第113話:導き手は、光の都にて
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クロニカとの、あの心臓が凍り付くような邂逅から一晩。
あの後、僕たちはすぐにマクシミリアンさんへ、事の顛末を報告した。けれど、ギルドの記録にも彼の名は一切なく、現時点では「正体不明の最重要警戒対象」として扱う、という結論に至った。
…まあ、あんな神出鬼没の怪物をどうやって警戒すればいいのか、僕にはさっぱり見当もつかないんだけど…。
そんな重苦しい雰囲気を見かねたのか、ゼイル議長が「リフレッシュも仕事のうちです」と、僕たちのためにホテルを手配してくれた。
ついでにセレスティアの観光でもしてくるといい、という彼の提案に甘えることにした。
そうして訪れた、夕暮れ時の「光都リュミエール」。
「すごいね…ニーナさん」
「うん…本当に、綺麗…」
これまではセレスティアを訪れてもギルド本部ばかりで、街をじっくり眺める余裕なんてなかった。
目の前に広がるのは、白亜の石造りに青いガラスが嵌め込まれた、洗練された高層ビルの立ち並ぶ街並み。街の中心には巨大な青い結晶が鎮座し、網の目のように張り巡らされた水路は、幻想的な蒼色を放っている。
僕たちの元の世界よりも、ある意味では発展しているんじゃないか。そう思わせるほど、行き交う人々もどこか洗練されている印象を受けた。
「エトワール広場は、このあたりかな。アルテア、わかる?」
「あっちだ、コータ」
どうやら案内役を用意してくれたらしく、僕たちはエトワール広場という場所で待ち合わせる予定になっていた。
あんな事件の後でも、アルテアは相変わらずいつも通りだ。なんだか、その淡々とした様子に少しだけ救われる気がする。
「わあ…すごい…!コータさん。噴水が、ライトアップされていてすごく綺麗ですよ…!」
ニーナさんが、瞳を輝かせて感嘆の声を漏らした。
広場の中央で踊る水しぶきが、青い光に透かされて宝石のように散っている。
「セレスティアは魔導技術が極めて発達した都です。兵器への転用を主としていたイグニスとは、技術の根底が全く異なります」
ジリウスさんの解説を聞きながら、僕たちは広場を見渡した。通り過ぎていくのは主に楽しげなカップルたちで、どうやらここは街でも有数のデートスポットらしい。
ちょっとだけ羨ましい気持ちで美しい夜景に見惚れていると、背後から、優雅でありながらも芯の通った男性の声が響いた。
「コータ様、ニーナ様。そして、アルテア様、ジリウス様ですね」
声の方向に視線をやると、そこには二人の人物がゆっくりとこちらへ歩み寄ってきていた。
一人は、完璧に整えられた白髪の老紳士。その洗練された足取りといい、着こなしているスーツといい、「ロマンスグレー」という言葉がこれほど似合う人も珍しい。
「やあ、少年少女」
もう一人は、鮮やかな紫色の髪を揺らし、側頭部を大胆に短く刈り込んだ壮年の女性だった。筋肉質で、なんというか、物理的にいろいろと「大きい」。
「お会いできて光栄です、皆様。私はオーギュストと申します」
「あたしはベアトリスだ。ゼイル議長から案内役を頼まれている。よろしくな」
オーギュストさんは恭しく、一分の隙もないお辞儀をして見せる。
対するベアトリスさんは、白い歯を見せてラフに手を上げた。
「はい、よろしくお願いします。…あの、お二人も、共同体なんですか?」
「その通りでございます。私とベアトリスは20年近く、ギルド、リュミエール支部を中心に活動しておりますよ」
右手にはシンプルな装飾の杖。左手で立派なあごひげを撫でながら、オーギュストさんは優雅に答えた。
「…ニーナ様? 私に何か付いておりますでしょうか」
ふと見ると、ニーナさんがどういう表情なのか…何かを探るように、じっとオーギュストさんを見つめていた。
「…あ、ああ。すみません、なんでもないです。ははは…」
「年寄りがいる共同体が珍しいんだろうよ、なあ爺さん」
「私が年を取っているのは間違いありませんが、失礼な物言いはやめたほうがよいと何度言ったら――」
「よっしゃ! じゃあ、どこから回ろうかね!」
オーギュストさんの説教を笑って受け流すと、ベアトリスさんは豪快に歩き始めた。
不安も絶望も、この賑やかな蒼い光の中では少しだけ遠のいていくような気がした。
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