第118話:初めて知った言葉
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「ふぅ…美味しかった……」
すっかりお腹もいっぱいになり、あとは食後のデザートを待つばかりとなった頃。僕たちはそれぞれ、お腹を満たした満足感の中で、ゆったりとした会話を楽しんでいた。
「ベアトリス。質問がある。――先ほどの戦闘において、攻撃を加える瞬間に『あいい!』という発声を行わなかった。あれは何故だ?」
アルテアが何杯目かわからない宙に浮かせたカクテルをぐい、と煽ってから、不思議そうに首を傾げた。
「お嬢ちゃん、その『あいい』ってのは一体なんだい?」
「拳法を習得しているシャオが、打撃の瞬間に必ず発声している。威力を最大化するために必要不可欠なプロセスであると、彼女は主張している」
「うーん…まぁ、あれは人それぞれなんじゃないかねぇ。少なくとも私は言わないよ。叫ぶ方に意識を持って行かれて、かえって力が入らなくなるからね」
「なるほど。個体差による効率の変動」
ベアトリスさんとアルテアは、真剣な表情で拳法談義に華を咲かせている。
一方、その斜め向かいでは、ジリウスがニーナさんに向かって生真面目な顔で問いかけていた。
「ニーナ。先ほどベアトリスがオーギュストをからかう際に言っていた『おじせん』とは、いかなる意味を持つ単語でしょうか。私の言語データベースには該当する項目がありません」
「ぶふっ!? げほ、ごほっ!」
カクテルを飲んでいたニーナさんが、盛大にむせて顔を真っ赤にした。
「えっ、ああ…えーと、それはね? その……ジリウスさん、ええと…年上の、その、大人の男性に魅力を感じる人のことを、そういう風に言う、のかな…?」
「なるほど。『年長の男性に好意を抱く者』ですか」
納得したように頷くジリウスに対して、オーギュストさんがそっと諭すように言う。
「ジリウス様。紳士たるもの、容易にレディに対してそのような話題を問うものではありませんよ」
「何故でしょうか、オーギュスト」
「そのような話題は非常に繊細なものです。貴方方の信頼関係が十分に構築されているとはいえ、異性との会話においては、もう少しオブラートに包んだ物言いをするべきですな」
「オブラート。データに記録」
オーギュストさんに優しく諭され、神妙に頷くジリウス。
…なんだろう。これだけ見ていると、この機械人形の二人が本当に人間に思えてくる。
こうして、僕たちと一緒に人間らしい楽しい時間を過ごすことで、彼らはどんどん新しい「感情」を獲得しているんじゃないか――そんな気がしてならなかった。
「コータ。口元が緩んでいる。顔面の筋組織の不具合か?」
僕の視線に気づいたアルテアが、いつもの無表情で聞いてくる。
「違いますよ、アルテア。コータは今、満腹状態になったことで副交感神経が優位になり、軽度の眠気を感じているのです。脳の血流量が低下している証拠です」
ジリウスまで大真面目に分析を被せてくる。
「どっちでもないよ」
僕は苦笑しながら、二人を見つめた。
窓の外には、リュミエールの美しい夜景が広がり始めている。ガラスに映る僕たちの姿は、どこからどう見ても、ただの仲の良い友人グループのそれだった。
「ただ、みんなと一緒にいられて、楽しいなって思ってただけだよ」
そう呟くと、アルテアは一瞬だけパチパチと瞬きをして、それからいつもの無表情のまま、「了解」と小さく呟いたのだった。
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