第116話:優雅なる一閃は瞬く間に
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「おいおい、爺さんと女だ…」
「きへへへ…。浮いてる変な男もいるが、無視だ。まずは弱いものから…ってな!」
数十人のギャングたちが、下品な笑い声を上げながら私たちを囲い込む。
その手に握られているのは、無骨なナイフや鉄パイプ。リュミエールの美しい街並みに、どろりとした悪意が染み出していく。
「ニーナ様、下がっていて下され」
「あ、はい…っ」
「ニーナ。対象を抹消しますか?」
「待って、抹消しちゃだめ――」
私がジリウスさんを止めた直後、一人の男が下卑た笑みを浮かべて私に飛びかかって――
「待たれよ」
オーギュストさんが静かに呟き、手にしていた杖をすっと足元に差し出す。
男は躓き、無様に石畳を転がった。
「テメェ…舐めてんのか…!」
「…」
オーギュストさんは、左手で杖の中ほどを支え、右手でグリップを逆手に掴むと、僅かに腰を落として姿勢を低くした。
その構え…。
昔、おじいちゃんと一緒にテレビで見た『猛りんぼう将軍』に出てくる、凄腕の用心棒みたいだ。
次の瞬間、ドサッという音と共に、目の前のギャングが道路に倒れ込んでいた。
「えっ…?」
「仕込み杖による抜刀術と推測されます。抜刀した際の慣性を利用し、鞘部分で腹部を殴打、さらに柄部分で顎を打ち抜いたようです」
ジリウスさんが淡々と解説するけれど、私の目には何も見えなかった。ただ、杖が一瞬だけ光ったように見えただけ。
「なっ…なんだってんだ、このジジイ!」
「わかんねぇが、数で押せ!やっちまえ!!」
逆上した五人のギャングが、四方から一斉に走り込んでくる。
逃げ場はない。そう思った直後――。
「なんてことだ、年寄りによって集って…」
オーギュストさんの嘆息が聞こえた。
「一閃」
青い光が発せられた。
キンッ、という、耳に心地よい金属音。
気がついた時には、もう全てが終わっていた。
ドサドサ、と、次々に糸が切れたように倒れていくギャングたち。
オーギュストさんは、いつの間にか抜き放っていた刀身を、既に杖の鞘へと収めていた。
「ああ、おいおい、なんだこいつ…化け物かよ…!」
「やべぇ…ずらかるぞ、逃げろ!!」
「峰打ちです。寝ている方々と共に、お引き取りを」
オーギュストさんが静かに告げると同時に、お店の中からもギャングたちがゾロゾロと這い出してきた。
中にはぐったりした仲間を担いで悲鳴を上げている者もいる。
続いてコータさんたちも中から出てきた。
「クソッ…覚えてろよ!」
捨て台詞を吐きながら、ギャングたちは夜の闇へと消えていった。
「ニーナ。戦意喪失を確認。追撃し、抹消しますか?」
「だめだよ、ジリウスさん。もう十分だよ」
「了解しました」
一方のオーギュストさんは、何事もなかったかのように杖を突き、穏やかな笑みを浮かべて私の方を向いた。
「ニーナ様、お怪我はありませんかな」
「あ、はい…大丈夫、です…」
さっきまで「おじいちゃんに似てる」なんて思っていたけれど。
あんなに鮮やかな強さを目の当たりにした後では、とてもそんなこと口にできないな…。
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