第104話:乙女心と理系なグルメ論
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わいわいと騒がしい喧騒の中、私はコータさんに今日のオーティスでの出来事を教えてもらっていた。
「…という訳らしいんだ」
一通り話し終えた後、コータさんは串に刺さったお肉とお野菜をぱくりと口に入れ、もぐもぐと咀嚼している。
「そっか。コータさんは正史と真実のズレに違和感を覚えた…そして、実際にタエさんはアルトリウス家によって歴史の闇に葬られていた。なるほど…」
「意図的に隠蔽されたのかどうかはわからないけど、結果的にはそういうことみたいだね」
神魔大戦で生き残ったタエさんは、極東の地『ヤシマ』で独自のコミュニティを構築したのかな。
そう、まるで私たちの生まれた、日本のような…。
「ウォルターさんとの戦いで、たくさんの人が亡くなるような酷い経験をしたんだよね。だから、英雄として祭り上げられて、またあの悲惨な大戦を思い出すようなことはしたくなかったんじゃないかな…」
「そうなのかもしれないね。本人が居ない以上、今となっては真実はわからないけど。いずれにしても、近々ギルド本部から正式に招集されるはずだから、本部の資料室も見てみよう」
少しだけ翳った顔で考え込む私に、コータさんは手元のエールを一口飲み、優しく言ってくれた。
「うん。それにしても、そのサクラさんって女性、気になるなぁ…。ナギさんって関西弁でちょっと怖そうに見えるけど、話してみるとすごくかっこよくて、いい人だよね。気になっちゃうのは、なんだか分かる気がするな」
世界の歴史を揺るがすような重大な事実よりも、どうしても同性の他人の恋路の方が気になってしまった。
誠実に対応したナギさんも素敵だけど、女の子としては、もう少しだけ優しく…オブラートに包んでほしいな…と、同じ女性目線では思ってしまう。
「そう!バーのマスターなんて、その話を聞いて号泣しててね!」
「うふふ」
「このまま依頼をこなしながら色んな場所を回っていけば、どこかでサクラさんに会えるかもしれないね」
「うん、幸せになってるといいなぁ」
この広い世界のどこかで、ルーツを探して旅をしているかもしれない彼女に思いを馳せながら、私は手元の果実水をゆっくりと飲んだ。
◇
楽しい時間はあっという間だった。
みんなで協力して後片付けを終えた後、それぞれが帰路につく準備を始める。
「みなさん、今日は楽しかったです!」
「コータとニーナは、ここのギルドの宿舎だったか」
デリクさんが豪快に笑いながら言う。その隣でエレーナさんが「お肉、いっぱい食べてくれて嬉しかったです」と微笑んでいる。さすが焼肉奉行、お疲れ様です。
「はい、私にも一室、貸してくれるってことだったので」
「コータさん、また呼んでくれよ!ほらカレン、帰ろうぜ!」
「もう、また失礼な言い方…。コータさん、ニーナさん、今日は本当に楽しかったです。ではまた」
礼儀正しくぺこりと頭を下げるカレンちゃんに対し、カイト君は元気いっぱいに拳を突き上げた。
「男は筋肉だ!」
「ははは…」
謎の言葉を残して風のように去っていったカイト君の後ろ姿を見送りながら、カレンちゃんも色々と大変そうだな…と少しだけ同情してしまった。
「ニーナちゃん、ありがとう。楽しかったわ」
「クローディアに色々教えてもらいました」
クローディアさんに連れられて戻ってきたジリウスさんは、表情こそいつも通り無機質だけど、どこか満ち足りたような…ホクホクとした空気を纏っていた。よくわかんないけど。
「うん、クローディアさんもありがとうございました」
「ジリウスさん、また飲みましょう。コータさんも、ね」
「はい、また」
クローディアさんと別れの挨拶を交わしていると、不意に真横から鋭い風切り音が響いた。
「違うネ、アルテア!衝捶はこうアル!…イアァ!」
ドゴォッ!
「ゲフゥッ」
実演として放たれたシャオさんの右ストレートが、何故かコータさんのみぞおちにクリーンヒットした。
「コータさん!?」
「なるほど、シャオ。こうか…」
ズゴォッ!
「グフッ…」
アルテアさんの鋭い突き、というか無慈悲な突撃が、悶絶するコータさんにさらに突き刺さる。
「ちがうネ!掛け声は必要アル!コータ、気合は必要ネ?あれ、コータ?」
「もうやめて…コータさんの体力はゼロです…」
シャオさんは完全に酔っ払っているみたいだけど、アルテアさんまで…楽しかったのかな…いや、でもコータさんが死んじゃう…。
「はぁ、もう。帰るわよ、シャオ」
「えぇー、まだ飲むアルゥ…帰るには早いネ…あ、コータの部屋に泊まれば!」
「ダメよ。一応、あなたも女性でしょ。ごめんね、ニーナさん。また、遊びましょう」
「あ、はい、では…」
「やぁだぁ…まだ飲むヨ!やだやだ!」
駄々をこねてグズるシャオさんの首根っこを掴み、呆れ顔で引っ張って帰って行くクローディアさんの姿は、まるで手のかかる子供の世話をするお母さんのようだった。
「アルテアさん、コータさんを部屋までお願いしますね…」
「了解、ニーナ」
ぐったりして白目を剥いているコータさんが、アルテアさんの反重力魔法でふわふわと宙に浮いて運ばれていく。
皆が帰り、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った中庭に、私とジリウスさんだけが残された。
「たのしかったですね、ジリウスさん」
「楽しい」
「ジリウスさんの『好き』も見つかりましたし」
「好き」
ぽつり、ぽつりと。心地よい夜風に吹かれながら言葉を交わす。
「ちなみに、何が一番おいしかったですか?」
私が笑顔で尋ねると、ジリウスさんは少しだけ考え込むように視線を落とし、真剣な声で答えた。
「ホタテと白ワイン。そして、イカとエールですね。相補作用、ウォッシュ効果、そしてフレーバーの同調――化学的な中和作用によってネガティブな風味を抑制しつつ、味覚受容体における相乗効果によってポジティブな刺激を最大化させるプロセスは、非常に興味深いデータでした」
「…難しい話はよくわからないけど、楽しかった、というのは伝わりました」
あまりにも理系的すぎるグルメレビューに苦笑いしてしまうけれど、彼が新しい感覚を得たことは確かだ。
「これは探求のし甲斐があります。ニーナも、アルコールを摂取しましょう」
「私はまだ未成年なので…2年後かぁ。一緒に飲めたら、もっと楽しいかもですね」
このエテリスに『未成年』なんていう概念があるのかは知らないけど…でも、いつか一緒にお酒、飲めたらいいな。
「私たちも、帰りましょうか」
「了解、ニーナ」
静かな夜の空気を胸いっぱいに吸い込み、私はジリウスさんと並んで宿舎への歩みを進めた。
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