表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
邂逅編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/150

第108話:平和への鍵

 ガクガクと震える膝を押さえながら席に座ると、視界が急激に白んでいくのを感じた。自分が何を口走っていたのか、正直もう覚えていない…。でも、胸の中に溜まっていた思いは、すべて吐き出せた。そんな確信だけはあった。


 隣で立ち上がったニーナさんの表情は、いつになく凛としていて、そして力強く見えた。


「私は、イグナートさんの手で、執行端末であるジリウスさんの監視端末として、この世界に呼び出されました」


 静かだけど、法廷の隅々まで届くような透き通った声。

 彼女は、自分が受けた凄惨な仕打ちを、一つひとつ紐解くように語り始めた。


「洗脳…操られる直前、彼女は私に言いました。世界は管理されなければならないと。統一による治安維持が必要だと…」


 ニーナさんは一度言葉を切ると、イグナートを真っ直ぐに見つめた。


「先ほどの説明にもありましたが、イグニスの内戦は、彼女の手により終結しました。目的達成のため、道徳や倫理を無視し、手段を選ばない冷徹な思想。…でも、彼女が平和を求めて尽力したことは、揺るぎない事実です」


 イグナートの眉が、微かに動く。


「けれど…いくら崇高な目的があったにせよ、私は彼女の手段を正当化することはできません。私の人権を踏みにじり、罪のない人々を大量に…。私も、彼女を許せない…」


 声が震え、言葉が詰まる。それでもニーナさんは、溢れそうになる涙を堪えて続けた。


「極端に合理性に偏った思想。…でも、コータさんも言うように、彼女は本気で争いを無くそうとしていました。自らの凄惨な境遇を糧にして…」


 ニーナさんの大きな瞳から、一筋の涙が頬を伝って落ちた。


「憎しみは、さらなる憎しみを生みます。…それは、私だって同じ。彼女が憎い。心から…」


 それは、奪われた尊厳への悔しさなのか。それとも、孤独を抱えて生きてきたイグナートへの、同情なのか。僕には、わからない。

 でもニーナさんは、震える唇を開き、この場にいる全員が予想だにしなかった言葉を紡ぎ出した。


「でも…私は、彼女を――」


 ニーナさんは、イグナートさんを。


「――許す…いえ、赦します。だから、どうか…情状酌量の余地を。彼女の功績を、汲み取っては、もらえませんか」


 大議事堂が、爆発したようなどよめきに包まれる。


「静粛に!」


 マクシミリアンさんの制止さえ、その熱狂を抑えることはできない。呆然とした顔で、イグナートさんがニーナさんを問い詰める。


「ニーナさん…私は、君を利用したのだよ?」

「わかっています」

「そんな私を…赦すというのかい?」

「はい」

「頭のねじが、外れているのかね」


 自嘲するようなイグナートさんの言葉に、ニーナさんは涙を流しながら…、笑いながら、そう言った。


「いいえ。赦すことが、平和の第一歩だと思います。大丈夫です、きっと」


 イグナートの表情は、僕の位置からはよく見えない。怒っているのか、泣いているのか、それとも呆れているのか。

 そして、僕は、ニーナさんをなんて強い女性なんだと思った。

 本当なら、内臓が焼けるほどに憎いはずだ。ありていに言えば、殺したいほどに。

 それなのに、一番の被害者である彼女が、赦すと言ったんだ。


「……っ」


 不甲斐ないことに、僕の目からも涙が溢れて止まらなかった。


 マクシミリアンさんは、安堵したような、それでいて何か深い思案に沈むような、複雑な表情を浮かべていた。アッシュさんは目を見開き、信じられないものを見るようにニーナさんを見つめている。アウレリウス王だけは、忌々しいものを見るように、今なおイグナートを睨みつけていた。


 全ての力を使い果たしたように、ニーナさんは椅子へとへたり込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ