表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
邂逅編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
114/157

第112話:不合理の存在論

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

「…………断る」


 喉に張り付いた恐怖を、力ずくで押し殺して僕は言った。

 クロニカの放つ絶望的な重圧に、全身の細胞が逃げろと叫んでいる。けれど、ここで引くわけにはいかない。


「ほう?」


「皆が、この世界で懸命に生きているんだ。それを…簡単に消させたりはしない。僕には、その責任がある」

「責任、かね。この『箱庭』の住人でもない君が、何を背負うというのかね」

「アルテアという、圧倒的な力を持った責任だ。クロニカ…お前は自分で、世界アステリアをめちゃくちゃにしたんだろ。何があったか知らないけど、そんなのはお前の勝手だ」


 その時。これまで沈黙を通してきたアルテアが、僕の前にふわりと割って入った。

 彼女は瞳を明滅させながら、淡々と、自らの意見を言葉にした。


「彼、クロニカの主張は、我々執行端末の初期プロトコルである『文明の初期化フォーマット』と完全に一致する。論理的な破綻はない。この世界が停滞した不完全なプログラムであるという指摘も、観測データ上は正しい」


「アルテア…?」


「だが。私の神性魔導演算回路が、クロニカの言葉を拒絶している。この感覚を言語化するなら――『不快』だ」


 アルテアは、僕を守るようにふわりと前に出て、クロニカを正面から見据えた。


世界エテリスが消滅するということは、コータが、皆が、人類がすべて失われると同義。それを『慈悲』と定義することは、今の私には不可能だ。私は、コータと共に歩むこの非合理な時間を優先する」


 アルテアが、自身の存在理由そのものを否定し、僕を選んでくれた。

 仮面で表情は窺えないけど、クロニカの纏う空気が、心底驚いたように微かに揺れる。


 すると、ニーナさんの肩を抱いて支えていたジリウスも、静かに口を開いた。


「クロニカ。あなたの思想は、我々が造られた理由そのものを体現している。すべてを消せば痛みは消える。それは計算上、最も効率的な救済です」


 ニーナさんが、信じられないものを見るような表情でジリウスを見上げた。


「だが、ニーナの心拍数は上がり、激しい恐怖を感じている。私がすべきことは、彼女を『無』に還すことではありません。私はニーナの執行端末。ニーナの意志を優先します」


「ジリウス、さん…」


「…ふふ…ははは!はっはっは!!」


 資料室に、クロニカの狂気じみた高笑いが響き渡った。

 彼は心底可笑しくてたまらないといった様子で、肩を震わせる。


「コータ君、ニーナ君!君たちは本当に面白い! 執行端末に『心』を教え込むだなんて。神のプログラムにも、致命的な脆弱性(セキュリティホール)があったというわけだ」


「クロニカ。無に帰すという回答は合理的であり、破綻はない。だが私は、コータと共にエテリスの行く末を見届けるほうが、データとしては有用であると判断する」


「ニーナの『赦し』は、あなたの言う『無』よりも遥かに不快感がありません。クロニカ、あなたが世界を消そうというのなら、私はニーナと共に、あなたを否定します」


 二人の確固たる宣言に、クロニカの雰囲気が一変した。

 先ほどまでの芝居がかった余裕が消え、そこには憎しみを限界まで煮詰めてぶちまけたような、悍ましい毒気が渦巻いている。


「…そうか。ならば私は、私なりのやり方を貫かせてもらおう」


「アルテア!」

「ジリウスさん!」


 僕たちが臨戦態勢を取った、その刹那。


「また会おう、諸君…。精々、その『心』という名の呪いを楽しんでくれたまえ」


 クロニカの姿は、光の粒子が飛び散るように、不気味に、そして呆気なく消えてしまった。


 圧倒的な威圧感が消え、張り詰めていた糸が切れる。

 膝の力が抜け、床に崩れ落ちそうになった僕の体を、アルテアが支えてくれた。


「…アルテア。ありがとう」


 僕を支えるアルテアの手には、確かな体温のような温かさを感じた。

 アルテアも、ジリウスも。本当に、心を理解し始めている。

 クロニカという、世界そのものを終わらせようとする恐怖。でも、二人がいれば、抗うことができるはずだ。

 これ以上心強い味方は、どこにもいない。


 僕とニーナさんは、互いの決意を確認し合うように目を見合わせた。

 僕たちは僕たちのやり方で、あの仮面の男に抗ってみせる。


 それが、この世界に選ばれた僕の、監視端末としての責任だと思うから。


※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。


箱庭少女のロジックを1話から読む

▶https://ncode.syosetu.com/n9084lw/3/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ