敵な家族の後ろ姿に、私は思わず胸が温かくなって、にっこりと微笑んでしまった。
ふと横を見ると、アルテアさんは瞳をぴかぴかと明滅させながら、ベアトリスさんを見つめていた。
ジリウスさんもまた、家族というシステムを客観的に俯瞰し、観察しているようだった。
見送りの手を振ったあと、ベアトリスさんはくるりとこちらを振り返り、パンと手を叩いた。
「さあて、それじゃあ本題だ。今日は一体、私に何の用だい?」
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