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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
リュミエール編

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第117話:蒼い夜と乾杯の調べ

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 ギャングたちの騒動は、オーギュストさんとベアトリスさんの二人によって、あっという間に沈静化した。まさに一瞬。プロの手際というべきだろうか。芸術的なまでの迅速さで整えられた店内は、さっきまでゴロツキが凶器を振り回していたとは到底思えないほど、元の静けさを取り戻している。


 大きな窓からリュミエールの美しい街並みが一望できる、一番見晴らしのいい席。

 そこに、僕たち六人は腰を下ろしていた。


「本当に、助かりました。本日はどうぞ、当店の誇る最高のお料理を心ゆくまでお楽しみください」


 支配人の男性が、額がテーブルにつくのではないかというほど恭しく頭を下げる。

 そんな彼に、ベアトリスさんは、にぃ、と白い歯を見せた。


「いいよ、気にするな。いつも通りで頼む」

「畏まりました」


 支配人が静かに去っていくのを見届けてから、僕は隣に座るベアトリスさんに声をかけた。さっきの戦闘の最中から、どうしても気になっていたことがあったのだ。


「あの、ベアトリスさん」

「ん、なんだい? 少年」


「さっき戦ってた時、その……手甲のほかに、ご自身に『解放リリース』されてましたよね。もしかしてそれって、イグニス式の魔導演算回路ですか…?」


 僕の言葉に、ベアトリスさんは少し意外そうに眉を上げたが、すぐに面白そうな笑みに変えた。


「よく知っているね、少年。だけど、ちょっとだけハズレだ。『イグニス式』のものとは違って、私のは『セレスティア式』さ」


 そう言って彼女が胸ポケットから取り出したのは、懐中時計のような形をした、不思議な金色の紋様が複雑に刻まれた機械だった。


「確かに…ヴォルカニアで見せていただいたものとは、少し雰囲気が違いますね」


 横に座るニーナさんが身を乗り出し、物珍しそうにその機械を見つめて感想を漏らす。


「セレスティアで作られた試作品さ。ゼイルとマクシミリアンの爺さんに無理言って、特注で作ってもらったんだ。イグニス式と同じで、これも世界に数個しか存在しない代物さ」

「へぇ…そんな貴重なものを」


 僕が感心していると、彼女の隣でオーギュストさんが、懐かしそうに目を細めた。


「ベアトリスは、もともと執行者ハンターとしての素質も十分に持ち合わせていましたから。ただ、監視者ハンドラーとしての適性がそれを遙かに上回っていた、というだけのことなのです」


「爺さんがポックリ逝ったら、執行者ハンターとして活動するのも悪くないかもな」


「ベアトリス、貴女のその不謹慎な言葉遣いは、一体いつになったら直るのですか――」


「はいはい――おっと、こいつは旨い」


 オーギュストさんのいつもの小言を華麗にスルーしながら、ベアトリスさんは手元にあったグラスをぐい、と煽った。

 タイミングよく運ばれてきていたそれは、おそらく食前酒というやつ…かな。

 ガラスの器に注がれた透明感のある液体は、ルビーのように赤く、美しくきらめいている。


 僕も手元のグラスをそっと持ち上げ、一口だけ口に含んでみると、口いっぱいに華やかな果実の香りが広がる。


(…美味しい。これは、ベリー系の何か、なのかな。フルーティーだけど、カシスソーダとは全然違う。でも、具体的に何の果物かはさっぱりわからないや…)


 そんな僕の内心を見透かしたように、ニーナさんの隣で静かにグラスを傾けていたジリウスが、ぽつりと言葉を紡いだ。


「コータ。これは、フランボワーズのリキュールをシャンパンで割っているようです。実に興味深い。この特有の酸味と香りが、人間の嗅覚を刺激し、食欲を引き立てる役割を担っているのでしょう」


 ガラス越しに見えるリュミエールの街並と、レストランの豪奢な内装。それが、ジリウスの整った美形にこれ以上ないほどマッチしている。淡々と知識を披露する彼の伏せられた美しさに、男である僕ですら、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。


「おっ、さすがだね、男前。よくわかったじゃないか」


 ベアトリスさんが楽しそうにグラスを掲げる。


「こちらも、すごく美味しいですよ…! ね、アルテアさん」


「肯定。追加を所望する」


 ニーナさんが嬉しそうに声を弾ませ、その隣でアルテアが無表情のまま、すでに空っぽになったグラスを僕に突きつけてきた。


素晴らしい(セ・シ・ボン)。エルダーフラワーのドリンクですね。とても爽やかで、心が洗われるようです」


 オーギュストさんが満足げに微笑む。

 そう、3人が飲んでいるのは、すべてノンアルコールのカクテルだ。アルテアに年齢も何もないけど、一応、外見は可憐で小さな女の子だ。高級レストランで堂々とお酒を飲ませるわけにはいかない。

 …一応、ね。


 その後、テーブルには次々と芸術品のようなお洒落な料理が運ばれてきた。

 前菜、スープ…食べたことのない料理ばかりでよくわからなかったけど、おいしかったのは確かだ。メインを食べ終わった頃には、僕たちのテーブルは楽しい会話と温かな雰囲気で満たされていた。



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