第102話:夢の続きは世界の中に
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「――その後は、ヴィクと共同体として正式に活動開始した、っちゅうわけや。なんで『王家の直属』かやけど、そもそもヴィクが王子やからやな。んで俺自身、『タエ』の話が気になったのもあるし、レガリスの中枢に入り込んでみるか、って具合や」
「なんだか、すっごく甘酸っぱくて…聞いててドキドキしました」
「ズズッ…ひっく…」
僕が素直な感想をこぼすと、カウンターの隅から鼻をすする音が聞こえた。見れば、初老のマスターが、目元をハンカチで懸命に拭いながら男泣きしていた。ひっそり聞いてたのか…というか、感受性豊かすぎないか、マスター。
「えぇ…そっちの話はただのおまけやねんけど…」
ナギさんが呆れたようにツッコミを入れる。
「あ!そういえば今日、僕がギルドでナギさんのことを聞いた受付のお姉さん!もしかしてあの人が、サクラさん――」
「ちゃうで」
「えっ」
僕の推理は、あっさりとナギさんに否定された。
「あいつも数年間は王都の受付嬢をやっとったけど、色々あって辞めてもうたんや。『自分のルーツは、自分の足で世界を回って探す』言うてな」
「そうだったんですね…」
「まあ、どっかで元気にやっとるやろ」
そっか。サクラさんは、自分の夢をちゃんと叶えに行ったんだ。
「そうですね。…今日はすみません、お休み中にお邪魔しちゃって」
「ええねんええねん。この大陸を救った英雄様の頼みとあらば、いつでも聞くで」
「やめてくださいよ…」
からかうように笑うナギさんに、僕は苦笑いで返した。とりあえず、僕が確認したかった『歴史の矛盾』についての謎は一つ解決した。王族の真意について、ヴィクトールさんにも直接聞いてみたい気はするけれど…でも、彼の一族の根幹に関わる繊細な話だし、ちょっとタイミングを図ってから聞いてみようかな。
「アルテアさんも、長話に付き合わせてすまんかったな」
ナギさんが横に座るアルテアに声をかける。すると、ずっと黙っていたアルテアが、スッとナギさんの方を向いた。
「ナギは何故『サクラ』の交際の申し出を断ったのか。その論理的根拠を教えてほしい」
「えぇ……自分もそっちの話に食いついてくるんかいな。…すまん、コータ君、あとの解説は頼んだわ」
「人類の言語データ、ヤシマの古いことわざに曰く『据え膳食わ――』」
「はいはい!アルテア、帰ってから僕がちゃんと教えてあげるから…!」
感情を学習しようとしているのはいいことなんだけど、その不適切なことわざはどこで覚えてきたんだ…!いい話が台無しだよ…。
僕は慌ててアルテアの口を手で塞ぎ、立ち上がった。
「じゃあ、僕らはここで失礼します。マスター、お会計を――」
「ええで、ここは俺が払とくから」
「えっ、いいんですか…すみません…、ごちそうさまでした」
「おう。また、いつでも遊びに来てや」
ありがたくナギさんに奢ってもらい、僕たちは隠れ家のようなバー『エクリプス』を後にした。
◇
「アルテア、取り合えずゼノスに戻ろう。皆がバーベキューの準備して待ってるよ」
地上へと通じる階段を上りながら声をかける。
「コータ、私の疑問が解決していない。生殖の機会を自ら放棄するナギの行動原理――」
「はいはい、飛びながら教えるから、ね」
全く悪気のない、純粋な知識欲に満ちたアルテアの追及をいなしながら、僕は茜色に染まり始めた王都の空へと飛び立った。
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